第四百六十七話 憂い
作戦決行は明日早朝。
普段より早めに夕食を取り、明日に備えてそれぞれテントに入って英気を養う。
ルクルァシアが巨大化――城と一体化していると知ったブレイブシャインパイロット達は驚いてはいたものの、誰一人として畏れることはなく。必ず倒そう、帝国を取り戻そうと決意を新たにしていた。
そして現在時刻は22時を過ぎた頃。皆が早めにテントに入ったこともあり、既に辺りはシンとしていて、起きている者と言えば見張りの兵士くらいで、皆明日に備えて眠りについている……と思っていたのだけれども、私の隣で熟睡しているとばかり思っていたレニーが突然ムクリと起き上がり、しずしずとテントから出て行った。
一体どうしたのだろうか。トイレであるというのならば問題はないのだけれども、レニーが向かった方向にトイレはない。まさか寝ぼけているのではあるまいな? あの子はたまにやらかすからな……しかたない、様子を見に行ってみるか。
と、レニーの元に行ってみれば……丘の上に腰掛け、遠く見える帝都を見つめていた。
「レニー」
声を掛けると少々驚いたようで、ぴくんと身体を震わせ、こちらを向いた。そこに私が居るのを確認すると、安堵した様な表情をうかべた。
「びっくりしたー……なあんだ、カイザーさんかあ。へへ、心配かけちゃいましたね、ごめんなさい。なんだか寝られなくって」
隣に腰掛け、話を聞いてみれば、寝袋に潜り込んだは良いものの、寝付くことが出来ずにずっと悶々と考え事をしていたらしい。そしてどうにもこうにも本気で寝られないため、頭を冷やすためここにやってきた……と。寝られない時に一番やっちゃいけない行動、それは考え事だ。すればするほど眠気から遠ざかってしまうんだよね。
こうして散歩に出たってのは、中々に良い選択だと思うよ、レニー。
「前にさ、ルッコさんと帝都を歩いたことがあるんだ」
「レニーが一人でこっちに飛ばされた時だね」
「うん。私さ、帝国の人達ってもっと怖いと思ってたんだ。国交は殆ど無いし、入ってくる情報といえば技術を独り占めして、いつかトリバに攻め込むために力を溜めてるーとか、そんなんばっかだったからね」
特定の商人以外、他国からの立ち入りを禁じていた帝国は、その情報がまともに出ないことから不気味な存在として語られることが多い。曰く、好戦的な人種であり、国外の人間と見れば問答無用で襲いかかってくる。曰く、機兵に大して異様な執着を見せていて、その秘密に触れようとしたならば二度と祖国の土を踏めなくなってしまう。
さらには、口には牙が生え、かつて大陸に居た知恵ある魔物の様な姿である、とか。聞けば聞くほど散々な言われようだ。それもこれも、地続きでありながら、半鎖国のような状態を長年続けたのが原因なのだけれども、それにしてもあんまりな話だ。
帝国と和平を結び、友好条約が結ばれているとは言え、それはあくまでも現在の皇帝であるナルスレインと彼が興す新たな『シュヴァルツヴァルト帝国』の話。
前皇帝は既にこの世の者では無いため、ナルスレインが帝位を継承し、皇帝の身分になっているのだけれども、それを知るのはルクルァシアの存在を識る者達、我らブレイブシャインと同盟軍だけ。
ルクルァシアが偽りの身体で皇帝として振る舞い、帝国を掌握している以上、傍から見ればクーデターによる内紛状態にしか見えないわけだ。
それは帝国の外でも同じ事で、大陸の国々が帝国と和平を結んだことを知っているのは各国の上層部及び、軍組織のみ。同盟自体は別に機密ではないので、何処からかその情報が漏れることは特に禁止はしていない。あくまでも大々的に発表はしていないというのが今の状況だ。
なので、ゆっくりと噂レベルで帝国の件は広まり始めてはいるけれど、未だ多くの人々は帝国に対して敵対心や恐れを抱いていることだろうね。この件が終わったら大々的に発表する事になっているけれど、その時、トリバやルナーサの国民達がどんな反応をするのか……怖いような、楽しみなような。
「知らないという事はそれだけで恐怖の対象になり得るからね。暗いところで良くわからないなにかが蠢いている。正体がわからないから、どんどん勝手に怖い物で有ると想像して自爆しちゃうんだ」
「そうなんだよねえ。よく考えれば当たり前の話だけど、噂って怖いよね。私だって、ちょっぴり信じちゃってからさ、帝国の人達も私達と同じだったんだって解った時はびっくりしたな。なんら変わらない姿でさ……優しい人、面白い人、楽しい人達が居て、悪い人、嫌な人、つまらない人も居る。私達と変わらない人達が変わらない生活を日々頑張って送っていたんだ」
「そうだね。リンばあちゃんもジルコニスタもナルスレインも……リリィやアランだって今じゃいい仲間だし、この間寄った村の人達も気のいい人たちだったよね」
「明日……あそこで戦ったらさ……お城はしょうがないけど……街だって壊れてしまうかも知れない。私達が……壊してしまうかも知れない。人々の暮らしの場を、思い出が詰まった街を壊してしまう……そう考えたらね、なんだか胸がいっぱいになって……眠れなくなっちゃってさ……」
それで……街を眺めながら思いつめた顔をしてたわけか。
「レニーは……優しいね。人の気持ちを考えられるいい子だ。流石私の相棒だよ」
「えへへ……」
「確かに……、被害は避けられないかも知れない。ジルコニスタやナルスレイン、リンばあちゃんとはその辺りの話もキチンとして、許可……というわけではないけれど、覚悟はしてもらっている」
「うん……そうだよね。この国の人達には話しておかないといけないよね」
それでも、街を瓦礫に変えてしまうことには代わりはない、それを私達が、私達の手によって破壊されてしまう。その事実がある以上、レニーの表情が晴れることはないだろうな。
「まだ出来るかどうかが微妙な線だから皆に伝えていなかったけどさ、上手くルクルァシアを誘導する事が出来るんだ。キリンやフィアールカ、スミレが頑張って支度している作戦を実行することが出来れば、城はしょうがないけれど、街の被害は最小限に抑えられる。だからレニー。安心して眠りなよ。誰が動くってブレイブシャインが動くんだ、絶対に上手くいくともさ!」
作戦はあくまでも作戦。こちらの都合に相手が乗るとは限らない。けれど、そこに希望が有るならばそれにかけてみるのも良いだろう?
「そうですね。作戦が成功して街が壊れないかも知れないし、それでも……壊れちゃうかも知れない。けど、壊れないかも知れないという希望があるなら、私はそれに乗りたい。より良い未来が有るならば、私はそっちの未来を、明るい未来を掴みたい!」
あっ……これはこのセリフは……
「つかめる未来が有るならば、掴んで離さず手に入れてやる! 新たな朝日に輝く未来を掴んでやるぜ!」
「……シャインカイザー41話……最終決戦を前に竜也が叫んだセリフだね」
「はい! 私達も彼らと同じ宿敵……ルクルァシアと戦ってこの地を護らなければいけないんです。だから、竜也達と同じく、僅かでも希望があるならばそれを掴んで離さない……うん、そうなんです! 掴めばいいんですよね、それがどれだけ難しくっても、掴んじゃえばあたし達の勝ちです! なんたって、私達ならそれを絶対に離しませんもん!」
「ああ、掴んでやろう! 掴んだ希望で未来を勝ち取ってやる! 皆で新たな明日を迎えるために!」
「ふふ、カイザーさんもノリノリですね」
「言うなよ、言われると恥ずかしいんだから……」
「あはは……はー、よし! 元気出た! カイザーさん、戻りましょっか」
「うん。明日に向けて……たっぷり眠ろう!」
立ち上がり私に向けて手を伸ばすレニーの表情にはもう迷いは残っていなかった。他のパイロット達のメンタルも気になるところだけど、リーダーであるレニーが引っ張ってくれると信じている。
……頑張ろうな、みんな。
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