第四百七十一話 幹部とは

 アニメのキャラクターという、実在しないもの、それもロボットという生命体ですら無いものに転生をしたいという俺の望みはどう考えても酷い無茶振りだった。


  どうやったのかはわからないが、それをあっさりと実現してくれた神様は、カイザーの有能な相棒戦術サポートAIスミレは勿論の事、カイザーがシャインカイザーとなるために必要な僚機達、そしてグランシャイナーやポーラ……さらには俺が日本で見ることが叶わなかった劇場版での追加キャラクター、キリンとフィアールカまで用意してくれたのだから頭が上がらない。


 更に言えばグランシャイナーの運用に欠かせないクルー達――モブではあるがれっきとした作中の登場人物達ですら『実在する人間』として此方の世界に転移? 創造? 兎に角、喚びだしてしまった。


 そんな気配り上手な神様的存在は……ありがた迷惑なことに宿敵、邪神ルクルァシアまで用意してしまった。しかし、その有能な部下である幹部達は元が人間だったせいなのか、そもそも召喚されてなかったのかは解らないが、これまで姿を現すことは無く、いつしか俺達の中でも居ないものとして扱われていたのだ。


 敵幹部達も中々にあくが強いキャラクター達だった。敵として戦う相手ではあったが、視聴者達からもそれなりに人気が出るほどに。そんな連中の事だ、もしもきちんとこちらの世界に現れていたならば、現在も普通に生き残っていたのであれば、このタイミング以前に俺達の前に姿を現し、戦いを挑んでみたり、街でしょうも無い悪さをしたりと、アニメ同様の行動を取っていてもおかしくはない。


 奴らはルクルァシアの従順な眷属とはいえ、きちんとした自我を持っていたのだから。


 それに……神が密かに仕込んでいた時限解放式の『神託データ』を見る限り、これまでルクルァシアは単独で行動し、手足として使っていたのは眷属や洗脳した帝国の人間達だけであり、アニメの世界から連れてきた幹部の存在は一切存在していなかった筈である。


 つまり、現在我々の前に対峙している幹部とそのお供である上級兵達が乗る機体は…………。


「俺の予想だと以前この機体が侵蝕された事が関係していると思うのだが」

「奇遇ですね。私もそう思っていた所です……というか、それ以外無いでしょう……こんな感じかと」


 スミレの導き出した分析結果がリンクされ、データとして流れ込んでくる……うむ、概ね俺が予想したとおりの分析だ。


 以前この身体はルクルァシアによってスミレごと奪われてしまった。それによって俺は一生かけても払拭できない弄られネタ……ルゥという存在が生み出されてしまうこととなるのだが、それは置いておこう。


 問題はこの身体が侵蝕されてしまった事だ。OSにコンピュータウイルスのようなノリで侵蝕したルクルァシアは我身を削って生み出した分体を使い、好き勝手に俺のシステムを掌握していたわけだ。


 肝心な最後の砦はスミレのお陰で護られ、完全に乗っ取られてしまう事にはならなかったが、俺のデータが蓄えられていたストレージは結構な割合で侵蝕されていたわけだ。


 ずっとモヤっとしていた事であり、覚悟はしていたのだが、こうして実際に想定通りに事が運ぶとじわりじわりと怒りが沸き起こる。

 

 ルクルァシアは俺のデータを読んだ……いや、コピーしたのだろう。スミレが護りきった肝心な部分には俺を構成する重要機密も収められているので、それを盗まれなかったのは不幸中の幸いだったが、盗まれたデータ、それはそれで問題があったのだ。


 そのデータ――『私の記憶』には『真・勇者シャインカイザー』の情報も入っていたはずだ。他の有象無象の記憶データをルクルァシアがどう捕らえたかは分からないが、不完全だったであろうルクルァシアの知識を補う形でコピーされたデータには奴が従えていた兵士や幹部の情報もあったのだろう。


 この世界に居るルクルァシアがどの段階の奴なのか、それはわからない。最終決戦前、作中のカイザー達に討ち滅ぼされる前の奴なのか、討ち滅ぼされた後に生き返った扱いなのか、スミレのように作中の記憶を持たず、産まれたばかりの存在なのか。


 なので、奴が部下のことを知っていたのかどうかはわからない。けれど、少なくとも俺の記憶をた事で、奴は識ってしまったのだ。自分には有能な部下がいたのだと。


 しかし、直ぐにそれを創り出すことは出来なかったのだろう。幹部は元人間で、一からルクルァシアが創り出した者では無いし、それらが搭乗する機体も幹部やその部下達が開発した機体にルクルァシアがを与えて創りだした物なのだから。


 故に俺から盗んでいったデータを分析し、帝国の機兵技術と統合することによってようやく実装する事が出来た、そんなところでは無かろうか? 幹部は兎も角、機体自体はそれで説明が付けられる。


 奴が眷属に使わせている魔改造されたシュヴァルツ、あれが登場したのは俺を侵蝕した後の事だからな。それもまた、俺から盗んだデータを大いに活用して開発したに違いない。


 奴がルナーサに攻め込んだあの日、より確実性を求めるのであれば、あの時既に使っていてもおかしくは無かった。


 しかし、あの戦争で使われた兵士達は眷属どころか眷属化もしていない普通の帝国兵達だった。奴は俺を侵蝕し、様々な事を識る事によって、真に完全体となったのであろう。

 

 それでも、だ。ついさっき幹部達が完成しました! と、言うわけでは無いだろう。恐らくは先の平原戦の時点では既に創りだして居たであろうし、それよりもっと前、未だ俺達がヘビラド半島に向けて出発する前には既に創り出せていたと思う。


 では何故、今の今までその存在を秘匿し続けていたのか。


 もしかすれば、まだその時では無いと考えたのかも知れないな。奴は幼稚な思考をしている――というか、ある程度アニメに引っ張られた行動を、子供向けロボットアニメの悪役たる思考をしている節があると言うのは以前に話したとおりだ。


 グランシールを取込むという機転を利かせたのは寧ろイレギュラー。ルクルァシアとて、神が俺に与えたギフトの一部に過ぎない。ルクルァシアは俺がこの世界で描く新たな物語の舞台装置となるやられ役、本来ならばここまで大きな力を得られている筈は無かったのだ。


 それでも、俺のやられ役として配置されたルクルァシアは、神の手のひらの上からは逃げ切れていないと思う。グランシールを取り込み、力を付けてはいるが、幸か不幸かその主導権を握っているのはルクルァシアだ。ならば、神に植え付けられた行動理念は失われて居ないはず。


 そう、奴は気づかぬうちに舞台装置として『空気を読んだ』行動をしてしまう。


 敵の総大将であるルクルァシアが最強の手駒である幹部を差し向ける相手、それは当然カイザーだ。アニメ作中で幹部の出番はそれなりにあったのだが、幹部が直接戦闘をするとなれば、その相手は必ずカイザー達だった。それ以外の出番と言えば、街を襲う部下達の様子を何処か遠くから眺め、楽しげに笑っていたり、命令を出したりする程度。


 幹部が直接手を下す相手はカイザー以外にあり得なかったのである。


 そう、幹部達は部下達の任務が失敗してから初めて戦場に姿を現すのだ。


『くそ! おのれカイザーめ! またしても我らの邪魔をしおって! 今日こそは許さぬぞ!』


 なんて、悪態をついたタイミングで一応はカイザーの前に姿を現し、テンプレ戦闘パートに突入する。とはいえ、本戦では無いため、互いに酷くダメージを負うことも無く、多くの場合はカイザーチームがガッツリと追い詰めて戦闘は決着を迎える。


『ぐぬぬ……! 今日の所は貴様に譲るが、そう何度も上手くいくと思わないことだ! 次は貴様が地を舐める番であるぞ!』


 なんて捨て台詞と共に去って行くというのがお約束。


 ……ううん、シチュ的に考えると、これまでも何度か出せそうなタイミングはあったような気がするのだが、ここまで出し惜しみしていたという事はやっぱりギリギリまで開発が出来なかったのか……? それとも――


「カイザー、敵機動きます」


「ああ、マシュー、シグレ。君達はラタニスク討伐に当たれ。ミシェル、フィオラとラムレットはシャーシルに。レニー、スミレ。俺達はバラメシオンを抑えるぞ。なんだかんだいってシミュレーション訓練が役に立ちそうだ! だが、油断するな、これは実戦だ。シミュレーション通りとは行かないと思え!」


「そうですよね……けど、やっぱり胸は高鳴っちゃいますよ!」

『ああ、あのラタニスクとマジで戦える日がくるなんてな!』

『アニメとシミュレーションで得た知識と経験、そして磨き上げた技をみせてやるでござる!』

『わたくしの相手はシャーシル……ふふ、腕が鳴りますわね』

『ミシェルさん、サポートは私達に任せて思いっきりやっちゃって!』

『ああ、アタイ達が力を合わせれば幹部だってどうって事無いさね!』


「……ふふ、全く君達と来たら困った奴らだな。だが、それで結構! それではゆくぞ諸君! 敵幹部を撃退せよ!」 


「『『『了解!』』』」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る