第四百六十三話 むかしばなし その4

 グランシールはルクルァシアに知恵を授けてしまった。魔素濃度とやらが高い場所に行けば、より効率よく成長を促せるのかと、ルクルァシアに気づかせてしまったんだ。ならば、こんな所には居られないと、ルクルァシアは地中に干渉して、噴火を促したんだ。


 それが私達が眠りにつく切っ掛けとなった大災害、元のルストニア王国を飲み込んだ大噴火。溶岩に乗ってまんまと地上へと抜け出した卵のルクルァシアは、噴火の勢いにのってより多くの魔素を得られる場所、現在でいうシュヴァルツヴァルトが有るヘビラド半島まで上手い事飛んでいったらしい。どうせならそのまま海溝にでも沈んでしまえば良かったのにね。


 卵だからといって侮ることは出来ない。あいつは殻の中から人間の思考誘導をしかけたり、それを続けて傀儡と化したりしていたのだから。ああ、今のシュヴァルツヴァルトを見れば分かる通り、長い年月をかけ、ゆっくりと力を溜めながら影から帝国を掌握していって……とうとう孵化を果たしてさあ、これからもっと悪いことをしてやるぞと企んでいるのが今の状況だね。


 神から私に送られてきたデータ……いや、神託は以上の通り、すぐには飲み込むことが出来ないような内容だ。正直な話、私もなんと言ったら良いかわからない程にね……。

 創造神は……いや、神によって喚ばれた私も過去から現在に至るまで、大陸を引っ掻き回してそこに住む人々に多大な迷惑をかけて来たわけで……話を聞いた皆は何か思う所があるんじゃないかな。

 

 神の失態と、私という異物の訪れから始まったこの大きな騒動。原因となる神と私がどの面下げてって思うけどさ、それでも力を貸してくれると言うのならば、まだ私と共に戦ってくれるというのなら……どうかこの手を取ってもらえると嬉しい……です。


 立ち上がって頭を下げると、少し間が空いた後にあちらこちらからガタガタと、席から立ち上がる音が聞こえた。


 そっか、そうだよな、神のせいにしているけれど、この自体を招いたのは私の影響も大きいからね。シュヴァルツヴァルトなんて現在進行系で多大な損害を被っているし、頭にくるのは仕方がないよ……。


「何しみったれた顔してやがる。おら、顔を上げろよカイザー」

「え……?」


 レインズに促されて顔を上げてみると、皆、その場に残り立ち上がってこちらを見ていた。


「確かに我が帝国はルクルァシアとやらの手により少なくはない被害を受けている。父上に関しても……許されることではない。しかし、その責を君や神に求めるのは筋違いというものだ」

「ああ、ナルス……いや、陛下の仰るとおりだ。例え、その存在を招き入れた切っ掛けが君や神にあろうとしても、それはあくまでも切っ掛けであって原因では無い。創造神様は確かに過ちを犯したのかもしれないが、世界を救うために手を尽くしてくれているではないか。創造神様がはじめから何もしないでいたならば、世界はとっくに終わっていたことだろうさ。君や創造神様が責任を感じる事では無い」

   

「カイザー。君達の訪れが巡り巡って招いてしまった大戦。それで幾つもの国が滅びたのは事実だ。けれど、君達という存在がそれ以上に世界に潤いを与えてくれたのも、また事実だよ。もし、神が行動を起こして君を喚んでいなければ、今頃もっと酷いことになっていたことだろうし、なにより……僕は支店長として充実した日々を送れていなかったと思う。神が君をこちらの世界に招待してくれた事に心から感謝の言葉を捧げるよ」

 

「そうですわ! お父様のおっしゃるとおりですわ! 貴方が来ていなかったら、ウロボロスが様々な発明や技術を世に広める事はありませんでしたし、もしそんな世界だったら、今頃まだわたくし達は剣を掲げて魔物を追ったり、魔術で竈に火を入れて、あまり美味しくない料理を作って食べていたに決まってますわ。 機兵も魔導具も無い世界なんてもう考えられません。カイザーさん、わたくし達の世界に来てくれて、本当にありがとうございます」


「カイザー殿。ここに居る皆は、貴方ならば共に剣を掲げられると、貴方の元に集い、この地を護ろうと覚悟を決めている者たちなのです。今更、何か聞かされた所で、それが揺らぐものですか。これまでも幾度となく、とんでもない事をしでかしてきたでしょうに、この程度の情報、誤差も良いところ。過去は過去、今は今ですぞ。

 それに、あなた方のこれ迄の活躍を顧みて協力しない者など居るものですか。先の話を聞いた限り、邪神というのはとんでもなく強大な相手なのでござろう。しかし、カイザー殿達であれば、その元に集った我らの力があれば勝機はある!」

 

「そうでござる。カイザー殿、父上の言う通りでござる! 皆と出会い、ガアスケと共に貴方と過ごした日々はかけがえの無い日々でござった。私はこれからも変わらず皆と行動を共にしたい! 我らの刃、邪神に突き立ててやりましょうぞ!」

「ええ、ええ。カイザー殿、我らリーンバイルの民は貴方だからこそ、こうして最後までついていこうと誓えているのです。貴方はきっと我々の未来が良きものになるよう、導いてくれるでしょうから。ふふ、皆頑張りますから、また上映会、お願いしますよ?」 


「ったくよお、おめえのおかげで俺もジンも面白おかしく機兵を弄くったり、調べたりできてるんだっつーの。機兵も魔獣もいねえ世界なんてくそっくらえ。こんなおもしれえ世界にしてくれて感謝することはあっても怒るこたあねえよ。なあジン、おめえさんもそう思うだろう?」

「おうよ、リック。まあなんだ? 詫びてえっていうんならよ、いっちょ生きた遺物として身体検査でもさせてくれやしねえか? 実は前から生きた遺物、それも全ての始祖だっつう、カイザーの内部構造に興味があってな……ちゃんと戻してやっから、ちびーっとだけ分解をだな」

「じっちゃん、流石にそれはやめてやれよな……まあ、なんだ、くよくよすんなよ、カイザー……つっても、今更か。カイザーはバカイザーなんだから、くよくよしててもいいさ。それをカバーするためにあたい達がいんだからよ! あたいはめんどくせえ話が嫌いさ。ルクルァシアなんてちゃっちゃとやっつけてさ、ぱあっと祝勝会でもしようじゃないか!」


「機神様、私達はいつでも貴方と共にあります。貴方と共に世界を護る、それが先祖代々の願いでもありますし、この私、アイリの願いでもあるのですから。ふふ、ただの義務感から行っているわけではありませんよ? 私達グレンシャの民は貴方の家族同然、これからも共に歩みゆくために、私もがんばっちゃいます!」

「うんうん、アイリちゃんの言う通りですよ。我々グレンシャの民のルーツは創作物の世界なのかも知れませんが、貴方と共に渡ってきた先祖達も、僕たちもきちんとこの世界の住人です。グランシャイナーのクルーとして、貴方の家族として。最後まで共に、世界のために、私達の未来のために頑張りますよ!」


「実は御役目って言われてもあんまりピンと来なかったんだけどね。今こうしてさ、ルゥの話を聞いてみるとさ、私はこうしてルゥと一緒に戦うために生まれてきたんだなって思うんだ。それとね、こっちの世界に来てくれてありがとうね? おかげで私はこうして生まれる事が出来たし、ルゥやみんなみたいに良い仲間が出来たからね! ルゥがこっちに来てなかったら、ご先祖様たちを連れてきてなかったらさ、あたしもお姉も……ううん、お母さんやお父さん、村のみんなだって生まれることはなかったんだからね! ルゥは機神様って呼ばれるの嫌がってるけどさ、私達みんなのお母さん……お父さん? みたいなものと考えれば、十分神様だと思うよ!」


「ガイザーざん! あだじは、あだじはー! うう、うまぐ言葉がでまぜんけど、ガイザーざんと出会えて本当に良かったでず! フィオラにいわれぢゃったけど、ぎでぐれでありがとうございまずぅうう!」 


「……ありがとう、ありがとうみんな……! 本当に……ありがとう!」


 皆が口々に同調し、変わらぬ協力を誓ってくれた。そっか、そうなんだ。私はなんて幸せな奴何なんだろう。こんなに素敵な仲間に恵まれて……ああだめだな、もううまく言葉が出てこないや……。


「ふふ、涙を流す機能をつけておくべきでしたね」

「なっ!? よ、余計なことは言わなくていいよスミレ!」

 


新機歴121年12月20日22時32分


 穏やかな雰囲気の中、会議は無事に終了。最終作戦決行日を翌々日、12月22日に決め、各自解散となった。


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