第四百六十二話 むかしばなし その3

 黒龍グランシール対人類国家の戦いで数多くの魔素が排出されてしまいましたが、それが地上にとどまることはありませんでした。黒龍が吸収し、即座に使用していたためです。


 暴走した黒龍はそれでも足りぬと、後先を考えず、周囲の魔素を吸収しては力と変えて気が済むまで暴れまわったのです。結果として、大陸の魔素量は過剰レベルから欠乏レベルにまで減り、暫くの間は調律の必要がなくなっていました。


 なぜなら、グランシールによって人も魔物も大きく数を減らしてしまったため、それでも彼らが生き抜くために十分な量がまかなえていたからです。これまで過剰すぎる魔素に覆われていた大陸は、ある意味本来の姿へと戻り、世界の安定に関しては悪くはない状況になったからです。


 神は眠りについた黒龍を起こすものが無きよう、地底に移動させました。この様子では後数千年は目覚めることはないだろう。しかし、龍が目覚め、再び魔素を集め始めれば同じことが起きてしまう。しかし、誓約があるため、地底に動かす以上の事はできない。龍を治療してやることも、天に還してやることも叶わない。


 ここでようやく神は自らの過ちに気づき、深く深く反省をしたのです。次にグランシールが目覚めた時にはきちんと言葉を交わそうと、上が何を言っても知る物か、グランシールにきちんと謝罪をした上で龍のために地上の事を学ばせよう、そして二度と同じ過ちを繰り返す事が無きよう、親として改めて育て上げよう……と。


 しかしこのままではだめだ、それを成すためには、またこの大陸の仕組を変える必要がある。仕組みを変え、魔素の滞りを無くし……大陸の人々がいつか目覚める龍の対処ができるまで育てる必要がある。


 しかし、誓約という枷が頭を悩ませました。


 そこで他の神から『異世界の者を使うのだ』と、アドバイスを受けたのです。魔素の消費を促したいのであれば、それが存在しない世界の者を呼び込めばよいのだと。こちらの世界に憧れを持つ人間を上位世界から呼び込み、こちらで暮らして貰えば良いのだと。


上位世界から喚ばれた魂は、強大な力を持ちます。その力があれば、過剰な魔素を上手く使い、世界を安定させる事も出来るのだと……。


 特に事情は話さぬほうが良い、勝手にやらせたほうが結果的に良い方向に転ぶのだと、アドバイスをされた神は、なるほどと膝を打って直ぐに行動に移したのです。


 ……そんな事を知らずに転生させられたのが……この私。魔素が存在しない世界から神に連れてこられたのが私なんだ……うん、もう真面目に話すのはやめちゃおっか。ここからはいつもの私として話していくね。


 一部の人達には既に伝えてある通り、私は元々異世界の人間で、死後こちらの世界に転生してきたんだ。


 神は好きな姿として転生し、好きなように暮らしなさいと、そして世界を引っ掻き回してくれたら嬉しいと、そう言ったんだ。


 今思えば『引っ掻き回してほしい』と言うのは、この大陸の仕組みを変えるほどの何かを成してほしいということだったんだと思う。当時話しを聞いた時は、そんな事は思わなかったけれどもね。


 そして私はこの身体……カイザーとなって転生したんだ。私の世界に存在する架空の存在、科学技術が発達していた元の世界でも実現しては居なかった搭乗型巨大ロボット……こちらの言葉で言う所の機兵として転生したんだよ。


 このあたりの話からは神話として残ってるよね。


 神話の中にあった大噴火……私が眠りにつき、一時的に記憶を失う原因となった出来事。あれこそが黒龍グランシールの目覚め、いえ、卵となって休眠していたが地上に出てきた産声だった――ただし、その際に少々問題が発生したんだけど、その話は今は置いとくね。


 そして私が眠りについている間、卵は何処かでじっと息を潜め、数千年に亘って魔素を集め続けていたんだ。しかし世界はに残っていた状況とは異なっていて、上手く魔素を集められなかった。それは私達にとっては幸運なことだった。


 さらにその間、ウロボロスと手を組んだルストニアが作り上げた機兵、魔導具。それらの存在によって魔素の使用率は上昇。結果として黒龍の孵化を大幅に遅らせることとなったんだよ。もしもそれが無かったら……私が眠っている間に大陸の地図が変わっていたかも知れないね。


 その後、大戦が勃発し、再び多くの命が失われる事になった。その辺りの話は皆の方が詳しいんじゃ無いかな? そしてその大戦によて再び大陸に多くの魔素が溢れ出してしまうことになったんだけど……それはまた別の形で消費されることとなったんだよね……。


「今の時代で言う『魔獣』の誕生には私という存在が大きく関わっているんだけど、今までは私の身体が目覚めた後から、私から漏れ出していた輝力によって変異が始まっていたと考えていたんだ……けれど実際は違ったみたい」


 実はこちらの世界に自分たちという異物が現れてから変異はゆっくりと始まっていたみたいなんだ。私達の訪れが本来の魔獣達の魔石に干渉し、変質化を促して……より魔素を吸収するようにしていた……らしいんだよね。


 神がこの世界に自分を転生させた際に与えた『報酬』それはロボット……機兵にしてくれるというものだったけれども、神は密かに『魔素への干渉』能力も付与していたんだよ。


 それは私達が意図しない所で働いていて、この大陸の魔素が適切に消費されるよう我々を使って対処しようとしたようなんだ。これならば『神の手』による干渉ではなく、あくまでも『この地に降り立った住人の手による変化』となるからね。誓約からははずれるんだよね。


 その干渉能力は私だけでは無くって、僚機の皆は勿論、装備品達にも及んでいた。こっちに来た時は皆と合体した姿だったからね。皆をひっくるめて余計な加護を貰ってたってわけ。


 噴火の際に大陸中に散り散りになった私と僚機、そして装備品達。それによってゆっくりと大陸の生態系は作り変えられ、魔獣は機械化して魔素を多く消費するようになっていった。


 ……これに関して神に言いたいことが無いわけではないけれど、苦肉の策というのもわかるからなあ……。それに、輝力が原因じゃ無いって解ったけれど、私達が魔獣化の原因である事には変わりは無いからね。やっぱりちょっと複雑なままだ。


 そして私達がこちらの世界に来たことがきっかけとなって、結果的にこの大陸は安定しはじめていた……んだけど、ここまで話を聞いてきて、どう思う? 君たちも信仰心というものが揺らぐレベルで神の間抜けさを察してしまっているんじゃないかな?。


 実際ね、私は神と会って、話したことが有るからさ、あの神ならしょうがないなって思うところもあるんだけど、あの神、何処か抜けているんだよね……悪い神ではないんだけどさ、考えが浅いと言うか、他人の気持ちをきちんと測れないというか……神のくせに物事を見通せていないと言うか。絶対昇進出来ないタイプだと思うんだよね、あの神!


「カイザー……それではあまりにも神に失礼ですよ。あれでもこの世界の創造神なのです。この大陸でやらかしているとは言え、他の大r……いえ、まあ、この大陸でがっつりやらかしていることには代わりはありませんからね。別にフォローはしませんけども」

 

 ごほんごほん。


「私のこの身体……いや、厳密に言えば外にあるカイザーは創作物から生み出されたものだって前に話したよね。世を乱す悪を倒す正義の味方の物語。雑に言えばそんな内容なんだけど、神は余計な気を回して……正義の味方であるカイザーの他に、その敵となる悪の化身までこちらの世界に創造してしまったんだ」


 それこそがこれから剣を交えようとしている邪神ルクルァシアだ。


 神も一応きちんと考えていたらしくってね、必要なときまでは下界には降ろさず、神界で管理をしていたらしいのだけれども……創造物とは言え、ルクルァシアは邪神なんだよ。一応は神の名を感しているだけあってね、いっちょ前にその力を持っていたんだ。そう、上手く神の目をかいくぐってさ、フライングをして地上へ降り立ってしまったんだよ。


 不幸中の幸い、奴が従えていた四天王やその機体、要塞などはこちらの世界には再現されなかった……いや、もしかしたら、遠い遠い過去に私達と一緒に降り立っていたのかも知れないけれど、四天王と言えども中身は人間だからね。数千年を生き抜く事なんて出来やしないし、その搭乗機体だってどっかに埋もれてしまってるだろうさ。


 まあ、なんにせよ敵の戦力がぐっと減っているというのはありがたい……んだけど、ルクルァシアもキチンと自我を持った状態で創造されているからね……ようやく神界から抜け出して、こちらの大陸に降り立った時に自分の戦力が薄い事に気付いてしまったんだ。


 そして目をつけたのは我が身と似た破壊の波動を感じる存在、黒龍グランシールだった。


 かつて地中深くで眠りについていた黒龍を見つけたルクルァシアは、じわりじわりとそこまで這い寄って甘い言葉をかけ、言葉巧みにその手中に収めてしまったんだ。 


 ルクルァシアは不定形生命体で、そうだなあ、変な例えをすると酷く邪悪な姿になったモルモルスライムみたいなもんかな? あんな感じの決まった姿を持たない生命体なんだけど、モルモルと違うのは様々な形状を取れると言う所だね。


 ルクルァシアはぬるりと卵の中に潜り込むと、グランシールを吸収するべく纏わり付いたんだ。当然、グランシールも抵抗をした。グランシールだって強大な力を持つ黒龍なんだ、神の力を持つ龍はそう簡単にはやられない。


 けれど、神子である龍と、創作物の存在とは言え、神の名を冠する邪神ではやはり神の方が勝ってしまった。やがて黒龍はルクルァシアに纏わり付かれ、その全てをじわりじわりと吸われ始めてしまった。


 後はゆっくりと孵化の時を待つのみだ、それまでじっくりと殻の中で新たな身体を創り出そう、ルクルァシアはその様な事をたくらみ、グランシールに習って再び眠りにつこうとしたんだけど、そこでグランシールが持つ知識が余計な仕事をしたんだ。

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