第四百五十九話 発表を控え
新機歴121年12月20日19時38分 スレイブ解放作戦終了――避難所着
本日昏倒させたパイロットの数、計256名。なんだかとってもキリが良い数字だけれど、特に何かの意味がじゃあない……と思う。単なる偶然だよ、偶然。
現在私達は帝都から少し離れた例の平原に作られた避難所に来ている。
解放作戦は時間こそ掛かったけど、特に脅威となるような者は存在せず、妙なイベントも起きなかっためあっさりと終了した。アネモネの件はまあ、アレだったけど、あれはまた別件だしね。メインの作戦で面倒だったことと言えば、例の装置の扱いくらいかな?
治療の手立ては出来たし、もう壊しちゃった方が安全なんじゃないの? って思ってたんだけど、一通り治療が終わった後、患者達の保護・運搬をグランシャイナーにお願いした時にうるさい連中から物言いが入ったんだ。
『ルゥくん、待ちたまえ! 例の装置の所にケルベロスを向かわせるんだよね? やらかす前に止めてくれないか!』
『当然装置は回収する流れなの! 壊されちゃ貯まらないの! ちゃんと言って聞かせたの? どうなの?』
『いやいや、ちょっとまってくれよ。あんな物回収してどうするんだ? もう治療方法は確立出来たんだし、解析だってあらかた済んでるんだよ? 気持ち悪いから壊した方が良いと思うんだけど』
『ルゥくん……、君は疲れているのかな? 貴重なサンプルを回収しないでどうすると言うんだい』
『今後ルクルァシアが同様の悪さをした時に役に立つの! データを見るのと実物を見るのとでは雲泥の差があるの! そのくらいわからないの? カイザーは馬鹿なの?』
『ふぐっ……! だ、だってあれ、回収しようと思えば中々手間がかかりそうで……』
『やってやれないことはないだろう? なあに、固定金具かなにかを外したら後は簡単さ』
『そうなの。ストレージに収納してしまえばいいの。お手軽なの』
と来たからたまらない……。
結局当初の予定から変更して、私もケルベロスの手伝いをする羽目になったんだ。というのも、装置を壊さず停止させるには、動力を遮断するなりシステムに潜り込むなりの作業が必要となるんだよ……。ただ固定金具を外せば良いってわけじゃ無いんだぞ! ハッキングをした上でアイツに気づかれないように上手くやらないとダメなんだ!
その手の機能を単体で出来るのは私やスミレ、キリンくらいのものだ。ヤマタノオロチも解析こそ出来るけど、高度なシステムハックは無理。なので私が出張る羽目になったわけだけど……これがまた……ほんと、もう……。
思い出すだけでうんざりするので詳細は省くけど、生意気にもキチンとOSらしきものを搭載した立派な装置でさあ、魔力的な要素を持つ魔導具じゃなくって、科学的な要素で構築された物だったんだよね……これでこの世界の仕様に合わせた魔導具ってんならさ、無理無理あんなの無理でしたーって、あいつらを納得させられたのに、あっちの世界のお作法に沿って作ってあるんだからもう! やってやれない事がないからやる羽目になっちゃったんだよなあ。
それでさ、仕方なく触り始めたんだけど、どうにかシャットダウン寸前までこぎ着けてみれば『シャットダウンには幹部3人の承認が必要です』ときたもんだ! こっちの世界には幹部なんて居ないでしょ! 誰がその認証をするんだよ! なんかあってもとめらんないじゃん! なんて突っ込みながら無理矢理シャットダウンしたともさ! ああ、もう思い出したくない! システムに無理をかければかけるほど相手に感づかれるんだぞ? それをなんとか誤魔化しながら強引にってのはほんと面倒くさいんだからな! お前らも出来るんだから解るだろ――……はぁはぁ、と、とにかく、システム停止作業はとってもうざくて面倒だった! もう頼まれても二度とやらん! 絶対にだ!
どれくらい面倒だったかと言うのは、その時の私をモニタリングしていたスミレが上機嫌であると言えば分かって貰えることだろうね。
『ルゥちゃんの七面相、中々に可愛らしいですよ。ふふ、貴重な表情のサンプルが沢山とれて満足です』
なんて言ってたからな……スミレも後で覚えてろよ? 手伝ってくれなかった事は暫く恨むから!
というわけで、現在キリンとフィアールカは上機嫌で装置を解析している。まったく後でめちゃくちゃ面倒くさい事を押しつけてやるんだからな。
レニー達パイロットたちはといえば、遅くなった夕食に舌鼓を打っているとこ。今日はこの子達も頑張ったからね。行動中にまともな食事を取れなかった分たっぷりとごはんを食べて貰いたいよ。
運び込まれた患者達はといえば、急ごしらえにしては中々に立派な救護施設でスヤスヤと寝息を立てている。とっくにパラライザーの効果は切れているんだけど、キリン先生が『身体が回復しきらない内に目を覚まされると色々と面倒だからね。もう少し眠って貰った方が良いだろう』と、安定剤を投与して翌朝までぐっすりと眠らせてしまったんだ。
酷い言い分に見えるけど、洗脳され昏倒させられ目を覚ませば知らない天井……ともなれば混乱するだろうし、中には怯えて逃げようとする人もいるだろうからね。まだまだ魔石の影響が残ったままで身体は万全では無いんだ。だから眠っていて貰った方が良いというのは理にかなった選択だと言えるね。
安定剤を投与した後に体の回復を助けるアヤシゲな点滴を投与しているので、明日の朝には身体に受けた様々なダメージに感しては殆ど治ってしまっていると思う。まあ、魔石が崩壊して身体から抜けるまではまともに動けないだろうけどね。
それで私はご飯も食べずに何をしているかと言えば……21時から皆を集めて行う発表の準備をしているんだ。
準備と言っても会場の設備を整える――という様な作業じゃなくって、参加者達への告知だね。パイロット達だけなら声をかければ直ぐに集まってくれるけれど、それ以外の偉い人達、各国のお偉いさん達ともなればそうも行かないからね。近況報告をしながら、うまくうまく、嫌みを言われないように無理矢理予定をねじ込んでいる所なんだ。
忙しい人達に突然『今日21時から重要発表します!』なんて言っちゃうわけだから、申し訳ない気持ちでいっぱいなんだけどね。
……別に話さなければ今後の作戦に支障が出るというわけじゃないんだけど、やっぱりケジメとして聞いておいてほしいからね……それも、今日このタイミングが一番良いんだ。これはスミレと相談して決めた事。これからの戦いを考えると、今しかない、そう思ったんだよね
というわけで、私が無い胃を痛めながら連絡をしたメンバーは以下の通り。
ルナーサ商人連邦 総支配人であり、私達とやたらと縁深いルストニア王家の末裔であるアズベルト・ルン・ルストニア、マリエーラ・ルン・ルストニア。
トリバ共和国からは、大統領であり、トリバ国の英雄でもあるレインズ・ビルハート、トレジャーハンターギルド 紅き尻尾 元頭領 ジンと今やその相棒となってしまったフォレムは機兵工房店主のリック。
リーンバイルからは旧リーンバイル王国の末裔であり、現リーンバイルの代表であるゲンリュウ・リーンバイル、タマキ・リーンバイル両名……彼らもまた、神に人生を変えられた人々だね。
そして、旧ボルツ領を今後末永く収めていくことになるであろう、リムール代表のガシュー・リム。グレンシャ村からはレニーとフィオラの両親であり、創作物からの召喚という私の理解が追いつかない存在である、グランシャイナークルーの末裔、ジーン・ヴァイオレット、アイリ・ヴァイオレット両名。
急ぎ連絡を入れたのは以上の人物たちだ。彼らには通信端末を用いて私の発表を聞いてもらうことになっている。
シュヴァルツヴァルトの人達、皇帝となったナルスレイン・シュヴァルツヴァルトと元黒騎士団団長であり、現
まだ私の正体というか、ルーツを知らない人も居るし、今日打ち明ける話はこれまで世界に起きた出来事に関するお話だ。捉え方によっては私達が歴史の黒幕とも言える内容になるので、皆の反応を考えればちょっと怖い。このタイミングが一番だと思うんだけど、決戦を控えた今、士気に関わるような事をいうのはどうなんだ? なんて思わないわけでも無い。
でも、最終決戦はこの世界の未来を預かって挑むことになるんだ。
だから――私は皆に識ってもらおうと思う。この世界に今起きている事態が起きるに至った根本的な理由を……その原因となった存在、やらかした神の事を。
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