第四百七十三話 VRバラメシオンと眷属バラメシオンの違い
バラメシオンのパイロットはノワールという女性で、ワインレッドのロングヘアがよく似合うおっとり系の女幹部だ。
豊かな胸部装甲を持つ大人のお姉さんという見た目だが、実はかなりの食いしん坊キャラであり、敵ながらちょいちょい日常回に登場しては竜也達と大食い対決をしてしまうような憎めないキャラであった。
『あら、どうして貴方達がこのお店にいるのかしら?』
『それはこっちのセリフよ! 竜也! 迅! 謙一! やるわよ!』
『やるわよって飯屋で何しようってんだよ、雫』
『何って、ノワールよ? ここで仕留めておくべきなのよ!』
『全く……お嬢ちゃんはここが何のお店なのか忘れているようね? 私だって空気くらいは読めるわ……というか、非番の日にわざわざ仕事なんてしないわよ。馬鹿らしいじゃない』
『なっ……』
『そういうわけだ、ただ、会っちまった以上なにもしねえわけにはいかねえ。そこで雫。ここは俺とノワールで大食い対決と行こうじゃねえか』
『た、竜也!?』
『うふふ……だから貴方は好きよ。いいわ、非番の日に相応しい方法で叩きのめしてあげる』
なんて具合にカツ丼大盛り対決や、カレーライス大盛り対決、お好み焼き耐久バトルなど……街でノワールと遭遇した時点でギャグ回が確定してしまうほど、非番時のノワールは穏やかなキャラで、これまたリムワース同様に大きなお友達のファンが多数ついていた。
しかし、そんなノワールもシリアス回には豹変してしまう。むしろコチラが真の姿と言うべきなのだろうが、彼女が乗る真紅の機体、ノワール専用機バラメシオンは腰にミサイルポッドを備え遠距離から牽制し、懐に飛び込もうとすれば手に持つ槍でブスリとやられてしまうのだ。
そして飛行タイプということで、空戦を得意とする彼女は高機動のバラメシオンで踊るように天を舞い、しばしば竜也達を翻弄していたっけな。
さて、俺の目の前にいるバラメシオンはどうだろうか。以前、仮想空間で戦ったバラメシオンはきちんとノワールまで再現されていて、中々に手強く、カイザーアルティメットの力を手に入れ、漸く斃した相手であった。
一度倒した相手だからと、余裕の考察をしていたわけだが……今相対しているバラメシオンは以前戦ったものより手強いようだ。パワーアップをした? いや、そうではないだろうな。強さの理由は恐らく――
「ええ、それが正解でしょうね。訓練で戦ったバラメシオンはパイロットレベルまで再現された物で、ある意味では本物と言える存在でした。しかし、今戦闘中のバラメシオンはその姿を模した眷属であり、パイロットが乗っていませんから」
「パイロットの存在は俺達にとって有り難いものだが、場合によっては枷となる、そういうことだな」
「レニー、これは他所の話でうちの話ではありませんからね? カイザーには貴方と私が突いていなければダメなのですから」
「わかってるよお姉ちゃん。私のことは良いから続けて……っと、危ない危ない!」
こちらに飛んできたミサイルをレニーが危なげに躱す……現在何をしているかと言えば、バラメシオンから距離を取りつつ、作戦会議中なのである。何を悠長な……と、思うかも知れないが、今説明している通り、少々予定が狂ってしまった。それをどう修正するか、改めて敵データを収集しつつ作戦を練っているというわけだ。
現在我々が戦っている幹部機にはパイロットが搭乗していない。これは戦闘が始まってからフィアールカから届けられたデータによって判明したことだ。
もしかすると、今日この日まで幹部達が姿を現さなかったのは、パイロットの再現もルクルァシアが狙っていたからでは無かろうか。しかし、それは叶わなかった。いくら加護を与えて眷属化した存在であっても、元は人間だ。ベースとなる者が存在しない以上、同等の者を再現するのは不可能だろう。
もしかすると、スレイブ達は幹部創造の副産物なのかも知れない。加護の一部を与え、新たな幹部として幹部機に乗せようと考えた。しかし、出てきた物はどれもが不完全な者ばかりで、とても実用に耐えうる者では無かった。
作中の敵幹部は、終盤に異形と化してしまってはいたが、それまでは竜也達と何ら変わらない普通の人間だったからな。ただの傀儡には彼らの代わりは務まらないだろうさ。
なんてたって、異形と化しても意識を保てる強靱な精神力を備えていたからな。正に敵ながらあっぱれ、それでこそ俺達の好敵手と言ったところだ。
そんな幹部達をどうにか再現しようとルクルァシアは頑張ったが、それはやっぱり叶わなかった。ならばどうしたかと言えば、そこで役だったのは俺から盗んだデータなのだろう。俺の記憶として保存されている作中の戦闘データを元に、簡易なロボットAIを組み立ててしまったのでは無かろうか。
俺達のように意思を持っているとまでは行かなくとも、眷属機とは違う、臨機応変な戦いを可能とする上位機種を創造したのではなかろうか。
そして、苦肉の策であろうそれが逆に良い効果となってしまった。
「パイロットとは目で見て音で聞いて、そして感覚で判断をして機体を操縦する存在です。今のように飛来するミサイルの存在を目視で確認、その軌道やシステムアラートにより被弾を予想、適切な回避方法を思考し、実行すると言うプロセスで『ミサイルを躱す』と言う行動を取るわけなのですが、自分の体を動かすのとは違い、操縦の分だけ動作にラグが生じてしまいます」
「VRバラメシオンも強敵だったが、ノワールの性格から出る油断がちょいちょい見られたからな」
「はい。パイロットが操縦する以上、どれだけ熟練していても何かしらの隙が生じてしまうわけです」
「つまり、あのバラメシオンはそれ自身が眷属だからラグもなく、無駄な思考も無く、スキが産まれにくいってことなのかな?」
「そうですね、流石レニーです。そして、パイロットが居ない事による利点はもう一つあります」
「……安全マージンをガン無視した無茶な機動が出来る……ということだな?」
「はい、カイザーもたまにはやりますね。その通りです。我々の機体はパイロットへの負担を考慮し、コクピット内に生じるGや衝撃をある程度軽減するように設計されています」
「が、それも万全ではない。それはレニーも身をもって知っているだろう?」
「はい。攻撃を受ければガツン! と衝撃が来るし、無理に避けるとお腹がグワー! っと締め付けられて頭がズーンとします!」
「はい、よく出来ました。しかし、それ以上酷いことにならないよう安全装置が働いています」
「カイザーさんやケルベロス達はもっと無茶な動きが出来るってこと?」
「パイロットが居なければそうなるな。しかしな、機体にだって負荷がかからないわけじゃない。安全装置はパイロット、機体。その両方を気遣っているんだよ」
パイロットが存在しない『眷属バラメシオン』はそれを気遣う必要はなく、また、魔獣のように本能で動く眷属は我が身を気遣うと言う思考に至らない。
火事場の馬鹿力というのは、極度の興奮時、一時的に身体のリミッターを外して普段は身体の負担を考慮して出し切れていない力を出すものだと言われているが、現在我々の前に立ちふさがっている幹部機達はそのどれもが常時リミッター解除をしている状態と言っても過言ではない。
勿論、これまで散々倒しまくってきたバーサーカーやワイトにも同様の事が言えるのだが、あれらはAIがお粗末だったからな。あれを見てしまえば、パイロットが不在である事がここまで脅威となるとは思えるはずが無い。
戦いが長期化すれば無理が生じて自滅する可能性は高いが、このままでは先に我々がやられてしまう可能性も無くは無い。
事実、2対1だと言うのにミシェル達は中々に苦戦をしているようだ。
だがしかし。我々とて以前のままではないのだ。俺達は日々成長を続けている……いや、今この瞬間も成長を続けているんだ。
「スミレ、データの収集は済んだな?」
「はい。眷属バラメシオンの戦力データ、解析終了しました」
「ようし! ではレニー、スミレ。これより反攻に転じる。ゆくぞ!」
「「了解!」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます