第四百四十二話 進軍

 剣戟と土埃、爆発音と舞い上がる砂煙。硝煙の匂いこそしないが、敵味方入り乱れる戦場は白く霞み、美しき草原は戦火に焼かれ煙を上げる。


 先の戦争、ルナーサ防衛戦もまた、美しく広大な平原に大きな爪痕を残している。落ち着いたら彼の地の修復を手伝おうと思っていたが、それにプラスしてヘビラド半島にも来なければいけないな。


 作戦開始から一時間弱が経過した。


 眷属達は緩やかに数を減らし、平原突破まで後もう少しと言うところまで来ているが、敵もやられっぱなしと言うわけでは無い。当然、こちらの陣営にも少なくはない被害が出ている。

 ダメージを負った機体は速やかにグランシャイナーに退避させ、予備パーツやグランシャイナーの謎機能による急速修理により即座に修復されてはいるのだが、機体と違ってパイロットの怪我は直ぐに治るものではない。グランシャイナーに搭載されている医療器具は確かに優秀だが、数秒で直ぐに回復するようなものでは無い。最低でも数時間は安静にし、適切に治療が終わるのを待つ必要がある。

 

 なので修復が完了した機体には予備パイロットが乗り込み、代わりに戦地に戻るという作戦が取られているのだ。


 もっとも、これが出来るのは人員に余裕があった連合軍だけだ。元々数が多くはない白騎士団ステラには予備兵力というものが存在しない。なので、それを練度と気合で補っているのがステラなのだが……いくら彼らが逞しいとは言え、限界もある。2機、3機と徐々にではあるが撤退する機体の姿もあった。


 彼らはボロボロになりながらも、最後の時まで戦地で剣を振ると聞かなかったのだが、そこに届いたアランの一喝――


『うるせえ! 気張るとこ間違えてんじゃねえぞ! こんなつまらねえ戦場で散ろうとしてんじゃねえ! 俺達の仕事はここで終わりじゃねえんだ! 敵をぶっ飛ばして取り戻した新たな帝国を護るのが俺達、騎士団の役割だろうがよ! こんなとこでつまんねえ死に方する前に引け引け! おら、さっさと引いて回復してきやがれ!』


 ――その声にハッと我に返った騎士達は大人しくグランシャイナーまで下がる。アランの言葉は騎士達に染み渡り、騎士達に使命を思い出させることになったのだ。国を護るのが騎士の役割、奪還戦が終わってからが本番だ、新たに産まれる素晴らしき国を護れずして何が騎士なものかと、戦わずして逃げる恥よりも、生きて後に繋ぐ事を選択し、結果として戦死者の数を大きく減らすことに繋がっていくのであった


「カイザー、中央部の敵残存勢力5%を切りました。増援が向かっているようですが、今なら突破可能です」


「よし。ブレイブシャインはフォーメーションBだ。以後は進路上の敵機のみ撃破……白騎士団の傘になるぞ!」


「「「「了解!」」」」


 フォーメーションB、それらしく名前をつけてはいるが、大した陣形ではない。元としたのは所謂『魚鱗』と呼ばれる陣形で、『ヘ』の字の様な陣形なのだが、機体の特色を活かすため少しアレンジを加えている。

 

 ……いや、当初からどんどん形を変え原型はほとんど残ってないか。


 左から【ヤマタノオロチ】【カイザー】【ケルベロス】と並び、俺が先行して進軍する。上空には【フェニックス】が飛び、情報収集と援護射撃を担う。

 

 そして中央部内側に配置するのがステラなのだが、同じくそこには【キリン】が配置されている。キリンの特性は『防御』少しでもステラの損害を減らすため、シールド展開役として中央後列に配置している。


 優秀な修復機能を備える我々と違い、ステラは少しの被弾が命取りだ。彼らの役割はこの先、王都での眷属化機体スレイブ開放任務。こんな所で戦力を消耗するわけには行かない。それ故のフォーメーションB、我々ブレイブシャインはステラを護る傘となるのである。


「敵に近寄る隙を作らせるな! ゆくぞ!」


 左右からそれぞれヤマタノオロチとケルベロスのフォトン弾が飛び出し、敵機を牽制する……いや、牽制どころか吹き飛ばしているな……。


『邪魔だ邪魔だー! 道を塞ぐ連中はあたいとミシェルが食い散らかしてやるからなー!』


『ちょっとマシュー!? 私はそんな野蛮な真似はしませんわよ!?』


 緊張感のない言い合いをしながら、淡々とフォトン粒子砲を動かし確実に敵機を仕留めていく……。砲塔付きサブアーム持ちはずるいな……!


「あたしも! 負けてらんない!」


 見ろ、触発されたレニーが爪を構え突撃をしてしまった。


「レニー、抑えろ。今俺達がやることは殲滅ではない、移動だ……が、陣形を崩さぬ程度になら動いて構わんぞ」


「はい! 勿論です!」


 ……スミレがすごい顔で睨んでいるが、言い訳をさせてくれ。今後の戦いを考えると少しでも実戦経験を積んでおいたほうが良いはずなんだ。単機での実践訓練は最終作戦で使用する必殺技を考えれば大いに役立つはずなんだ。


 決して俺もフラストレーションが溜まってきてるとかそんな……くっ! スミレの視線が痛い。


 と、呑気にしているように見えるのだが、薄いところを通っているとは言え、敵の攻撃は穏やかではない。フェニックスから送信されてくる鳥瞰映像にレーダー反応を重ねて見れば、アラン小隊や連合軍の攻撃を免れた敵機達がじわりじわりと左右からこちらを追って迫ってきているのが見えた。


「フェニックス、左舷後方に砲撃!」


『心得た! ゆくぞガア助!』


 フェニックスにもフォトンランチャーの砲塔が備わっている……というか、後継機体でフォトンランチャーを標準搭載していないのは俺とキリンだけだ。


 キリンの場合は攻撃タイプではないので仕方がないが……俺にないのはちょっとさみしい。合体する際に中心となる機体、各機体を鎧として着込む主人公機と言う事を考慮すれば、単機での装備がシンプルなのは玩具の事を考えれば納得できるのだが、いざこうしてリアルな世界にその設定を持ち込むとやっぱり釈然としない物はあるな。


 空からの砲撃で後方を抑え、左右の砲撃で突破口を開く。時折飛んでくるやけくそ気味な敵機の砲撃はキリンのバリアで防御をし、半ば無理矢理に眷属達の壁をこじ開けるかのように我々は歩みを進め、そして――


「よっし! 抜けたぞ!! ナルスレイン、俺達は今暫くここを抑えてから後を追う! 君達は帝都に突入後M作戦を進行してくれ!」


『ああ! わかった! また後で会おう!』

『それではレニー、俺は先に言って片付けて置くからな。土産は要らないから気をつけてくるんだぞ』

「はい、わかりましたルッコさん! 帝都のお掃除頑張って下さいね、ここはあたしたちに任せて下さい!」


 ステラを率いてナルスレインとジルコニスタが意気揚々と帝都へと向けて進軍する。その足取りは力強く、とても心強く感じた。

 


 新機歴121年12月20日14時19分―


「ステラと共に帝都入りをしたい所だが……俺達にはまだ仕事が残っているからな」

「はい! あいつらをやっつけないとルッコさん達が危ないですからね!」

 

 敵の包囲を抜け、帝都付近着。M作戦――マギアディスチャージによる【スレイブ】の無力化及び生存者の救出・保護のため、ナルスレイン達は先行して帝都に向け進軍。


『ま、あんくらいの数ならそう時間もかかんねえだろ?』

『またマシューは慢心して! そういう油断が命取りですのよ!?』

『そうですよ、マシュー。眷属とは言え、数で押されるとバカに出来ぬのですから……』


『飛び道具の対処は私達に任せて下さいね!』

『ああ、石ころ一個通さないよ!』 


 俺達もその作戦に参加する事になっているのだが……それはしぶとくついてきている眷属共を片付けてからだ。さあ、みんな、あと一踏ん張り頑張るぞ!

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