第四百五十二話 無力化のために
「こちらカイザー。作戦開始は三十分後だ」
今から向かうことを告げるため、マシューに連絡をすると呆れた声が返ってきた。
『いやさあ、作戦を開始するのはわかってるよ。でも何をするのか教えてくれないとあたい達も動きようが無いんだぞ?』
ごもっともだ。今説明しようとしてたんだ、本当だぞ。
……スミレがなんとも言えない顔をしている……本当だってば。
「時間に余裕が無いので説明は手短になるが……概要としては――」
ざっくりと雑に言えばグランシャイナーでの強襲作戦だ。艦砲射撃にて広範囲にマギアディスチャージを放ち、稼働中及び降着姿勢で停止中の機体達をそっくり使い物にならなくすると言う作戦で、もうグランシャイナーだけで良いんじゃないかな? と言われてもおかしくは無い様な雑な作戦である。
ただし、この作戦に効果があるのは機体と、それに乗っているパイロットだけだ。マギアディスチャージの阻害によって魔力供給が滞った魔力炉は、魔力を得ようとパイロットから魔力を吸い出すべく、その出力を上昇させる。
パイロットが正気であれば、魔力炉が暴走したのに気づいて脱出をするのだろうが、スレイブ状態のパイロットにはその判断能力は無い。
後は魔力欠乏症を起こして意識を失うまで魔力を吸われ続けることになり、結果として無力化されることになる。冒険者達が乗っている給油タイプ――給魔と言うべきか? の魔力炉であればエーテリンタンクが空になるだけで済むのだがな。
さて、この作戦においてグランシャイナー以外の人員、俺達とマシュー達、そしてステラの仕事が残っているのだろうかと思うかも知れないが、むしろグランシャイナーの攻撃は補助的な物で有り、実は地上部隊である我々が当たる作戦の方がメインの最重要ミッションとなるのだ。。
マシュー達が控えて居るのは宿舎付近と言う事で、辺りには多くのスレイブ達が生身で待機している。しかしマギアディスチャージの効果があるのは機体と、それに乗り込んでいるパイロットのみだ。
宿舎内で待機しているスレイブ達は機体に搭乗していないため、マギアディスチャージで無力化する事は不可能だ。なので、それを成すためには我々地上部隊が行動に移す必要がある……のだが、生身の対人相手、それもなるべく怪我をさせないようにという制限の中でロボの巨体でどうこうしようというのは流石に無理がある。
そこでキリンとフィアールカと言う残念な天才メカニック達が組み上げたオーバーテクノロジーな白兵戦専用兵器の出番だ。
「グランシャイナーで強襲すれば幾ら朦朧としているスレイブとは言え、防衛体制に入るだろう。そこでマシュー達に働いて貰う。が、ケルベロスから降りてパイロット自身に戦って貰う」
『生身でのドンパチはなんだか久々だな。最後にやったのはじっちゃん達をとっちめた時だったか……』
「マシュー……それとこれを一緒にしちゃ駄目だよ……」
『怪我させないようにギリギリの線で殴るんだぞ? 一緒じゃ無いのか?』
「殴っちゃ駄目だと思うよ!」
マシューとレニーが緊張感の無いやりとりをしている……ほんとこいつらは相変わらずだな。
「ガチガチにならないのは結構だが、気を抜きすぎるなよ。いいか、俺が現地に到着したら、マシューやステラ達に『パラライザー』を配布するので装備して貰いたい。勿論、この作戦にはレニーにも参加して貰う事となるからな、頑張ってくれよ」
「勿論です! カイザーさん!」
パラライザーはハンドガンタイプの無力化兵器で、一つのカートリッジで60発の麻痺弾を撃つことが出来る。麻痺弾は実弾では無く、出力を絞られた光弾で、フォトンランチャーをベースにしてあれこれやって作った物だ。キリンの話がクドすぎてちゃんと
事前にパラライザーと共に受け取ることになっているカートリッジは一人あたり2本、一人に付き120発の割当だ。これが多いのか少ないのかは装備車の腕次第だが……なあに、いざとなれば俺もケルベロスも居るんだ。撤退することがあっても、壊滅するような事にはならないだろうさ。
レニーやマシュー、ステラ達が白兵戦をしている間、俺とケルベロスはただ待っているだけでは無い。それぞれ自立起動にて行動し、スレイブ化を維持していると思われる機材の捜索と対処をするという重要なミッションにつくのである。
ポーラと接続可能な俺がスミレと協力し、周囲を隈なくサーチする。機材を発見し次第、ケルベロスに向かってもらい、機材の回収又は破壊をしてもらう……というわけだ。
キリンから『出来れば回収してほしいんだよね』としつこくしつこく言われているため、なるべく回収するようにしたいところだが、それによって危険が及ぶようであれば遠慮無く破壊させて貰う。キリンだって流石に俺達の安全と機材を天秤にかけたら俺達に傾く……よな? ……不安になってきたが、もし破壊する事になったとしても文句は言わせないぞ。
『こちらフィアールカ。間もなく上空に到着するの。トランスポートエリア内に入り次第パラライザーの転送をするの……ん、転送完了なの。ストレージチェックよろしくなの』
「間もなくというのを数秒前という意味合いで使われると困るのだが……うん、ストレージ確認完了。ありがとう、フィアールカ」
『礼には及ばないの』
ロボである俺にとってレーダー反応というのは息を吸う様な感覚で自然と感知出来るようになっているのだが、考え事をしている時に声をかけられても中々気づけ無い現象と同様に見逃してしまうことが稀に……いや、しばしばあるのだ。
「それはカイザーがたるんでいる証拠です。さあ、支度が出来たのなら向かいましょう。ほらほら、レニー、移動しますよ。早く飲み込んでしまいなさい」
「んぐ!? ぐ~! ……はぁはぁ……危なかった……」
パンを食べていたらしいレニーが急に声をかけられ喉に詰めてしまったようだ。思えば今日は朝から動き詰めだ。落ち着いて食事を摂る時間と言ったら倉庫での配給だけだったからな。
「レニー、この戦いが終わったら、ルナーサにでも行って何かうまいもんでも食おうな! 勿論、俺の奢りでだ! さあ、もうひと頑張り頼むぞ!」
「はい! カイザーさん! ふふ、いっぱいお腹空かせておきますね!」
スミレが『妙なフラグを立てないでください』と変なことを言っているが気にしてはいけない。もう直ぐ日が暮れてしまう。今日の締めとしてきっちり仕事を済ませてしまおう。
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