第四百四十三話 帝都

 我々の後を追い、此方に向かっている敵機の数は72機。平原の戦いのせいで随分と少ないなと錯覚してしまうが、そんな事はない。今もなお遠くに見える程にうぞうぞと機兵がひしめき、剣を打ち合うこの状況はこれまでの戦いで一番規模が大きいものだ。


 本来であればひたすらに広く、遠くまで見通せる平原なのに、全長10m前後の機兵が所狭しと並んで居るのだ。包囲網を抜けるときはサイズがサイズ故にやたらと狭苦しく感じたものだ。


 眷属機体にはパイロットが居ないため、このような出鱈目な運用が出来るのだろうが、それ以前によくもまあ、ここまで機体を揃えられたものだと思う。


 維持や機体作成に使用する素材を考えると、元々帝国がこれまでの数を用意できていたとは考えにくい。また、機体が少しずつ強化されているのも気に掛かる。いくら洗脳能力を持っているとは言え、支配下に置かれてしまった人間は眷属よりもマシくらいに知能が低下してしまうため、機兵のメンテやカスタムなど、器用な真似は出来ないだろう。


 エンジニアをさらって無理矢理というのも考えられなくは無いが……


 ……そうではなく、やはりキリンがポツリと呟いていた【生産能力】……無から有を作り出すことは出来なくとも、物質を生成・変換し、製造する能力スキルを備えているのかも知れない。


 その機能自体はキリンやグランシャイナーが似たようなものを備えているわけで、ファンタジー的なスキルではなく、あくまでも現実的な製造機能と考えればあり得る話……むしろそうでなければ、あれだけの戦力を用意するのは不可能だろう。


 現在、我々と交戦中の敵機はワイトとバーサーカーの2種、お馴染みの機体だ。キリンがタンクとなり、先行するワイトの群れを引きつけ、それをそのまま維持して肉壁として便利に使っている。相手は知能が低い眷属だ、ワイトはバカ正直にキリンの誘いに乗って向かって行くし、後続するバーサーカーもワイトを避けて抜けようとはせずに、そのままミチミチと詰まってしまっている。なんて酷い絵面なんだ。


 しかし、これもまた作戦だ。酷い絵面だが、残念なことに非常に有効な作戦なのだ。スズメバチを襲うミツバチの群れかのように、みっちりとキリンを包み込む眷属達に向かってフェニックスとケルベロスがフォトンランチャーを撃ち込んでいく。当然、キリンはバリアをはっているためフレンドリーファイアでダメージを受けることは無い。次々と撃破されていく眷属達を見て色々な意味でため息が漏れてしまう。


 それと並行して暴れているのはレニーとミシェルだ。それぞれ爪と刀を振り、キリンに釣られなかったワイトやバーサーカー達を小気味よく斬り伏せていく。そうそう、戦いとはこうでなくてはな! いや、キリンの作戦は有効だと思うし、サクサク狩れて有りがたいなあとは思うのだが……やはりな!


『レニー、随分と動きが良くなりましたわね』

「そりゃそうだよ……あれだけの訓練をして変わらなかったら悲しすぎる……よっ!」


 アルティメットフォームの必殺技訓練はパイロット達にとって、忘れられないとなったことだろう。


 機体を使用した戦闘訓練だけではなく、パイロット自身の戦闘訓練……はまだ理解が出来たが、一見何の意味があるのか理解に苦しむダンス訓練までがそのカリキュラムに含まれていたからな。


 当然、パイロット達からも僅かではあるが不満の声が漏れ出していたのだが、それでもキリンは淡々と訓練を進め……最終的にパイロット達を納得させ黙らせることに成功していた。


 その成果は眼を見張るものであった。


 両手に装備されているカイザークローの動きは以前とは比べ物にならぬほど滑らかに、そしてリズミカルになっている。敵の行動パターンをリズムで感じ取り、的確にカウンターを入れている。


 また、パイロット自身の訓練、体術や剣術、それにダンスの成果はその攻撃フォームに現れている。機体性能に頼りがちで力任せに振るっていた攻撃がしっかりと体重を乗せた攻撃に変わり、それに加えてリズム感が向上したお陰なのか、ロボの動きとは思えないほどに、なめらかなコンボまで決められるようになってしまった。


 これによって齎されるのは攻撃力の向上、手数の増加だけではなく、自らの防御にも繋がる事になる。レニーは機体のバランス制御があまり得意ではなく、稀に攻撃の後にふらつく事があった。勿論、レニーだってきちんと成長している。当初と比べればふらつきが出てしまうことは減っていたのだが、それでもゼロではなかったのだ……が、それがダンス訓練を熟した後から一切出なくなったのだ。


 これについては俺も驚くしか無かったな。体幹が鍛えられたお陰なのか、バランス感覚が磨かれたお陰なのか……わからないが、なんにせよ、これでまたひとつレニーの弱点が克服されたというわけだな。非常に喜ばしいことだ。


「カイザー、周囲の敵機、殲滅完了のようです。増援反応無し、帝都付近の安全確保完了ですね」

「よし。平原の敵機残数も……残り1000機を切ったのか、うん、ならばそろそろ良い頃合いだろう。これよりブレイブシャインは帝都に向けて移動を開始する!」


「「「「了解!」」」」


 フェニックスには先行して帝都入りしてもらい、空からレーダーを用いて情報収集に努めて貰う事にした。フェニックスから送られたデータを俺とスミレが解析して、敵機や生存者の位置を出した後に僚機たちへ送信すれば、スムーズな作戦進行が可能となるからだ。


 ナルスレイン達も眷属退治をしながら救助活動もしていると思うのだが、彼らの機体に備え付けられているレーダーは簡易式だからな。表を彷徨く敵機はともかく、遮蔽物――建物の奥に隠れている住民などはレーダーにかかりにくく、見落としている可能性が大きい。


 俺達の最終目標はルクルァシアの討伐だが、人命救助もまた重要な任務だ。国民あっての国だ、奪還しても住む人が居ないではどうしようも無いからな。なるべく多くの人を発見し、救いたいところだ。


 しかし、住民を発見したからと言って即座に救助……という訳にはいかない。勿論、何らかの事情により、緊急を要する状況であればそのまま救助活動に移るが、明らかな安全圏にいると判断出来る場合は、ARビーコンを設置し、後ほどそれを頼りにグランシャイナーに拾って貰うのだ。


 というわけで、えっちらおっちら徒歩で向かっていた我々もようやく帝都シュヴァルツヴァルトに到着だ。


 前にジルコニスタから教えて貰ったのだが、この帝都は中心部に位置する城を取り囲むように街が作られているそうだ。


 城を取り囲むように、水堀があり、それは街中を流れる水路に繋がっているらしい。勿論、堀に繋がる部分には頑丈そうな格子がかけられていて、水中から密やかに侵入と言うことは出来ないらしいが。


 この街はその堀や水路を使って街が区切られている。城から水堀を外側に越えると居住区があるのだが、そこまた水路で区切られていて、もっとも城に近い区画は貴族が、次の区画が裕福な平民が、そして一番外側が平民がそれぞれ暮らすようになっているようだ。


 そして居住区の外側に商業区があるのだが、ここは特に何か格によって分けるような事はしておらず、様々な店が大小入り交じって並んでいるらしい。


 そして帝都の一番外側にあり、平原や海に面した区画があるのが工業区だ。


 外側という事で、帝都入りを果たした我々が最初に通ることになるのがその工業区なのだが、早くも仕事が見つかったようだ。


「カイザー、フェニックスから届けられたデータによると、工業区東部……港湾地区に多数の反応……住人達が隠れているようですが……」


「ああ、確認した……しかし、これはまずいな、要救助状態じゃないか。進路を東に変更、これよりブレイブシャインは港湾地区へ向かう。スミレ、ナルスレインに連絡を入れておいてくれ」


「了解しました」

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