第四百五十一話 救助活動
グランシャイナーを見送った俺達はナルスレイン達と通信を繋ぎ、一度商業区の中央広場で落ち合うことになった。
移動中に帝都の被害状況をチェックしたのだが、想定していたよりも酷い有様だった。眷属達による破壊の跡だけでは無く、明らかに人間達の手によって破壊された跡も多数見られる……。
恐らくは火事場泥棒的な物なのだろうな。国を管理する者達が頼りにならない状況――暴走する国民を止める騎士や衛兵は眷属と化し、街の秩序を護る者が不在となったわけだ。これ幸いと、労から囚人達が脱走し、街で好き勝手やり始めたのを見て『俺も俺も』と、小狡い奴らが便乗した……という事も考えられる。
にしても、これは相当数の建物が使い物にならないな……天幕だけでは無くて、きちんとした避難所も合わせて作るよう指示を出しておいて本当に良かった。とは言え、この様子だと帝都の人口をカバーするほどの規模にしなくてはだめそうだ。
帝都の総人口は確か8000人弱くらいだったか……住民達の避難が終わった後は一時、平原まで下がって休む事になっているが、キリンには残業をして貰う事になりそうだな……。
「民を救ってくれて感謝する」
顔を合わせるなり頭を下げるナルスレイン。当然のことだから気にするなと、と頭を上げてもらってここまでの情報を交換し合った。
ナルスレインは工業区解放のためにジルコニスタと第一小隊を残して商業区へ移動。速やかに中央広場を目指し移動し、広場の安全を確保した後、昏睡するパイロット達を一時的に保護する場所にしたそうだ。
そしてこの広場を拠点とし、第二小隊をスレイブ解放部隊と住民捜索部隊に分けて送り出し、ナルスレインは近衛と共に眷属化の被害者や誘導されてきた住民の保護にあたっていたそうだ。
予想していた通り、帝都内には眷属機の姿は殆ど無く、スレイブ達が街の警備に当たっていたらしく、作戦は実にスムーズに行えたらしい。
ここに来る途中にジルコニスタ達の姿を見なかったが、彼らは工業区の外れにある倉庫を一時避難所として人を集め、フィアールカの回収を待っているとのことだった。港湾エリアとは真逆の方向だものな、会わないわけだ。
「予想以上にスムーズに作戦が進んでいて有り難い限りだな。それで俺達の方はだな……――」
俺達の報告を聞いたナルスレインは頭を抱えた。悲しげな瞳で遠く見える城を見上げ『それでか……』と力なく呟いている……。
いや、本当に申し訳無いと思っているからさ……そんな目でみるのは辞めてくれ……修復作業には全力で力を貸すから……。
ジルコニスタに連絡を入れると、既に準備は万全だとの事だったので、フィアールカに連絡を入れこちらの情報を伝えると『わかったの。すぐ拾いに行くの!』と元気いっぱいに答えてくれた。
……のだが、流石に街中ではグランシャイナーを着陸させるスペースは確保できないため、俺とフェニックスを使った力技で被害者の搬入をすることにした。
その間、残りのマシューとミシェルにはステラと共に居住区の救助に向かってもらい、キリンには周囲の索敵に回って貰った。
さて、どうやってグランシャイナーまで送るか……だが、それには以前使用していたカーゴを使おうと思う。予備を合わせればいくつかあるため、フェニックスと2機で運ぶとなれば都合が良いのだ。
まずは商業区からと言う事で、広場に残っているステラのパイロット達に協力をして貰ってカーゴに被害者を乗せて貰う。一定数を乗せた後、俺とフェニックスがそれぞれそれを抱きかかえて浮上し、上空で待機しているグランシャイナーの元に運び込む。
懸念するのはホバリング中のグランシャイナーをルクルァシアが狙い撃つという事なのだが……幸いな事に今のところはそのような反応はない。
気付いていないのか、わざと見逃しているのか、攻撃する方法が無いのか、その発想に思い至らないのか……理由は不明だが、此方としては助かっている。
しかし、予想より多くの人々が眷属化の被害に遭っているな。小さな子供の姿こそ無いが、ある程度の体格があれば性別年齢問わずに眷属化の被害に遭っているようだ。
これだけの人数を何処でどうやって養っていたのか、非常に疑問だったが……それは後にマシュー達からの連絡で明らかとなる事になる。
被害者の移動が終わり、次に住民達。グランシャイナーが何往復かした後、ジルコニスタの元に向かって同じ作業を済ませる。広場に戻ると、居住区からやってきた住人達が保護されていたため、また同じく上まで送り届けた……と、眷属化の被害者の姿が無い事に気づく。居住区にはスレイブが居なかったのか、それともまだ接敵していないのか……と、考えて居た所でマシューから通信が届いた。
『カイザー、あたいだマシューだ』
「ああ、聞えている。どうした?トラブルか?」
『トラブル……かどうかはわからないけど、とんでもない場所を見つけちゃったんだ』
「とんでもない場所……?」
『元は騎士団が使っていた施設らしいんだけど、スレイブ達が詰める兵舎……? 見たいな感じになってるんだ』
マシューがいる場所の座標を
――なるほどな……まさかこういう施設まで用意していたとは。
マシューが兵舎と言ったのは正しい。いくつかの棟に分かれているその施設には、力ない歩みでスレイブと思われる人々がゾロゾロと出入りをしているのが見えるからだ。
また、併設されている訓練場であろう広場には多くのシュヴァルツの姿が確認出来る。恐らくルクルァシアが創造した機体はここに運び込まれているのだろう。
搬入された被害者達のメディカルチェックを見て、予想より大分健康状態が良くて驚いていたんだが、恐らくこの施設内できちんとした食事を摂らせているのだろう。
ルクルァシアがやらせているのか、誰かが善意でやっているのか……それはわからんがな。
ともあれ、ここを一網打尽……ではないな、沈静化させることが出来れば状況は大きく進むだろう。
「マシュー、そのまま見つからないようその場で監視を続けてくれ」
『了解! 他の連中にも伝えておくよ』
マシューと共に施設の方向に向かったのは他にステラが5機。対するシュヴァルツ達の数は機対数だけで見れば最低でも60機。ただ倒せば良いのであればなんとかなる戦力差だが、相手をなるべく傷つけず、無力化するとなれば中々に厳しい状況だ。
となれば……だ。
「キリン、俺達はグランシャイナーと共に現地に向かう。フェニックスを残していくので、広場の対応を頼む。まだここに向かって居る避難民がいるかも知れないからな」
『ああ、わかったよ。不気味と奴の動きは無いままだし、今のうちに救えるだけ救ってきたまえ』
増援として向かうのは俺とグランシャイナーだけではあるが、あの施設の様子を見ればグランシャイナーと俺の力があれば鎮圧は容易い。
問題は鎮圧した後の話だ。これまでのスレイブ達は、機体から離して暫く休ませるだけでその影響から解放されていたのだが、映像で捕らえたスレイブ達の様子を見ると、どうも生身の状態でスレイブ状態を維持しているようだ。
となれば、あの施設周辺に何らかの仕掛けがあり、それによって囚われているのかも知れないな……。
昏倒させて避難所まで運搬すれば、仕掛けの範囲外に出て解き放たれるだろうとは思うのだが……なんだか嫌な予感がする。念のために仕掛けを見つけて破壊しておくことにしよう。
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