第四百七十話 前哨戦

『承認来たの! 薙ぎ払われるがいいのー!!』


 尖兵達との戦闘はフィアールカの嬉しそうな雄叫びとともに始まった。グランシャイナーから放たれた主砲はワラワラと押し寄せる眷属達を宣言通りなぎ払い、軽く千機近くの敵兵を戦闘不能にした。前回よりも圧倒的に多い成果を上げている。先の戦闘データを参考にした結果なのだろうが、本当に頼りになる子グマちゃんだ。


「よくやったぞ、フィアールカ! 一先ず主砲は温存し、以後はサブウェポンに切り替え援護を頼む!」

『承ったの!』


 主砲は輝力をそれなりに消費するが、艦には巨大なジェネレーターが搭載されており、数発撃った所で枯渇することはない。さらに言えば、衛星軌道上に浮かぶポーラが太陽光を変換して産みだしている輝力を無線にて受け取る事が可能というトンデモ機能まで備わっているため、主砲を打ちまくって3000機をそっくり殲滅することも可能なのだが、後のことを考えると到底その許可を出すことは出来ないし、使無駄に輝力を消耗してしまうことになるだろう。


 以前の戦闘でもそうだったが、使用した主砲はフィアールカの演算により、帝都に影響を及ぼさないポイントを導き出して放った物である。それに加えて射撃範囲や威力に大幅なリミッターをかけているのだ。


 もしも全リミッターを解除した上で遠慮なく敵が居るところに片っ端から放ってしまえば大変だ。貫通力があるフォトンビームは眷属達を斃してもまだ止まらず、帝都にまで到達することだろう。


 高温のビームが帝都に到達してしまえば、直接の被害が僅かであっても、そこから火災が発生し、大火を招くことも考えられる。


 そもそもあの主砲は地上戦で使うことを考慮しては居ないからな。ガッツリとリミッターをかけた上で、緻密な計算をしてなんとかつかっているのだ。アレに頼り切るのは難しい。なので、あくまでも戦いの主戦力は我々、ブレイブシャインだ。まずは道を作らせて貰うぞ!


 フィアールカの攻撃が止んだ直後、左舷、右舷にそれぞれ飛び出したのはケルベロスとヤマタノオロチだ。共に近接攻撃に優れた2機には、敵陣営でも層が厚いところに向かってもらった。


 ケルベロスは高火力で、ヤマタノオロチは手数の勢いで敵勢力を削ってもらう。彼女達は近接攻撃の他にフォトンランチャーも搭載されているため、我々5機の中でも1位2位を争う殲滅力を持っている。


 両舷に比べ、敵の数が薄い中央を担当しているのがキリンだ。サポートタイプの彼女の殲滅力は汎用型の俺に劣るほど低いのだが、それはあくまでも素の状態でのこと。


 彼女は今、本来であればこういった場所で使うことがないであろう追加兵装を機体前面に装着し、ゆっくりと眷属たちに向かい歩みを進めている。


 ……その追加兵装とは、以前洞窟を抜けるのに使用した掘削機ドリルを改造したものである。といっても、アレをそのままというわけではなく、攻撃用に改造されていて中々に物騒な見た目にはなっているのだが。


 さて、残るは俺とフェニックスだが、我々の役割は遊撃だ。共に飛行ユニットを備え、空からの攻撃を可能とする我々は戦場を飛び周り僚機達の援護をするのだ。


 併せて先に指示を出したようにグランシャイナーからの援護も有るため、数としては頼りがない我々では有るが、火力と手数で相手に負けることは無いのだ。


「とは言え……やっぱりウンザリするほどの数だな……」


「レーダー反応からすれば、残機数は2012機ですね。フィアールカは『全部落としてしまっても構わないのだろうなの!』と張り切っていましたが、甘いですね」


「そんな事言ってたの……それでもリミッターが掛かってるのに1000機は落としてくれたんだ。十分じゃ無いか」

「そうですね。通常であればその半分以下が良いところですから、あの子グマも中々侮れません」 


 ちらりと下界を見れば、キリンが巨大重機の様に立ち振舞い、敵機を次々と粉砕しているのが見えた……。


 前面にせり出しているドリルは見た目通りの凶悪な攻撃力を持っているが、両腕につけられたアタッチメントがさらに輪をかけてひどい。有名な超巨大重機のような回転刃がつけられていて、腕を動かし自在に攻撃範囲を変えて居るのである。


 本来は掘削など開拓作業に使われる装備だろうに……いやまあ、確かにあの重機を見た時は『やべえ! 巨大ロボットじゃんか!』と興奮はしたけどさあ……。ううむ、知らぬ人がキリンの姿を見れば、どちらが敵機なのか判断に困るかも知れないな。


「……フィオラ、なんか楽しそうだね……?」


『わははは! レニー君、見ているか!? 凄かろう! 私が作った兵器は素晴らしかろう!』

『あ、お姉! 凄いんだよこれ! どんどん倒せちゃうんだよ! 相手はパイロットが居ない人形だから遠慮なんていらないしね! さあ! やられたい奴は前に出ろー!』

『……凄いんだけどさ、アタイはなんだか戦いと言うものがわからなくなってきたよ……なあ、レニー、カイザーさん……。これってほんとに使って良い武器なのかな……』


「うわぁ……大丈夫かなあの子……キリンに感化されてないかな……」」

「ラムレット……君だけはそのままで居てくれな……」

「私としてはアレくらい装備したほうが頼りないカイザーにはちょうどよいと思いますけどね」

「スミレぇ……っと、レニー、獲物が来たぞ!」

「はい!」


 僚機達の包囲を抜け、避難所に向かおうとする眷属に上から攻撃を加える。俺が装備している飛び道具と言えば、相変わらずリボルバーくらいしかないのだが、最近ではレニーも練度を上げていて命中度は以前に比べればかなり上昇している。

 

 それでもリボルバーはリボルバーなので、斃すまでに数発要るのが難点なのだが。


「あーもう! 面倒! ねね、カイザーさん! 下に降りて殴ったほうがきっと早いよ! そうしようよ!」


「……そうかもしれないな……。だが、忘れるなよ。俺達の役割は攻撃だけではなく、索敵という重要な仕事も有るんだからな。レーダーだけではなく肉眼で確認しなければいけないことも……って」


「……カイザーは余計なことを言わないほうが良いようですね。貴方の発言はフラグとあの神が捉えかねませんから……皆さん、新手です」


 これまで一切レーダーに反応がなかった場所に複数の新たな反応が現れた。


「いったい何時の間に移動したんだ?」

「わかりません。ただ、他の眷属よりも魔力反応が大きい……これだけの反応、カイザーは兎も角、私やフィアールカが見逃すはずはありません……ああ! カイザー、レニー! あれを見て下さい!」


 スミレがマークしたポイントにカメラを向けると、足元からゆっくりと姿を表す眷属の姿が見えた。


「これは……転送……されているのか? しかし、それならはじめからこの眷属達もそうすれば……」


「恐らくはあまり多用は出来ないのかも知れませんよ。その証拠に転送されてきた眷属達は他の機体よりも……!?」


「なっ……あれは……まさか? 現存するのは奴だけのはずでは……」

「カイザーさん……そうだよね、やっぱりあれって……」


 戦場に部下を伴って転移してきたのは……シャインカイザーの敵幹部機体、ラタニスク、シャーシル、バラメシオンの3機であった。

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