第四百五十話 破壊大作戦

 間抜けなアネモネの仕様から予測出来たかも知れないが、完成した対アネモネ決戦兵器、それはリモート制御可能なマギアディスチャージボムだ。


 ジルコニスタ達白騎士団ステラが装備しているのは榴弾タイプで、着弾後に周囲及び被弾した対象に効果を及ぼす物である。


 この対アネモネ兵器として作られたこれは、通常の物をリモート制御可能にしただけ……なのだが、結果として非常にエグい事になってしまった。


 リモート制御仕様にした理由は言うまでもなく、触手の断面からドローンを侵入させ、本体の元に到達後、魔導炉付近に貼り付けた後に作動させるためだったのだが、結果としてドローンを使うまでも無く、ただ中にぽいっと入れるだけのお手軽作戦になってしまった。


 いや、発動までのプロセスは別に良いんだ。ドローンに運ばせる手間が無くなっただけだからな。問題はその後だった。


「マギアディスチャージボム、対象まで10秒……8秒……5、4、3……起動」


 淡々としたスミレのカウントダウンが終わり、無情にも起動スイッチがONになった。


 ――瞬間、触手達がビクン! と大きく跳ね、僅かに痙攣した後に沈黙。本体が停止したショック反応かなにかだろう……等と思った瞬間、遠くから響く鈍い轟音。


「……あっ」


 スミレが珍しく焦った声を出した……これは……おいおい、マジかよ、スミレさん? マジでマジですかこれ、ちょっとお!?


「城の一部が……崩れたな……? スミレ、なあ、一体、何故、どうして、こんな事に……?」


 シュヴァルツヴァルト城……その本体部分でこそ無いが、兵士が詰めているであろう城壁塔が跡形もなく崩れ落ちてしまったぞ……おいおい、今頃ステラの皆さん泣いてるんじゃ無いのか……。


「……あ、アネモネの機能停止と何らかの関係はあるのでしょうが……少々お待ち下さい。データを収集しますので」

 

 先程崩落した製錬施設と思われる部屋にはアネモネの解析に向かったドローンが送り込まれていたままだが、どうやらその機体は崩落に巻き込まれず健在のようで、今もなおデータを送り続けている。


 スミレはそのデータを元に事故の原因を探っているようだ。


「あ、ああ……なるほど……そういう事ですか……私達は……悪くない……悪くないです……ね」

「どうした? なにかわかったのか?」


 なんだか歯切れが悪い独り言を言っているスミレに声を掛けると、苦笑いと共に状況を報告してくれた。


「アネモネが潜伏していた地下施設……いえ、地下施設だと思っていたのがそもそもの誤りだったのです」

「誤り……?」


「あれは言わばアネモネの巣。これはあくまでもデータに基づいて導き出した推測ですが、ルクルァシアによって地下深くに配置されたアネモネは、あたりに漂う魔素や、城に詰める人々から溢れ出る魔力を吸収し、地底で成長。身体の成長とともに触手を伸ばし、それを柱としながら巣を拡張……」


「なんだかキリンのトンネル掘りを思い出すな……」


「キリンが聞いたら怒るでしょうね……それでその……我が身を構造物として作られていた地下施設というか、城と一部一体化していたわけですので……それを制御していた本体が機能停止してしまうと……」


「……つまりだ、建造物の支えとなっていたアネモネが力を失った結果、自重で崩落してしまった……ということだな?」

「……そうなりますね。もっとも、マギアディスチャージ発動によって地底のアネモネ本体が多少暴れたのも確認できましたので、我々のせいというよりは、アネモネの自爆、つまり悪いのは全てルクルァシアということになります。そもそも建造物に侵食していたわけなのですから、遅かれ早かれ崩落は免れなかった、はい。我々は無罪です。全てルクルァシアの仕業です」


 ……凄い責任のなすりつけ方だ……! 状況が状況だし、誰も文句は言わないと思うのだが、スミレとしては城にダメージを与えた原因が自分に有るという状況は避けたいのだろうな。


 たまにスミレはそういった謎の矜持を振りかざすからな……正義のAIたる部分が国の重要施設の破壊をしたという事実を許さないのかも知れない……。


 そもそも、これから城内に潜むルクルァシアと戦うにあたって、城が無事であるという保証は一つもないのだが……きっとスミレならば――


『我々の攻撃により、城が崩壊するのはまずいですが、ルクルァシアが城を破壊しながら派手に登場した、というのであれば問題はありませんし、好都合です。既に壊れているものを壊した所で責任は最初に破壊した者に向かいますから』


 ――なんて酷い事を言うに違いない。


 ……なんだかスミレが睨んでいるが、この思考はスミレと共有しないよう念入りにブロックしている……はず。


「……カイザー? なにやら妙な事を考えていませんか?」


「なんでもない。ああ、それよりもだ! アネモネの討伐は終わったんだ、今のうちに避難民を連れて港へ向かうぞ!」


「……? はあ、そうですね。フィアールカからもそちらに向かうと連絡が入りましたし、移動準備を始める頃合いでしょうね」



 なんだか釈然としない顔をしているスミレだったが……直ぐに仕事に移ってくれたので助かった。まあ、我々はAI故に忘れるということがないので……後からじっくりと詰問される恐れもあるのだが……。


 マシュー達が道路上の触手を片付け、進路を確保した頃フィアールカから『着いたの』と連絡が届いた。

 

 支度が終わった避難民達を港までぞろぞろと連れていくと、そこには見慣れた帆船が主張たっぷりに停泊していた。俺達からすれば『ああ、居るなあ』という感想しか出てこないのだが、あれを初めて見る人達はそうはならないよな。


「な、なんだあの船は……見たことねえ程でっけえぞ!」

「ま、待て、よく見ろ! あの船、う、海じゃなくて宙に……浮いてないか?」

「なんだよ、あれ……俺達が知ってる船とは何処か違うぞ……」

「凄いね! 外の国はこんなに大きなお船を作ってたんだ!」

「平和になったらトリバやルナーサに行ってみるのもいいかもねえ」 


 人々が口々に驚きの声を上げ、思い思いに感想を述べている。なんだか観光名所に連れてきたかのように盛り上がって居て微笑ましいのだが、敵機が来る前にとりあえず乗ってもらおう。


「感想は後だ後! 船に乗るまで安心してはいけないぞ! さあ、まずはそこのタラップから乗り込んでくれ! 中はもっとすげえんだ、ほらほら、本当のお楽しみはこの中だぞ! さっさと乗った乗った!」


 ケルベロスのハッチを開け、マシューが人々に『さっさと乗り込め!』と声を張り上げている。マシューはこういう時にやたらと頼りになるんだよな。流石トレジャーハンターギルドの頭領さんだ。


 避難民が一通り乗り込んだ所でフィアールカから通信が入った。


『とりあえずはこれで全員なのね?』

「ああ、俺達が連れて来た人達は全員搭乗完了だ」

『ん、わかったの。じゃあ避難所まで行った後はまた好き勝手動くのよ。帝都付近には居るから何かあったら呼んでほしいの』

「了解だ」


 現在平原ではクルー達や、向こうに残った同盟軍やステラの面々達によって急ピッチで避難所が作られている。衰弱した住民の保護や、今後の戦いに備えての避難目的で建てられているのだが、戦いが終わった後も希望者には暫く貸与する事になっている。


 俺達が来るまでの間、ワイトやバーサーカーによって帝都には少なくは無い被害が出ている。建造物も勿論、無事では無い物が多く、平和になっても住む家が無いと言う人も数多く居るのである。


 当然、戦後の復興作業には我々も手を貸すし、そうなれば通常より早い復興が期待出来るとは思うのだが、それまでの間、雨風を凌ぐ場が無いのは問題だ。


 なので、平原には急ごしらえの天幕とは別に、簡易ながらしっかりとした建造物も建てることにした。全員が入れる程のものでは無いが、それでも家が倒壊した人達を受け居られるだけのキャパはあるはずだ。

 

 あの平原は魔獣が住む森に行くのに丁度良い場所にある。全てが終わり、避難所としての役割が終わった後も建物はそのまま残し、フォレムのようにハンターの街にするのも良いかも知れないな。帝国では機能を失っているハンターズギルドが息を吹き返す場としてぴったりだろうさ。

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