第四百七十二話 カイザー分析に夢中になる
作中では敵幹部、シャナールが搭乗していた機体ラタニスクは射撃タイプの機体である。腰の左右に大型のフォトンランチャーが据え付けられていて、その反動を受け止めるために大きめの脚部を持つ火力重視型の機体といえる。
さらには実弾兵器としてミサイルポッドも両腕に装備しているため、そこから放たれるミサイルで弾幕を張り、敵の行動に制限をかけてフォトンランチャーで狙い撃つという嫌らしい攻撃をしてくるのだ。マシューも後継機を得ていなければきっと苦い顔をしたことだろうな。
幹部の機体はプラモや稼働フィギュアにはならなかったのだが、後日大人向け価格の食玩として発売され、俺を含むファンを大きく喜ばせる事となった。おもちゃとして見ている分にはとても良い機体だったが……こうしてリアルに登場されると非常にうんざりとする……いや、本音を言えば……少し興奮をしてしまっているけれど。
他の幹部機もそうだが、VR空間で見たものよりもなんというか、現実感があるというのだろうか? 某機動戦士のフルスケールモデルが展示された時は興奮したものだが、あれと同様のリアリティ、いや、実際に兵器として稼働しているのだ。厳密にいえばルクルァシアが生み出した眷属であり、中身は全くの別物なのかもしれないが、見た目的にはほぼ完ぺきに再現されている! あれを目にして感動しないファンがいるだろうか? いや、居ない!
……と、話がずれたな。
ラタニスクにマシューが乗るケルベロスとシグレが乗るフェニックスを当てたのにはきちんとした理由がある。
純粋な射撃タイプのラタニスクを相手取る場合、まず合体をしていない状態のカイザーではお話にならないため、対戦相手として除外される。悲しいかな、汎用型のカイザーでアレに勝てるビジョンが浮かばない。相手取ったとしてもきっと時間稼ぎにしかならないだろう。
そこで3門のフォトンランチャーを備えるケルベロスを出したわけなのだが、それなら、フェニックスではなく、同じく多くのランチャーを備えるヤマタノオロチの方がパートナーとして適しているのではないか? 2機で弾幕返しをすれば、より万全ではなかろうか? そう考えたくもなるのだが、今回相手取る敵幹部は1機だけではない、夢の全機登場なのだ。
そう、他に厄介な幹部『シャーシル』も居るわけで、ミシェルにはそちらにあたってもらわなければいけない理由があったため、代わりにシグレを配置したのである。
特にきちんと作戦を伝えたわけではないのだが、ケルベロスが射撃で牽制し、フェニックスが高機動を生かした攻撃で敵の弾幕を効果的に使わせないよう、逆に動きを制限させていくのが理想だな。
マシューとケルベロスの面白いところは機体自体は射撃タイプなのに、パイロットがバリバリの近接タイプという所だ。パイロットの技術のおかげで、実戦に耐えうる近接攻撃も可能なのだ。射撃で牽制をしつつ、隙を見て懐に潜り込めれば、こちらの物。ズシンと良い一撃を入れてくれるに違いない。
ラタニスクは高火力射撃特化タイプ故に、懐に入られれば事実上弱体化する事になる。接近戦に弱いので近寄らせないぞ、これだけ撃てば寄れないだろう! なんて、なんともせつないコンセプトの元で作られた機体がラタニスクなのだ。であれば、遠距離攻撃と近接攻撃を可能とする
想定通り、マシューが遠距離より2門のランチャーで牽制し、シグレがひらりひらりと視界を横切り邪魔をしているのが見える。傍から見れば時間稼ぎにも見えるが……ラタニスクが焦れて動けば勝負は一瞬で決まるだろうな。
さて、ミシェル達が相手取るシャーシルだが、これはラタニスクと反する機体で、近距離特化型の機体である。こいつの特徴として挙げられるのはやはりサブアームの存在だろう。
二振りの刀を操るこの機体はゴツめのラタニスクとは違い、スマートなデザインをしていて、女王様タイプのパイロット、リムワースが乗っていた事もあって、機体デザインの良さと相まって大きなお友達から多くの支持を受けていた。事実、某フェスタに出展された『シャインカイザー』版権の割合をみれば、敵勢力の中ではシャーシルとリムワースのフィギュアが一番多かったと記憶している……と、そうじゃないな。
ミシェルは以前、シミュレーターでシャーシルと戦ったことがある。それも今回あたらせた理由の一つに挙げられるのだが、本番とも言えるこの戦いでは、サブアーム――フォトンランチャーでの攻撃はあくまでも補助に止め、なるべく控えるようにと指示をだしている。
ミシェルは良くも悪くもまじめな性格をしている。そんな彼女が帝都からほど近いこの場所でフォトンランチャー主体の攻撃をしようとすれば、きっと街への誤爆を気遣い、余計な隙を作ってしまうことだろう。
街の被害を気遣う心は大いに褒められる事だが、それによって我が身を危険に晒してしまっては本末転倒だ。その辺りにおいて割り切れるマシューは強い――まあ、少しは気遣ってほしいところだが――ため、マシューには特に言いつけはせず、好きなように暴れてもらっている。
そんなミシェルでも近接であれば周りを気遣う必要はなくなるだろう。大分錬度が上がった刀術を用い、二振りの刀でシャーシルと打ち合ってもらうのだ。
ただし、このシャーシルは先に言った通りサブアームを備えている。以前のシミュレーターでもミシェルが苦しめられた様に、こいつは追いつめられると腕を2本増やし、4刀流にフォームチェンジをして手数を増やしつつ、さらに剣速を上げるという非常に厄介な機体だ。
それに対応させるためにつけたのがキリンなのだが、正直彼女がどうやってミシェルのサポートをするのかはわからない。何故キリンを付けたかと言えば……言えば怒られそうだが、キリンが『任せたまえ』と手を上げたため、それならばと選んだに過ぎない。
一応言い訳をすれば、キリンが手を上げた以外にも、消去法でそうするしか無かったとも言えるのだ。俺の相手、バラメシオンは飛行タイプ。それに対応できるのは飛行ユニットを備える俺とフェニックスくらいのものだ。
そのフェニックスはラタニスクに当たっているため、残る機体は俺となるわけなのだが、もしもキリンをパートナーとして連れてきたとしても彼女に出来ることは無いだろう。
バラメシオンとの戦いは機動力での勝負になる。キリンも様々な装備を持っては居るが、バラメシオンの機動力を前にしてしまえば、キリンは手も足も出せないだろうからな。
なので、遠慮無くミシェルのパートナーにあてがった……と言うのも理由の一つでもあるのだが、キリンには恐ろしい知恵と秘密メカ、そして二人のパイロットの存在があるからな。
キリンの能力はいまだ俺も理解が及ばない部分が多い。きっと今回も何かやらかしてくれるだろうと期待を込めての選択なのだ。決してノリと雰囲気だけでミシェルと組ませたわけではない。
……スミレが何か言いたそうに見ているが……まあそう言うことなのだ。キリンもああ言っているんだぞ? きっと何か秘密の作戦を用意しているはずさ。
「いえ、それは別に構いません。そうではなくて、そろそろカイザーにも戦闘に参加してもらいたいのです。バラメシオンはレニーだけではちょっとキツい相手なのですよ」
そうだな、俺たちの戦いもすでに始まっているのだ。ついレニーに頼り切って敵幹部戦の考察に夢中になってしまっていたが……レニーに悪いことをしてしまったな。
「すまない! 少々戦況の分析に夢中になってしまった」
「もー! カイザーさん、ずるいですよ! あたしだってじっくり観察したいのにって、あっぶな! カイザーさん、このバラメシオン、訓練のより強いですよ!」
「そのようだな! ここからは俺も共に戦う! さあ、俺達の力を見せつけてやろう!」「はい、カイザーさん!」
さあ、こちらは1機だが、どうとでもやりようはある! ゆくぞ、バラメシオン! 中身の無い偽りの命、ここに散らして天に還してやろう!
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