第四百六十話 むかしばなし その1

新機歴121年12月20日21時00分


 各国の要人たちが端末越しに、また同室で見守る中、会議と言う名目で始まった私からの報告会が始まった。


「お集まりいただいて有難うございます。今日集まってもらったのは、私という"存在"が何者なのか? そして何故、今こうしてここに居るのか? ルクルァシアとの対決を控えた今こそ皆様に知っておいて貰いたかった、大切な局面だからこそ、今知っておいて欲しい……その思いで、急ではありますが時間を取らせていただきました」


 というか、私自身も今日知ったばかりなのだから仕方がないでしょう? と、いつもなら言い訳をして場を和ませてるんだけど、流石にこれから発表する内容を考えるとそんなマネは出来ない。それだけ……重く面倒な話なんだ。


「では、まずこの世界の昔話。神話の時代よりも過去のお話から始めましょう……」


 と、言ったところで、アズが口を挟んできた。


「神話の時代よりも過去……? カイザー、君はそんな昔から生きている存在……だったのかい?」


 アズは言った後に(しまった)と言う顔をしていたので、驚いて思わず口に出てしまったのだろうな。別に黙って聞いて欲しいと言うわけじゃ無いし、つっこみというか、質問があったほうが進めやすいと思うんだ。なのでその旨を伝えつつ、簡単に答える。


「詳しくはこれからの話しの中で説明をしますが……流石にその時代にはまだ私達はこの世界に来ていません。何故……その時代の事を識っているかといえば、神という存在から、おそらくは、この世界の創造神からその知識を預けられているから。そう答えるしかないね」


 っと、油断をすると口調が砕けてしまう。そして私がチラリと出した『神』という単語で既に場がざわざわとし始めてしまった。


「お気持ちはわかりますが、静粛に。突飛な話に聞こえるかもしれませんが……まずは聞いて下さい」


 そして私はデータベースにひっそりと隠されていた情報を開示していく。


  ◆


 この世界には魔素という元素が実在しています。これは知っての通り、魔導具や機兵の運用になくてならない存在ですね。


 その魔素と言う物は何故この世界に存在しているのでしょう? 有るからあると言ってしまえばそれまでなのですが、実は理由があって存在する物なのです。しかし、その理由は単純なもので、不敬を承知で言えば非常に馬鹿らしい話なのです……。


 かつて、神はこの世界に生きる人々に生物として強くなるために魔術を覚え、使ってほしいと考えました。ならばどうすればよいのでしょう? 身体を鍛えるためには理由が必要です。なので、その理由を作るため、人類の脅威となる魔物を創造し人の世に放ちました。魔物は本能で人類を狙うでしょう。人々は生き抜くために剣技や魔術を身に付け、生命体として強くなり、成長するのではないか、神はそう考えたのです。


 神の子である人々は、自然とその願い通りに行動するようになりました。時には衰退する事もありましたが、それでも人類は生き抜きました。

 長い年月を経て、文明は進化して魔術師や僧侶、賢者と呼ばれる魔術や神聖術等を使う職業や、戦士や武闘家、盗賊という武器や我身を使って戦う職業などが生まれました。そして、数人で組を作って魔物を狩る冒険者という存在が生まれ、世に冒険者ギルドが誕生したのです。


 当時を生きた人達が魔物と戦うすべとして使っていた術やスキルと呼ばれる特殊技能は、魔力を使用することにより発現するもので、その魔力は体内に吸収された魔素が変換されて生まれるものです。


 そして、魔物たちもまた、魔力を使用してスキルや術を使ったり、その生命維持に使ったりと、人も魔物も等しく魔素を使用し、その身が滅ぶ時には魔素として世界に還元し、循環させていたのです。


 しかし、そんな時代から数千年が経過すると、いつしかこの大陸の人々は魔術を使わなくなっていきました。何故でしょう? それは文明がより発達し、魔物から人間の住処を護る方法が確立されて、人と魔物が別れて暮らせるようになったからです。


 勿論、魔物を放っておけば数が増えすぎて危険なため、それを狩る冒険者という存在は減りはしても十分な数が残っていましたし、国家を護るという名目で、有能な魔術師達は国に囲われて宮廷魔術師としてきちんと魔術の知識は受け継がれていました。


 しかし、この変化をきっかけとして神が想定した魔素の運用にほころびが生じてしまったのです。


 魔素というのは、例えば年間10ポイントの魔素が大陸全土に自動生成されると思って下さい。その量は、人と魔物が合わせてきっかり使い切るよう計算されて決められていました。


 そして、使った分は世界に還す必要があるのですが、それは人や魔物の死により、同じ量が返還されるよう調整されていて、魔素は世界を巡って循環していたのです。


 しかし、いつしか人と魔物が戦う機会は以前よりぐっと減り、魔術やスキルの出番が減ってしまったのです。割り当てられた魔素を年内の内に使い切れなくなってしまったのです。しかし、人や魔物は少ないながらも命を落としています。するとどうなるのかといえば、10ポイントどころか、それを越える量の魔素が世界に返還される事になってしまうのです。


 ここで神の設定ミスが火を噴きます。多く戻されたのなら、一度回収して次からは少し減らして配布するようにすれば良いものの、そうはせずにキッカリ10ポイントだけしか回収しないよう設定してしまっていたのです。


 すると余ったポイントはどうなるのでしょう? そう、おつりは受け取られず、そのまま世界に残されてしまうのです。しかも、年が明ければまた10ポイントが支給されるわけです。年々使用量が減っていて余っているというのに、毎年同じ数が配布されるわけです。魔素の貯蓄がどんどん溜まっていってしまいました。


 創造神――神のフォローを一応しておきますが……神という存在は、一度手を離れて動き始めた世界に直接手を下すことが出来ません。なので、バランスに問題があると気づいても魔素の生成量を変えるということが出来なかった、後の祭りという奴ですね。


 さて、魔素が過剰に存在するとどうなるのでしょう? それは良い事ではありません。過剰な魔素は人類にとって様々な悪影響を及ぼします。魔物達にとっては過剰な魔素は有り難い存在です。わかりやすいところでは繁殖力が上がり、スタンピードの原因となる他、魔素濃度の上昇は魔物の上位進化を促し、それはやがて人類の脅威となったのです。


 人間達にとって、高濃度の魔素というのは身体に悪い物です。子供がかかる過剰魔力症の事を頭に浮かべていただけるとわかりやすいかと思いますが、魔素密度が高い場所に居ると、過剰に魔力が生成されてしまう事になります。それがなにをもたらすのかはご存じですよね。そう、高熱を出し、下手をすれば命を落としてしまう。今でこそ子供の病気として残る程度ですが、当時は大人も死に至るほど重要な病とされていたのです。


 しかし、当時の濃度は今では考えられない程に濃密です。酷い場合にはそれだけには留まらなかったのです。魔力適正が高い者はそれでも生き抜き、今の世に繋がる先祖として子孫を残す事が出来ましたが、死に至った者の他にも別の犠牲者が生まれてしまったのです。体内に大量の魔力を生み出した事による人類の魔物化、当時魔族と呼ばれる存在が誕生する事になってしまったのです。


 魔族となった者は自我を失い、魔物同様の存在になってしまいます。昨日まで肩を並べて飲んでいた友が、愛する家族が突如として魔族と化してしまう……創造するだけで恐ろしい事です。


 魔物は強化され、人は弱り、域の子乗った者も半数は魔族化していく。このままではこの大陸は魔物の大陸になってしまう、そんな危機に陥ってしまったのです。


 不敬なのは承知で言うけど、これはもう完全に神の失態だよね。魔素の供給量を可変式にしようと少しでも考えていればこんなことにならなかったと思うんだ……。


 思わず自分でつっこんじゃったけど、ほんと創造神が最初にきちんと考えて世界を創造していればこうはならなかったんだよ……ああ、ごめんね、話を続けるよ。


 さて、ここで神も流石になんとかしないといけないなと考えました。でも、自分は直接手を出すことが出来ません。ならばどうしたらよいのでしょう?


 神が出した結論は『そうだ、自分がなにも出来ないのであれば、世界に干渉が出来るお手伝いさんを創造すれば良いんだ!』そんな単純なものでした。


「なあ、つまりよ、カイザー、あんたはそのために召喚されたのか? 創造神の……その、お手伝いさんとやらでさ」


 レインズが顔に似合わず恐る恐るといった具合に質問をしてきた……けど。


「うーんハズレ。私達がやってくるのはもっともーっと後だよ。でもね、ここで創造された存在はレイ達も知らない存在ではないよ」


 魔素が溢れるのであれば、それを調律する役割を担う者を置けば良い。単純にそう考えた神は、人里離れた地に調律者として『黒龍:グランシール』を創造し、配置したのです。


 そう、ルクルァシアに利用され、その糧となってしまった黒龍は、神の創造した神子、世が世なら聖龍として信仰される存在だったのです。

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