第四百五十五話 レシーバー
『ぱあっといくの! 特殊兵装全展開! 範囲型マギアディスチャージ斉射なのー!』
グランシャイナーによって放たれたマギアディスチャージが大波のように兵舎に流れ込む。ふらりふらりと頼りなさげに歩き回っていた敵機達が何が起きたのかを識る事も無く、問答無用で無力化されていく。
『ふう、お仕事完了なの! 引き続き居住区の救助活動に戻るから、カイザー達も頑張ってなの!』
「ああ、ありがとうな! そちらも頑張ってくれ!」
広範囲に向けて放たれたマギアディスチャージの威力は凄まじく、敵機の殆どを無力化してしまった。しかし、流石にそれも全てをカバー出来るわけでは無かった。それを免れ、侵入者を撃退すべく動きだした機体が確認され、それを確認したらしいケルベロスから喜びの声が届いた。
『わ~い! まだ良い奴が残ってるよ~! ここんとこ運動不足だな~って思ってたんだよね~!』
『ねえ、カイザー、良いでしょー? ちゃんとお仕事するからさー、どーんとやっていいよねー? お願いだよー、カイザー』
「相手が眷属ならばそれで問題ない。ただし、スレイブ機を見つけたらきちんとパイロットの事を考慮した攻撃をするようにな」
『『やった!!!』』
オルもロスもマシューの事が大好きで、如何に彼女の操縦が素晴らしいかについて、暇な時には熱く語る程、彼女に操縦される事を好んでいるのだが、それはそれとして自分で動くというのはやっぱり格別のようで、許可を出して間もなくすると嬉しそうに狩をする声が聞こえてきた。
見張り役としてなのか、バーサーカーやワイトが配備されていたのが双子にとっては幸運だったのだろうな。
保護対象であるスレイブが乗る機体を相手に戦うのであれば、ここまで楽しげな声を上げる事は無かっただろう。当然の話だが、搭乗者に気を遣った攻撃をする事になるからな。
幻獣がモチーフとはいえ、AIの性格にどこか犬の要素が感じられてしまうオルとロスは、動き回るのを非常に好む。グランシャイナーや基地の中では、ぬいぐるみ化してあちらこちらと走り回り、クルーや基地の人間達を大いに和ませているのだ。
まして、元の機体で暴れ回れるとなれば格別だろう。相手が眷属となれば手加減は一切必要ない。双子にとって眷属機の存在は非常に喜ばしく、良い息抜きになっているようだ。
「しつこいようだが、スレイブ機の無力化もきちんとこなしてくれよ?」
『勿論だよー!』
『遊びも仕事も出来るハイスペック~!』
自信満々な声で良くわからない返事をしているが、実際あの子達はよく働いてくれているからな。双子がやるというならきちんとやるのだろう、そこは信頼して良いはずだ。
レニー達もどうやら順調に無力化を進めているようで、今の所危なげなく動けているようだ。さて、俺もやるべき事をしっかりと……と、言いたいところなのだが、実の所、スレイブ化を維持するために稼動しているであろう、怪しげな端末の位置の確保はとっくに終わっているのだ。
こちらには高性能レーダーが多数備わっているわけだ。そのレーダーの性能については、遠く離れた城の地下深くに隠されたアネモネの魔力反応を検知出来た事から素晴らしい者で有る事がわかるだろう?
結構掛かるだろうなと、スキャンを開始したのだが、驚くべき事に数秒であっさりと怪しげな反応を掴んでしまっていたのである。もしかすれば、俺達が想定している物とは無関係の物かも知れない……とも、思ったのだが、どうやら想像通りの物で間違いなさそうだ。早くも仕事がひとつ片付いてしまったのである。
にしてもだ。もう少しこう、なんとかならなかったのだろうか。アネモネにしてもそうだが、隠蔽工作をするとか、レーダーの反応を阻害する処理をしておくとか……いや、せめて何処かにきちんと隠して欲しかったよな。まさか、無防備にごろりと倉庫においてあるなんてな……ちょっとびっくりしてしまったよ。
「ルクルァシアの思考にもう少し
「幸か不幸か
「我々からすれば好都合です。それにあれは同情していい存在ではありませんよ」
「ああ、違いない」
というわけで……その気になれば直ぐにでも装置の破壊に迎える状況では有るのだが、俺は今もこうして陣地の防衛をしつつ、戦況の観察を続けている。
何故そんな暢気な真似をしているかと言えば、あまりにも無防備な『眷属化維持装置』は位置だけではなく、その詳細までこの場から解析することが出来てしまったからだ。
そう、出来てしまったのだ……。
その事自体は喜ばしいことだ。ただし解析の結果、面倒な事実が明らかとなり、現在それの対策を練るべく、さらなる解析を続けているところなのだ。
よくよく考えれば当たり前の話で、
その手の作業が得意なキリンはこの場に居ないし、フィアールカ達はマギアディスチャージの斉射を済ませるとさっさと他の場所に向かってしまっている。一応データを送る事は出来なくは無いのだが、別途行動中の彼女達に余計なリソースを使わせるのも不味いからな。
装置を壊してしまえば速やかに作戦が終わり、キリンやフィアールカの協力を得る事も可能だろうが、壊してしまったら解析する事が出来なくなってしまう。壊せば楽なのに壊せないという面倒な状況になっているわけなのだ。
さて、その面倒な事実とはなんなのだろうか。
現状判明しているのは、スレイブ状態を維持するために必要な条件だ。それを維持するためには特殊な波長を持つ魔力を浴びせ続ける必要が有るらしい。その魔力を発生させる装置は魔改造されたシュヴァルツのコクピットと、壊すに壊せない物置のデカブツから発せられるというわけなのだが、俺の頭を悩ませているのは魔力発生装置では無く、その
装置から発せられた魔力の影響を受けるのは当然、スレイブとなった人間達だけである。そのけしからん魔力を通常の人間に照射した場合どうなるのだろうか? きちんと実験したわけではないのであくまでも推測の話だが、恐らくは無害なのだろうな。
当たり前のように白兵戦をしているレニー達こそがその証拠だ。
もしも通常の人間に影響が有るのだとすれば、しっかりと外気から遮断されているコクピットに乗り込んでいるマシューはともかくとして、気密性が甘く、魔力くらいなら通してしまう機体に乗っているステラ達がスレイブ化していないのはおかしい話。
マシューからの報告を受け、スレイブ化を維持する装置がありそうだ、そう考えた時点でまず初めに現地に居るパイロット達の身を案じたのだが、こちらに連絡をした時点でかなりの時間、魔力を浴びていたはずなんだ。
しかし、マシューは勿論の事、ステラ達はどうもその影響を受けていないようだ。念のために体調の変化などを尋ね見たが、腹が減った物が居る程度と暢気な返事が返ってくる始末。その事から通常の人間、つまりはスレイブ化の処置を受けていない人間には無害なのではないか? そう、推測したのである。
無論、万が一パイロット達がスレイブ化してしまっても直ぐに無力化し、回収できるよう用意はしてあったのだが、それでも何事もなかったのは本当に良かったと思う。
「カイザー、解析は終わりましたが、裏付けのためスレイブのスキャンもするべきです」
「ああ、俺もその必要があるなと思っていたところだ」
……手近なと言ったらあれだが、待機ポイントから近い場所に寝かされていた被害者を精密スキャンしたところ、恐れていた事実が的中した事がわかってしまった。
以前保護をしたスレイブ被害者達をきちんと精密スキャンしていればな、と思う。
あの時は『コクピットから離せば開放される』その事からコクピットの調査に目が向いてしまった。これは大きな失態だ。
スレイブ化されている人間とそうではない人間の違いとはなにか? それは先程から言っている通り、レシーバーの有無である。しかし、これまで解放してきたスレイブ達からがその様な端末を装備しているのを見た事が無かった。なので、嫌な予感を感じながらもスキャンをしてみたところ……俺が予想していた通りの場所から反応が返ってきてしまった。
「こういう嫌な予感は当たって欲しくなかったんだがね。まさか体内に仕込まれているとはな……」
レシーバーとなる魔石の反応が被害者たちの体内から検出されたのである。
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