第四百四十八話 ルクルァシアの目的とは

 対策兵器の製造完了まであと少し。


 触手の本体が疲労を感じているのだろうか、どうも触手達の動きが鈍くなってきたようだ。これは良いチャンスだと、マシューに頼んで少々"いたずら"を仕込んでもらった。この結果によっては俺の作戦も変更を考える必要があるのだが……まあ、大方予想通りの結果が返ってくることだろう。


 この世界には魔獣という名の機械生命体が存在している。しているもなにも、その発祥は俺達にあるのだが……まあ、その件についてはこの際置いておこう。


 その魔獣という存在は、元々機械生命体だったわけでは無く、魔物や動物が変異して機械化したものである。それ故に、機械でありながら食事を摂り、繁殖をし、まさに機械生命体と呼べる存在になっている。


 そして、生命体故に痛覚も存在し、それによって恐れや怒りという感情も備えているわけだ。


 さて、何故いきなりそんな話をしたかと言えば、どうも目の前に居る触手も痛覚を持っている節があるのだ。そもそも、純粋なロボットであれば、痛覚など備えていない筈だ。フィアールカによって頭を潰され、痛みで暴れていると普通に受け入れていたのは魔獣という存在に俺達が慣れすぎているためだ。


 採掘ロボは恐らくルクルァシアが作り出したものだ。であれば、魔獣では無く、純粋な機械であり、痛覚や疲労などを感じることは無いはずなのだ。


 しかし、現に目の前のこれは生命体のように振る舞っている……。


 レーダー反応からすれば、触手の本体は体育館くらいはありそうだ。機械ではあり得ない感覚を備えているとなれば、これはルクルァシアが製造したロボットでは無く、もしかすると――


 ここで思い出して貰いたいのがアニメシャインカイザーに登場するルクルァシアのモチーフだ。


 ルクルァシアについて語るに当たって、挙げなければならない組織が居る。それは最終シーズン、4期で明らかになった黒幕的な組織で【ルノィエ・ルー】というのだが……唐突にその存在を明らかにしたルノィエ・ルーは、邪神復活のために暗躍を続けていたらしいのだ。


 その組織は、立場的にはジャマリオンの上位……酷い例えをすれば元請会社みたいなもので、下請けのジャマリオンにしょうも無い嫌がらせをさせている裏で、ひっそりと地球人の悪感情だかなんだかを集めて邪神復活のエネルギーにしていたそうな。


 てっきり、コテコテのロボvsロボの戦いのまま終わると思っていた視聴者達に、誰も得をしないロボvs邪神という展開を見せてしまった罪状で戦犯捜しが行われ、暫くの間掲示板で制作スタッフ数人が叩かれていて酷かった……っと、そんな話は今はどうでも良いな。


 組織の力によって目覚めたルクルァシアは、褒美であると、ルノィエ・ルーの幹部達を眷属として迎えて自らの力を一部与えたのだが、ルクルァシアの力を得た組織の幹部達はたちまち化け物のような姿に変貌してしまったのだ。


 その化け物の様な姿というのが、所謂SAN値がまずい事になる系の……アレ。ルクルァシアやその眷属達は例の神話に登場する邪神達をモチーフにしたとしか思えない中々に凄まじい見た目をしているのである。


 話を戻して現在そこらを破壊しながら暴れまわっている触手達だが、サイズがサイズだけにぱっと見では『なにか黒っぽい大きな触手が這いずり回っている』ようにしか見えない。

 しかし、フィアールカやフェニックスから送信されてきたデータと俺がスキャンしたデータを元に全体図を導き出してみれば……イソギンチャクを2つ繋げたような……それでいてどす黒く、ヌルヌルと蠢く中々に破壊力が……精神的な破壊力が有る姿が浮かび上がるではないか。


鉱石を捕食する魔獣が存在し、それを捕獲して良いように使っているのかもしれないとも考えたが、あんなに気持ちが悪い魔獣が居て良いはずが無い。なんだか暴論になってしまうが、あんな狂った姿している存在は奴の作った何かに間違いないのである!

 

 ……取り乱しかけたな、落ち着こう。


アニメ作中のルクルァシアが出来たことと言えば、幹部達を眷属化した事と、その幹部達や配下の兵士が乗り込む機体の生成だった。


 幹部達の姿はルクルァシア同様、どちらかと言えば有機生命体と言えるヌルヌルぐちゃぐちゃとしたものであり、少なくとも機械の体では無かった。


 そしてルクルァシアが生成する機体はきちんとしたロボットであり、単なる乗り物で会って、俺達の様な意思を持つ存在では無かった。当然、パイロットが乗り込まねば動作しないし、痛覚なんて物は存在しなかったのだ。


 ……


 ルクルァシアの配下は現在確認できているもので3種。パイロットを必要としない眷属、眷属化したパイロットスレイブ、そして今対峙している相手、触手――仮にアネモネと呼ぼうか。可愛らしい名前だが、イソギンチャクを英語でいうと『Sea anemone』と呼ぶらしいからな。


 その中でも眷属はルクルァシアが直接産み落とした存在だ。親に似て気色悪い姿をしている眷属は、不定形の身体を利用し、はルクルァシアが生成しているのだろう機体に潜り込んでそれを身体として利用しているのだ。


 おそらく最初の内は帝国軍の機体をそのまま使用していたのだろうが、それだけでは数も性能も足らず、製造工場の一部としてアネモネを生成し生産の助力としたのだろう……と、思っていたのだが。


 そのアネモネに痛覚が備わっているとすれば、話は別だ。明らかに機械で構成された身体であるというのに痛みを感じ、大暴れをしているわけだ。


 フィアールカの攻撃を痛がり暴れるその反応は正しく生命としての反応だ。少なくとも眷属が操る機体のそれではない。


 機体を外部骨格のように纏って行動をする眷属はルクルァシアが我が身の劣化コピーを作成し、その身体から切り離した分体である。つまりは、奴の身体の一部と言える存在だ。


 奴らは感情や痛覚を持たない。あくまでも原始的にルクルァシアから受けたプログラムに沿って行動するだけの存在だ。ややこしい話だが、作中の幹部達のように、力を与えられて異形と化した眷属はに、元々備えていた知能や感情、そして勿論痛覚もきちんと存在している。


 アネモネは痛覚を備えている。ざっくりとしたデータしか取得できていないが、身体の組成はこちらの世界における魔獣と近い……が、イソギンチャク型の魔物を魔獣化した物というわけでは無いだろう。


 これまで、帝国が秘密裏に行ってきていた実験。俺達の装備品を鹵獲したり、魔獣を生み出してみたり。その魔獣をさらに変異させようとしていた形跡もあったな。


 生物を別の存在に変異させる、言いたくは無いが、それはルクルァシアが得意とする事では無いか。ルクルァシアにとって、輝力による有機生命の機械化は実に魅力的な物に移ったのでは無かろうか?


 奴の能力ともきっと相性が良いだろうさ。


 ……ああ、そうだ。ルクルァシアは……新たな生命体を創造しているんだ。


 奴がテンプレ通り良く喋る悪の親玉だったのならば、べらべらと話してくれるのだろうが、あいにく奴はそうではない。どちらかと言えば無口な方だ。むっつりと、ただただ不気味に微笑みを浮かべる、そんなタイプの邪神なのである。

 

 そもそも此方に来ているルクルァシアは俺が知っているアイツとは違う存在、劇場版のルクルァシアなのだ。こうして新たな生命体を生み出している以上、ヤツの狙いは俺が知る『世界を全て破壊し無の闇に染める』という、色々と拗らせた分かりやすいものではない筈だ。 


 ……もしかして奴の狙いは、世界に深遠から来たような生命体を蔓延らせる事ではなかろうか。世界を深遠に染め上げ、人類を永遠の苦痛に――


「生成作業完了しました」

「ぬお!?」


 なんだかゾッと寒気がした所ですみれが声をかけてくるものだから少々ドキリとしてしまった。


「何を驚いているんですか。出来ましたよ。さあ、さっさと"アネモネ"を駆除しましょう。まったく、あんな気持ちが悪い物になんて可愛らしい名前をつけているのですか……」

「……くっ! まさかスミレにダダ漏れだったとは」

「考え事をしている時のカイザーは、高確率でロックを解除してしまっていますからね。気をつけた方がよろしいかと」

「……善処しよう」

  

 とにかく! これで準備は整った。アネモネを破壊すれば奴の"神様ごっこ"に大きな支障が出るのは間違いない。さあ、今度はこちらが盛大に邪魔をしてやろうじゃないか。 

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