第四百五十七話 ティターニア
スミレによって作成されたのは『
その主原料となっているのは、もはやお馴染みとなってしまった吸魔草と、こちらの世界の方々には……というか、前世の
ナノマシンの役割は、吸魔草の成分を適切な箇所、魔石まで運ぶ事の他に魔石生成体を特定し、吸着。そのまま体内に排泄されるよう誘導するという重要な役割を持っている。これによって体内に残された物騒すぎる異物を除去出来るほか、どういう影響が出るか解らないナノマシンの除去も同時に済ませてしまうのである。
レニー達、ブレイブシャインのパイロット達には仕様上、仕方なくナノマシンが取り込まれていて、彼女達の健康と怪我の早期回復に役立っては居るのだが、もしかすると彼女達の身体能力がやたらと高いのはその影響を受けている可能性があるからな。もしも、治療の副作用でうっかり超人を量産してしまうような事になってしまえば、魔獣騒動の二の舞だ。その辺りはしっかりとフォローしておかないと。
中々強力なお薬なのだが、それでも使用して直ぐに魔石が消え去る――なんて都合が良い事にはならない。身体への負担を考慮して、使用してから数日をかけてゆっくりと魔石の魔力を奪いつつ生成体を無害化して体外に放出されるようになっているため、そこはきちんと時間が掛かるのである。
既に魔石が崩壊している人達ならば、日常生活を送りながら治療が出来るだろうけど、魔石が残って居る人達はそうはいかないのである。
とりあえずの薬液は完成した。これだけあればここに居る被害者達の再スレイブ化は防げるはずだ。面倒を避けるためにも急ぎSSCの摂取をさせる必要がある……のだが、これは服用して効果がでるようなものではなく、注射にて体内に入れる必要があるため、少々手間が掛かるのだ。
幸い、ここの患者達は昏倒しているため、注射自体は手間が掛からないだろう。しかし、注射となれば、処置をする人員が必要となる。作戦開始からボチボチと時間が経っているが、どうだろう、そろそろどちらか手が空いてたりはしないだろうか。
「こちらカイザー。レニー、そちらの様子はどうだ?」
『……はい、レニーです! 現在……ここはええと、食堂ですね! 今しがた2名ほど昏倒させました! あ、ちょっと待ってください! 向こうにも兵士が!』
「忙しそうだな……いや、いい。また後ほど連絡する」
マシュー達も……同じくまだまだ忙しそうだった。どうやら彼女達に新たな仕事を頼むのは難しそうだ。彼女達が忙しく動いている以上、随伴しているステラも同じだろうしなあ。かといって、彼女達の手が空くのを待っているというのも時間を惜しく感じる……。なんたって、ここはルクルァシアのお膝元だからな……なんだかこのままというのも落ち着かない。
「む……参ったな。ミシェルやシグレをこちらに呼ぶという手もあるが……彼女達は少々離れた位置に居るしな……フィオラ達を呼ぶと……広場の護りがなあ……」
「何をブツブツと悩んでるんですか。貴方が行けばいいでしょう?」
「ああ、そうだな。そうか、俺が行けば……って、何を言っているんだ、スミレ? そもそもこれからしようとしていることは精密作業で、この巨体じゃどう考えても……あっ」
「ふう、さすがカイザー。私の想定よりもおバカではなかったようで、気づいたようですね」
「くっ……いつもより毒が強い……! 俺ではなく、ルゥを行かせる、そう言いたいんだろう?」
「ええ、そのとおりです。ルゥちゃんにお注射してもらうのです」
言い方! まあそれはいい。ルゥならば、少なくともカイザーがするよりマシな結果になるだろう。しかし、具体的な方法は考えているのだろうか? 流石にルゥの身体で注射器を使うにはちょっと厳しいと思うのだが? …………いや、その辺りもきちんと考えているのだろうな。そうで無ければここまで自信に満ちあふれた顔で俺を弄る事とは無いはずだ……だって、あの顔、面白い悪戯を思いついたぞ、そんな表情だもの……。
「ふふふ……こんな事もあろうかと! ――本当は自分用に作っていたのですが――MODE:FAIRLY専用高機動化兵装……『ティターニア』これを装備する事により、愛らしさとサイズはほぼ据え置きで、機動力と作業速度に二〇〇%以上の向上が期待出来るのです」
「なんだか……キリンの嗜好に感染していないか? 大丈夫か……?」
「大丈夫です。さあ、ほら、早くルゥちゃんになりなさい。時間が惜しいのでしょう? さあ、さあ、さあ!」
「あ、ああ……」
というわけで、スミレに押し切られる形でルゥに移って『ティターニア』を装備したわけだけど……ああ、これは……あれだね。歌を歌いながら戦う少女達のアニメのような……メカメカしい装備をつける少女型プラモデルのシリーズのような……とにかくあれだ、可愛いと格好いいが融合したメカ少女という具合だわ。
背中に大きな羽根型のパーツが二対ついていて、その奥にはスラスターが見える。どうやらそれを推進力として高機動を実現するらしい……ってこれ、グランシャイナーのフォトンスラスターを流用した設計じゃないか……。
両腕に装着されているのはガントレット型のパーツで、通常の妖精体――スミレはMODE:FAIRLYと呼んでいたが――では装備する事が難しいサイズの武器や道具もなんとか装備可能とするようだ。
そこに付けられているのがスレイブの特効薬『SSC』が満たされた大きな注射器……これはどうやらごついのは見た目だけのようで、実際に注射をするわけでは無いらしい。針のように見える先端を患者の肌に当て、トリガを引くと血管内部に薬液が転送される仕組みらしい……そんな説明をスミレが簡単な事のように言ってたけど、とんでもねぇぞこれ! なんだよ薬液を転送って! ていうか注射器の形である必要がないじゃん!
当然、脚部パーツも存在していて、それを含めて全体的に二回りくらい大きなサイズになった。お値段手頃な可動フィギュアから、ちょっとお高いフィギュア位のサイズに変わってしまった感じかしら……。
「ああ、可愛いですね。後ろ向いて下さい。次は首を傾げて……はい、撮影が済みましたのでもう行って良いですよ。ここの防衛は私に任せてさっさと治療に向かいなさい。簡単な操縦であれば私でもできますので、さあ、さあ!」
「うん? 撮影……? いや、そうじゃなくて、スミレも操縦できるの? てっきりセミオートモードに切り替えて警戒するくらいだと思ってたんだけど……」
「同じカイザーに住むAIとはいえ、以前の私にはそれは叶いませんでした。所詮私はアプリ的な存在で、システムに深く干渉する権限はありませんからね。しかし、AIとしてではなく、パイロットとしてであれば……多少は融通が利くのです!」
「え……まさか君……――あー! す、スミレがサブパイロットになってる……!」
「ふふ、この体ですので本格的な操縦は出来ませんが、拠点防衛くらいなら可能です。これこそ、こんな事もあろうかと、ですね。もしやと試してみたら行けたので嬉しかったですよ」
「……いつの間にそんな事を……自分の身体だというのに気づいてなかったよ……まさか自分の体をスミレに使われる日が来るなんて……うう、他に良い案も無いししょうが無いか……いってくるよ……」
妙にウキウキとした声を上げるスミレを軽く睨み、カイザーの元を発った。
……どうやらケルベロスの掃除は終わったようで、退屈そうに周囲のパトロールをしている……くっ! スミレめ、知っていてわざと言わなかったな。ケルベロスが空いているのであれば拠点の防衛に回したというのに。
仕方が無いので、ケルベロス達には先んじてスレイブ維持装置があるポイントの地上部に移動しておいて貰い、そこの警戒に当たって貰う事にした。あれはあれで後で壊すなり回収するなりする必要があるからね。
……うう、しかし自分の体をスミレにあれこれされると思うとちょっと変な気分になるね……急いでお仕事終わらせよっと……。
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