第四百五十四話 スレイブ解放作戦開始

 市街地を抜け、目標地点である兵舎付近に到着すると、マシュー達の姿が見えた。建物の影に身を隠し、周囲の警戒に当たっているようだ。どうやらスレイブ達が居るのは施設の敷地内だけのようで、周辺には人っ子ひとり見当たらない。この様子なら、このままここでブリーフィングに入っても良さそうだな。

 

「マシュー、待たせたな」


 声をかけると『もう来てしまったのか。休憩時間も終わりだね』と、冗談めかした返事が返ってきた。相変わらずメンタルが強い子だな。これだからマシューは頼りにできるんだ。ま、たまに調子に乗りすぎてやらかすこともあるけどな。


 離れた場所で警戒に当たっていたステラ達を呼び寄せ、周囲に認識阻害フィールドを展開する。これは光学迷彩を主体とした様々な認識阻害を発生させる物で、対象となるポイントを囲むように設置することによってその内側に存在する物を秘匿する素晴らしいものだ。


 このフィールドは当然カイザーの標準装備として搭載されている物なのだが、どうも装備品枠にカテゴライズされてしまっているらしく、緊急モードが発動した際に他の武器同様、何処かに飛んでいってしまったのだ。


 もしもこれが失われて居なかったら、レニー達と旅をする中でどれだけ心強い味方になってくれた事か。なのでこれをグランシャイナーで見つけた時は非常に興奮してしまい、珍しく引き気味のキリンに頼み込んでいくつか複製しておいて貰ったのである。


 だって認識阻害だぞ? 光学迷彩だぞ? 浪漫の塊の上に便利と来たら欲しくないわけがないだろう? みろ、現にこうして活躍しているでは無いか。だからスミレ、そんな可哀想な物を見るような視線を向けるのは辞めてくれないだろうか。


 ……フィールド内に収まったパイロット達がぞろぞろと機体から降りて私の周りに集まってきた。うん、作戦説明となればやっぱこっちの身体のが楽だね。カイザーのままでも出来なくは無いけれど、やっぱり皆と同じ目線で話し合えるというのはいいもんだしさ。


 ただまあ……『なんかね、クルーやステラ達にもね、"ルゥのファンクラブ"に入ってる人達がいるみたいだよ』なんて、フィオラが笑いながら恐ろしい報告をしてくれているので、正直彼らの前でこの姿を取るのは微妙な気持ちになるのだけれども……。まあ……ファンクラブに感してはな……同盟軍の連中がやらかした時に散々ぐったりしたからね……それが多少増えたところで……別に……別に……くっ。


「というわけで、改めて作戦内容を説明するよ。パイロットの皆にはさっき配った無力化兵装パラライザーを使ってスレイブ達の無力化にあたってほしい。

 弾は一人につき120発。使い切ったらおかわりはないよ。その場合は速やかに撤退し、後方支援に回ること。無力化した後は3時間は目を覚まさないってキリンが恐ろしいことを言っていたから、倒れたスレイブは取りあえずそのままでOK。他のスレイブ達が見つけても見向きしないだろうし、制圧が終わった後ゆっくりと回収しようと思う」


 パイロット達が私の話を聞きながらパラライザーを興味深そうに触っている。


「ああ、後ね、一応だけど作戦開始まで安全装置はオフにしておくこと。そして安全装置が効いていたとしても決して自分や味方に銃口を向けないこと。事故が無いようには作ってあるけれど、万全にしていても起こってしまうのが事故なんだ。目新しい物で面白いのはわかるけれど、そこだけは徹底してね。銃口をのぞき込むなんてもってのほかだよ」


 ギロリと睨みながら少々厳しめに言うと、レニーとマシューを含めた何人かが慌てた様子でパラライザーを床に置くのが見えた。まったくこの子達は……。


「それと、ステラは半分に分かれてそれぞれマシューとレニーについて欲しい。彼女達には私の仲間からスレイブの位置情報を送信して貰う手はずになっているからね。彼女達の指示に従って動けば非常に楽に動けると思うよ」


 ソラで暇そうにしている"上に居る方の"フィアールカにお願いをして、周辺のスレイブ達の位置情報をリアルタイムで監視して貰う事になっている。


 その情報はレニー達が持っているデバイスに送信され、AR的な仕組みで周囲のマップと共に表示されるんだ。これもまたキリンがデバイスを改良してくれたお陰で実現した新装備なんだけど、白兵戦という物をあんまりしないから今日まで出番が無かったんだよね。


 作戦を聞いたキリンが『こんな事もあろうかと!』と、嬉しそうに言っていたけれど……ちょっと羨ましく思ったのはスミレには内緒だ。


「作戦開始後、私とケルベロスは別行動に入る。私は敵が使用していると思われる洗脳装置の探査をしながらこの拠点の防衛。ケルベロスは私からの指示を待ちながら残存戦力の殲滅に向かうから、君達は遠慮無く白兵戦で活躍してちょうだい」


『では、私からは以上。さっさと終わらせて美味しい御飯を食べに帰ろう!』と、私がしめると『おー!』とパイロット達から声が上がった。2名ほど妙にやる気に満ちあふれた声援が聞えたけれど……きっと例のファンクラブの会員なんだろうなあ……はあ……。


『男性からも女性からも愛されるなんてルゥちゃんに嫉妬しちゃいそうですよ』

『……君が面白がっているのは声でわかるぞ、スミレ……』


 

 新機歴121年12月20日16時21分 スレイブ解放作戦開始


 パラライザーと共に簡易式のバリアフィールドを装備したパイロット達は意気揚々と宿舎へと向かっていった。


 バリアフィールドは最大10回までの攻撃を防ぐという、あくまでも簡易式のお守りみたいなものだけれども、生身のスレイブが相手とは言え不意打ちは怖いからね。有って困る物じゃ無いのできちんと装備して貰ったんだ。


 どうやらレニー達が作戦ポイントに到着したようだね。同じくグランシャイナーも待機ポイントについたと連絡が入った。よし、そろそろ私達も動くことにしよう。


 機体に戻り、リソースの7割を探査に回す。宙と船のフィアールカ達はどちらも忙しいので俺が頑張るしか無い。咄嗟に動けないと困るので、7割に抑えてはいるが、まあこれで十分だろう。


『じゃ、私達もー』

『遊んでくるね~』


「ああ、行ってこい。いいか、わかっていると思うがあくまでも無力化が目的だからな!張り切りすぎるなよ!」


『わかってるよー。久々で嬉しいけどー』

『僕たちそこまでお子様じゃないんだぞー』


 俺とは違って基本的にマシューにコントロールを預け、あまり自立機動をする事が無いケルベロス。そのAIであるオルとロスは子供タイプのAIなので、ああは言っているが少々心配だ。


「過保護ですよ、カイザー。あの子達は口調は幼いけれど、きちんとわきまえていますからね。貴方の方がよほど幼い所があるくらいです」


 くっ……!


「わかったよ、わかったから止してくれ。俺に効きまくる。集中出来なくなってしまうだろう?」

「だったら余計な事を考えず黙って集中なさい」

「くう……」 


 ギロリとスミレを睨み付けてやりたいところだが、この状態でルゥを動かすわけには行かないからな。我慢だ。我慢。


 では、俺も仕事を開始するとするか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る