第四百四十九話 アネモネ対策
アネモネの触手に喰われた鉱石は、内部のコンベアにて城の地下に潜んでいる本体まで運ばれていく。
そして、その本体にて製錬され、機兵の材料としてルクルァシアに献上されているようなのだが、気になるのは機械生命体であるアネモネを産み出せる程の能力を得たのなら、なぜ直接眷属用の外骨格や機兵を産み出さないのか? 創造の力を使えるのならば、何故資材を必要としているのかという所なのだが……。
その件については、以前にキリンとスミレによって行われた調査結果がそのまま答えになりそうだ。
ルクルァシアは分体を作り、眷属として使役することが出来るが、この場合は自らの身体から分離させた組成物を使用して生み出す事になっている。
その眷属が外骨格の様にシュヴァルツを模した外骨格をまとった姿がワイトだ。その外骨格部分は勿論、金属で構成されている。
以前鹵獲した外骨格を分析したところ、それはこちらの世界にありふれている鉱物、魔鉄鋼で作られていることが解った。
もしもルクルァシアがその力で錬成していたならば、少なからず奴の因子が検出されるはずなのだが、眷属の構成物質を元にディープスキャンをかけた結果は白。どうやらきちんとこちら産の鉱物を製錬し、それを原料として組み上げた物らしいと言う事がわかった。
つまり、だ。ルクルァシアは無から有を生み出すことは出来ないのではなかろうか。ルクルァシアが持つ創造スキル的な物は、原則等価交換で行われる錬金術の様な物であり、外骨格を創り出す場合は鉱物が、機兵ならばそれに加えて魔石などの素材が、アネモネのような機械生命体を生み出すというのであれば、さらに自らの分体を素材とする必要があるのでは無いか……そう考えれば全て納得がいく。
現在ルクルァシアはアネモネを使ってせっせと資材を製錬し、眷属達の容れ物を作る作業に没頭しているわけだ。ラスボスがそんな真似をしていると考えると、なんともしまらず笑えてくるのだが……まあ、笑える話では無いよな。
今回の作戦において重要なのはその『製錬』という作業だ。眷属以外の物を創造するためには別途素材が必要だと言うのは先ほど話したとおりだが、ならば鉱石でも行けるのでは無いかと思うのだが、キリン先生が『不純物が混じるとうまくいかないんじゃないかね』とおっしゃっていた。なるほど確かにそうかも知れない。
鉱石から製錬した鉱物をさらに精錬して素材に使っているとなると、便利なようで中々手間が掛かる能力だな……いや、技師がせっせと組み上げる手間を考えれば、十分に恐ろしい能力であるのだが。
さて、先ほどから色々と
それを成し遂げたのはマシューに仕掛けて貰った『いたずら』だ。
マシューが行ったいたずらというのは、スキャン用のドローンをアネモネの触手に開いた穴の中に投げ込んでもらうことだった。
フィアールカにより頭を破壊されたり、途中から千切られたりして若干弱っては居るが、内部の運搬機能はまだ生きていた。そこで、鉱石の代わりにドローンを投げ込み、こちらからは難しい内部の撮影と精密スキャンをさせようという、半分賭けのような事をしていたのだが、幸い異物を判別する様な高度な仕組みは無い様で、まんまとアネモネ本体まで到達してくれたのだ。
装置が到着し、次々と情報が送られてきた時には歓声が上がった……のだが、簡易AIによって半自律機動をしているドローンが取った緊急待避行動によって明らかになった情報を見た我々はなんとも言えない気持ちになってしまったのだ。
「まさかなあ……と思いつつ、ダメ元で考えて居た作戦がズバリ当たるとはな……いやあ、このルクルァシアも俺が知るアイツのように大雑把な性格のようだな……」
「これは……すいませんカイザー、貴方の命令ですので、渋々従って作りましたけれど、いくらなんでも無理があるのではと思っていました。腐っても司令官、その勘は健在と行った所でしょうか」
「渋々だったの!? もしかして難しい顔をしていたのって……」
「あまりにも馬鹿らしい作戦だったからですよ。戦術支援AIとして、あれを承諾して良い物かどうか、非常に悩んだんですからね。ま、結果オーライなので良しとしましょう」
「くっ……いやまあ、俺もちょっと無理があるかなって思ったけど、賭けにかったから良しとしようじゃないか」
ルクルァシアは冷酷な無口キャラなので、頭脳系キャラのように見えてしまうのだが、実のところそこまで賢いわけではない。非常にメタな話をしてしまえば、シャインカイザーと言う作品は、一応は子供向けアニメ作品である。故に、作中で上から出される命令というのは子供にとって分かりやすい物ばかりだった。
やれ、鉱山を奪って兵器生産工場に変えろだの、スーパーを潰して食糧難による恐怖を植えつけろだの、はたまた学校を破壊して地球人の知能レベルを低下させろ……まであって、実況スレではしばしば「そうはならんやろ」とツッコミを受けていた。
最終シーズンである4期で満を持して登場したルクルァシアは、これまでと雰囲気がガラリと違うシリアス仕様で、掲示板では『いよいよシリアスさんの出番だな!』と、盛り上がったのだが……出てきたのは相も変わらず短絡的で、間が抜けた作戦だった。
それには大きなお友達はがっかりとしてはいたが、子供向けアニメであるということで、そこはまあ、ぐっと飲み込んでいたりもした。最終話付近でようやくシリアスさんが顔を出した時にはそれはそれは盛り上がったけれど、中には作風代わり過ぎじゃん! と、嘆く人も居たっけな。まあ、その辺りは人それぞれと言う事だな。
さて、そんなルクルァシアが現実世界に現れてしまっているわけなのだが……ここで不安だったのは劇場版の存在だ。
玩具を売るため、そのメインターゲットとなるお子様向けに作られるのが地上波版だ。そして人気作は新たな玩具を売るべく、劇場版が作られることが有る……のだが、別の理由で作られることも有る。
シャインカイザーのように長い年月を開けてから制作されるパターン。
これは様々な理由で作られると思うのだが、おそらくシャインカイザーの場合は『かつてカイザーを見ていた子供達をメインターゲットとして』作られたのではなかろうか。
子供向け玩具としてはとってもお高いプレミアム仕様の玩具というものが存在する。金属パーツをふんだんに使っていたり、原作再現が完璧な変形ギミックが搭載されていたり……数千円で買える子供向け玩具とは質も金額も違う数万円クラスの玩具である。
それらを買うのはもちろん大きなお友だちなのだが、大人になってもロボットが大好きでたまらない俺のような層向けに、かつて人気があったシリーズの玩具を唐突に販売することが有るのだ。
そして、運が良ければその販促のために劇場版が作られることも有る。かつて見ていた子供達をメインターゲットとした内容、つまりは大人向けの内容となる事が多いわけなのだが……となればルクルァシアの間抜けさが消え、残虐な作戦で人類を死に追いやるような真の悪に変貌している可能性もあった。
帝国の人達を強制的に使役し、眷属として好きなように操っていたことから、もしかして……と思っていたのだが、どうやら俺の死後作られたらしい劇場版のルクルァシアも変わらず少々間抜けなようだ。もしも、R18Gなガチ仕様のルクルァシアが相手となるならば、思いついた作戦は当然通用しないのだが、詰めが甘くて嫌がらせのような事しか出来ないおバカなルクルァシアが相手となれば話は別だ。
「……しかし、これはちょっと俺の予想を超えているぞ。まずは魔導炉の位置を確認してから再度ドローンで、と思っていたのだが」
「コンベアの終着点が製鉄炉ですか……それも、直ぐ側に魔導炉があると。確かにあれは負荷をかければ相当熱くなりますが……」
「まさか魔導炉の熱を利用してそのまま製錬する仕組みになっていたとはな……」
「害がある物を吸い込んだら弱点に直撃するというのに、何を考えて居るのでしょうか。まったく理解に苦しみますよ」
まさかの展開である。てっきりコンベアの行き着く先は集積所かなにかで、そこからアネモネ本体へと運び込まれ、製錬ユニットか何かで作業をするのかと思っていたのだが……まさかダイレクトだったとは。通りでドローンが待避するわけだ。
魔導炉が熱で壊れてしまわないのだろうかと思うのだが、それはきっとルクルァシアの力でなんとかしているのかも知れない。そこまで出来るというのに……何故弱点をさらけ出すような真似をしてしまうのだろうな。
まあ、まさか触手から対策兵器をぶち込まれるとは夢にも思わなかったのだろうが……相変わらずなんというか……詰めの甘い奴だ。
なんだか非常に間抜けな展開になってしまったが、これで良いんだよ。少年向けロボットアニメの悪はこうでなくっちゃ。
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