第四百六十九話 尖兵

 避難所から出発した我らブレイブシャインは、合体はせずに分離をしたまま敵陣に向け移動をしている。そのままラスボス戦に突入というのであれば、最大火力が期待出来る完全合体状態で向かうのだが、いくら何でも直ぐにルクルァシアとご対面とはならないだろう。


 ――なんて言っているうちにお出ましだ。予想通りの反応がレーダーに現れたようだ。


『こちらグランシャイナー。馬鹿の一つ覚えの様にワラワラとこちらに向かっているの』


 予想通りの反応、それは眷属達の"大量召喚"だ。ルクルァシアが丹精込めて洗脳したスレイブ達を開放した今、奴が尖兵として利用できるのは眷属のみ。


 帝国民の救出作戦が気持ち悪いほどにすんなり進んだのは敵機の増援が無かったからだ。おそらく、草原での戦闘で消費した眷属を裏でせっせと作っていて余裕が無かったのだろうと思う。想像すると何だか間抜けだが、ルクルァシアと言う奴はそういう所があるのだ。


 今に見ていろと、戦力を溜め込んでいるところに、俺達が僅かな戦力で現れたわけだ。ばかめ、返り討ちにしてくれるわと差し向けるのは明らかである。奴のことだ、当然こちら以外にも眷属を差し向けることだろう。しかし、俺達には心強い仲間達が居る。同盟軍の諸君、そちらは任せたぞ!


「思ったとおり、帝都方面からワラワラとやってきたが……予想していたよりも多いな」

「うええ……レーダーマップに赤い点々がいっぱい……なんだか気持ち悪くなってた」

「レニー、見るのを辞めましょう。見たところで減りはしませんからね」


 レーダーに表示されている、敵を示す赤点の数は1000を優に超えている。城……いや、ルクルァシアの体内から次々に現れ、こちらに向かってぞろぞろと行軍している。やはり住民の避難を終わらせておいて正解だった。


 地上波版の最終戦を思い出していた際に、気に掛かったことがあった。キリンとフィアールカに尋ねてみれば、どうやら劇場版でも同様の行動がみられたらしい。


 そう、ルクルァシアは最終決戦で多くの眷属を放ち、カイザーチームを数で圧倒しようと無数の敵機で取り囲んだのだ。こちらの世界でもそれを再現する……いや、同じ行動を取るだろうことは我が陣営の頭脳陣達のシミュレーションに頼らずとも、俺でも予測することが出来る事だった。


 そしてルクルァシアはこちらのスキャンを察知する能力を持っている。アニメで本拠地をスキャンされたルクルァシアがこんな事を言っていた。


『ふむ我が城を視たか……。我が糧となることしか出来ぬ塵にしては良い目を持っているようだ。だが、貴様が視ている時、我もまた視ていると言うことは識る事はできまい。貴様等、塵の動きは全て我が手の内よ』


 元ネタであろう某邪神を元にした故に付けられた設定なのか、ルクルァシアは【スキャンカウンター】と掲示板で勝手に呼ばれていたスキルを使ったのだ。


 それについて、俺は勿論のこと、作中世界からやってきたフィアールカやキリン、俺と知識を共有するスミレもそれは知っていたし、スキャンをした瞬間、我々が城に攻め込む用意をしているのが察知されるのは予想がついていた……城そのものを取り込んでいるとは思わなかったがね。


 感づいたルクルァシアが物量を持って防御行動を取るのは、TV版や劇場版での行動から予想がついていた。それもあって、帝都から離れた平原に避難所を設け、そこに避難して貰ったわけなのである。


 予定している通りに事が運ばなかった場合、帝都が更地になってしまう確率は非常に高いからな。なんにせよ、帝都内に人が居ないに越したことは無いのだ。


『むー、眷属を創るリソースにも限りがあるの。だからそろそろポップしなくなると思うんだけど……そろそ3000体を超えそうなの……うじゃうじゃいて気持ち悪いのー!』


 上空から監視をしているグランシャイナーからフィアールカの嫌そうな声が響く。先の平原戦では2000機を超える眷属等と戦ったが、まだこれだけの眷属を生み出せるリソースを残しているとはな。


 そのリソース源となっていたアネモネは既に斃しているため、現在ルクルァシアが使えるリソースはそれまでに貯蓄されていた物……そして、自らの身体となる。


 ルクルァシアもそこまでアホではないので、我が身が弱体化するまで眷属を生み出すという行動に出ることは考えられない。流石にそろそろ打ち止めだろうと思う。


 しかし、それでも既に三千機。それを迎え撃つのは我々ブレイブシャイン5機と、上空に控えるグランシャイナー1隻。


 数だけで比較してしまえば圧倒的な戦力差だ。しかし、戦いは数だけでは無い。改めてそれを見せつけてやろうじゃないか。


「よし、ブレイブシャイン全機はここで待機、次の命令を待て。フィアールカ、眷属共が目標ポイントに到達したら……頼むぞ」


『了解なの。またドドーンと派手にやってやるの!』


 現在我々が居るのはは避難所と帝都の中間地点からやや帝都に近いポイントだ。連中の行軍速度を考えればもう間もなく先頭集団が目視できる頃だろう。


 ゆっくりと、しかし確実に眷属達がこちらに歩み寄る。赤い光点がギッチリとこちらに迫る様子は見ていて気持ちが悪くなる……が、これは既に通った道だ。我々も日々成長しているのだ前回よりスマートに切り抜けて見せよう!


「カイザー、目標ポイントに到達するまであと一分です」

「ああ、頃合いだな。それでは作戦を伝える。シグレは上空より奴らの誘導を頼む」

「了解でござる!」


「ミシェル、マシューはフォトンランチャーで先頭集団を狙い、行軍の速度低下を狙ってくれ」

「わかった!」

「了解ですわ!」


「フィオラとラムレットは……ああ……うん、なるほどな。取りあえずキリンの指示に従って動いてくれ」


「うん! がんばるよ!」

「了解……!」

『ふふふ……私の秘密兵器……とくとご覧あれ』


「レニー、俺達はここで漏れ出た奴らを足止めするぞ」

「はい! カイザーさん!」


 戦いは数では無いとは言ったが、流石に3000機もの敵機を我々だけで全て殲滅するというのは難しい。そもそも我々の本命は敵軍の向こう側にて待ち受けるルクルァシアの討伐。この前哨戦で力を出し切るわけには行かない。


 とは言え、これだけの敵戦力をそのまま後ろに流すわけには行かない。前回の平原戦と同様にグランシャイナーの艦砲射撃で数を減らし、はるか後方で避難所防衛のために待機している友軍の負担をなるべく軽くしてやらねばならないのだ。


 数の差は圧倒的だが……俺達にはそれを覆すことが出来る力と策が有るからな。改めて目に物見せてやろうじゃ無いか。


『カイザー、そろそろ準備おっけーなの』

「よし! それでは皆、作戦開始! 位置に付け!」


「「「了解!」」」

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