第四百六十八話 演説

新機歴121年12月22日8時2分


 平原にズラリと並ぶ機兵達。トリバ、ルナーサ、リーンバイル、リムール、そしてシュヴァルツヴァルト。かつて剣を交えた者達の末裔が、長き年月を経て……今度は全ての国が手を取り合い集結している。


 その隊列の前で機兵達を見つめるように立っているのは俺達ブレイブシャインだ。


 当初の予定では、半数を避難所防衛として残し、白騎士団ステラを中心とした精鋭達で最終決戦の場であるシュヴァルツヴァルト城に向かうはずだったのだが、その城こそがルクルァシアである事が判明。まともに戦えば味方は勿論のこと、帝都への被害も避けられない。


 戦闘ダメージを最小限に抑えるためには、ブレイブシャインならではの特殊な作戦が必要となるのだが、それをしようと思えばブレイブシャイン以外の機体では戦いに


 故に、当初から作戦を大幅に変更し、今ここに並ぶ全機をこの場の防衛として残して我々ブレイブシャインとグランシャイナーのメンバーで最終決戦の地へと向かうことにした。


 それを聞いたアランが暫くの間ブチブチと文句を言っていたが、リリィから諭され無理矢理に納得をさせられていた。


『はぁ……。陛下や団長が納得してんなら俺はもう文句言えねえけどよ。カイザーも、レニー達もぜってえ戻ってくんだぞ。今や肩を並べて戦う友になっちゃあいるが、今でもお前らは俺のライバルなんだ。俺以外に負けるのは許さねえ……ぜってえ帰ってこいよ』


 なんて事をぶっきら棒に言っていたが、レニー達はそれを嬉しそうに聞いていたし、俺もなんだか嬉しかった。あれはアレだよな。所謂『ツンデレ』ってやつだよなあ。"間違った使われ方をしている"と言われる方の、だけどな。


 リックやアズを始めとした『保護者の皆さん』も当然、俺達だけで向かう事に難色を示していたのだが、ざわめく保護者達を神託の巫女……いや、レニーのお母さん、アイリさんが演説で黙らせて、皆の心をひとつにしてくれたのだ。


「全ては今日、この日のために神が描いたこと……我らは、この大陸の人々は今日という日のために、物語を無事に終わらせるために生きてきたと言っても過言ではありません。

 物語をなぞる主人公としてカイザーを召喚し、それを成すべく様々なお膳立てをしてきた以上、悪は滅び我ら正義の使者が勝利の咆哮を上げるのは神が決めた結末と言っても良いでしょう!

 ……なんて、これは神託でも何でも無く、ただの気休めを言っているに過ぎませんけどね。でもね、レニーちゃんやフィオラちゃん、マシューちゃんにミシェルちゃん、シグレちゃんにラムレットちゃんはもう立派なブレイブシャインのパイロット。

 そして、そのパイロットが乗る機体は、そのどれもが全ての機兵の礎となった機神ですよ? グランシャイナーだってありますし、これで負けるという方が難しいと思いませんか?

 だから……私達は胸を張って送り出してあげましょう。きっとレニーちゃん達はカイザーさん達と共に成し遂げてくれるはずですから。私達が出来る事はただ一つ。お仕事を終えた皆が帰る場所を、お祝いをする場所を用意して待っていればよいのですよ」


 厳かに話し始めたと思ったら、急に雰囲気を変え、ニコニコしながらそんな事を言うものだから、誰も何も言えなくなってしまった。話が終わった後、自然と一人、また一人と笑いだし、我々は多くの笑顔で送り出されることになった。母は強し、だな。


 というわけで、今から俺はこの戦い最後の命令を改めて下すため、同盟軍の皆を前にして姿勢を正しているわけだ。


「先の会議で発表したとおり、現在シュヴァルツヴァルト城は邪神ルクルァシアと同化し、巨大な魔獣と化している。そんな馬鹿げた存在に対抗しうる力を持つのは俺達ブレイブシャインだけである。これは驕りでも自惚れでもなく事実だ。

 諸君等がどれだけ努力をして練度を上げているかは知っているし、数々の功績を上げたものが居るのも知っている。しかし、それでも手が届かない相手――それが邪神ルクルァシアなのだ」


 朝の平原は冷たい風が吹く音以外は物音がなく、俺の声がよく響く。あまりにも響くものだから避難民達の耳にも届き、なんだなんだとテントから出て遠巻きにこちらを眺めている。


「それに対抗しうる力を持っているのは我々ブレイブシャインの機体とそのパイロットのみ。噂に聞いたことはないか。白き機兵、カイザーは機神であると。その並外れた機体性能、そして何よりこうして意思を持ち話す事ができる機兵。故に機神と呼ぶものが居るというのは俺も知っている」


 正直『機神』という呼称は俺には役者が不足していると思うので、あまり使いたくはないし恥ずかしい。しかし、皆を納得させ、安心して俺達を送り出してもらうためには我慢をするしかない。


 ……見物する避難民達の数が更に増えていて少々やりにくさが増してしまったが……。


「何故俺が、ブレイブシャインの機体達が等しくその能力を持っているのか? 何故グランシャイナーという常識を外れた船を持っているのか。その理由は簡単だ。俺達は噂通り『機神』である。称号や二つ名ではなく、文字通りの意味で『機神』である。神からこの地に召喚された神に遣わされた存在であり、邪神ルクルァシアの宿敵たる存在、それが俺達ブレイブシャインの機体達なのだ」


 歓声が聞こえる……どうやら見物している避難民達が……更に人数を増やした見物客達が俺の演説を聞いて盛り上がっているらしい。うう……今後暮らしにくくなるかも知れないが……しょうがないよな……すまん、皆……。


「俺達、機神はルクルァシアを討つために遣わされた。つまりはその力を、討ち滅ぼす力を持っている。必ずや勝利を掴み、この地を、大陸を護ると誓おう! そして諸君! 君達には別の重要な仕事を任せたい。

 奴は狡猾だ。必ずや眷属達をこちらに差し向けてくることだろう。各隊で惜しまず協力し、どうか、この場所を、民を守り抜いてほしい。俺達が勝利を土産に戻るその時まで……!」


 再び歓声が上がる。今度は民だけではなく、兵士たちからも盛大な歓声が上がっている。普段なら直ぐに冷やかしてくるスミレも今日は流石に空気を読んでおとなしくしているようだ。いつもそうなら良いのにな。



新機歴121年12月22日10時00分


 ――ルクルァシア城に向け移動開始。

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