最終章 A Part Reclaim

第四百四十一話 平原戦

 新機歴121年12月20日11時21分――


 平原に展開するルクルァシア軍勢を見ていると、前世で遊んでいた"無双系"と呼ばれるゲームを思い出してしまう。


 ざっとスキャンを走らせてみたら、もの凄い勢いでカウントが増えていき、2000を越えたところでため息が出てしまった。


 グランシャイナーによる先制攻撃でそれなりに数を減らすことに成功したけれど、それでもまだまだ敵機は溢れんばかりにうごめいている。対するこちらの戦力は300機に満たない。この戦力差、誰がどう見ても、勝てる戦いだとは思えないだろうな。なんたって、無限湧きをしているのではと、ゲーム感覚の錯覚を起こしてしまうほどに、ずらずらと敵機がうごめいているのだから。


 けれど、この溢れんばかりの敵機を目にしても我々は勝てると信じている。主砲発射前に確認したとおり、平原に展開しているのは眷属のみ。搭乗機体は最早おなじみのバーサーカーとワイト達。シーハマ防衛戦で、連中も機体を強化していることが判明したけれど、それでもまだこちらの機体でなんとか出来るレベルだ。

 それに、今回あれを操縦するのは知能が低い眷属のみ。数で大きく差を付けられては居るけれど、機体性能、パイロットの練度共にこちらが上回っている。


 流石に余裕であるとは言えないけれど、負ける戦いだとは誰も思って居ない。


『敵対勢力残存数出ました。思ったより数を減らせてましたよ』

  


 主砲によって薙ぎ払われた敵機はおよそ1800機。残存数は3000機。主砲でかなりの数を減らすことが出来たけれど、それでもまだ10倍か。また薙ぎ払えーってやれば、さらにがっつり減らせるんだけど……残念ながら、グランシャイナーの主砲は連発することが出来ない。これは大人の事情ってやつだね。


 それでも負ける気はしない。何度も言うけど、相手は眷属のみで、帝国人は0。


 中の人を気遣う必要がないのなら、力こそパワーの心でごり押しが出来るからね! さあ、みんな遠慮は要らないぞ! 思う存分暴れ回ってやろう!


『白騎士第3小隊は左舷へ展開! 第4小隊は右舷へ! 第3及び第4小隊は以後の指揮をアランドラに引き継ぐ!』


 白騎士団ステラを統べるのは皇太子……いや、皇帝ナルスレイン・シュヴァルツヴァルトだ。ステラ機は全部で108機。それとは別ににアランドラ、リリィ機とジルコニスタ機、ナルスレイン機のお偉いさんカラーの特別機が3機。


特別機に搭乗する皆さんは、24機からなる小隊を率いて貰う事になっている。アランドラ・リリィコンビが2小隊48機、同じくジルコニスタも2小隊48機。残りの12機はステラの中でも腕が良い者が近衛としてナルスレインに付き従う。

 

 ステラ以外の戦力はトリバ、ルナーサ、リーンバイル、リムールの4国から集った連合軍が計183機。


 ブレイブシャインを除き、合計294機が現在平原に展開している全戦力だ。しかし、全機体がここでドンパチやるわけじゃあない。平原に残り眷属達を迎え撃つのは連合軍全機とアランドラ・リリィ小隊の48機、計231機のみ。


 ナルスレインとジルコニスタ小隊、そしてブレイブシャインは別働隊として動くことになる。ただでさえ数で圧倒されているというのに、何故ここでさらに戦力を削ってしまうのか? これには深い深い事情があるのだ。


『第1第2小隊、及び近衛の諸君よ! 我らが帰る場所を取り戻す時が来た! ……さあ、ゆくぞ! の国を奪還するぞ!』

「「「「おおおおおお!!!」」」」


 雄々しいジルコニスタの声が響き渡り、それに応えるかのように雄叫びを上げる騎士達。そう、俺達――ブレイブシャインとナルスレイン率いる別働隊は平原を抜けて一足先に帝国入りをしてしまうのであった。


 我らブレイブシャインは合体をせず、それぞれの機体で帝都を目指し走り出す。平原を別部隊に任せるとは言え、敵さんは「はい、そうですか」と我々を通してくれるわけじゃあない。ぱらぱらとこちらに抜けてやってくる眷属を片付けるにはなるべく数が居た方が望ましい。よって、我々は強敵と戦うその時まで合体はせずに進むことにしたのである。

  

 敵軍勢中央部の護りが薄くなっている。これは勿論、グランシャイナーの主砲によって薙ぎ払ったからである。アランドラ率いる小隊及び連合軍によりその左右を叩き、ナルスレイン率いる帝国奪還部隊、そして俺達ブレイブシャインの5機で中央を強制突破し、帝国の奪還に向かうというのがざっくりとした今回の作戦内容だ。


 本来ならばもう少し戦力に余裕を持たせたかったのだが……グランシャイナーに格納できる人員には限りがある事と、あまりこちらに戦力を割きすぎると、万が一トリバやルナーサに侵攻された場合に多大な被害を被ることになる事から、ギリギリの戦力に抑えざる無かった。


 それでも、スミレとキリン、そしてフィアールカが行ったシミュレーションでは作戦の成功率87%をたたき出している。せめてあと3%くらい高ければ安心出来るのに……というのが本音だが、我らが誇るジーニアス勢が胸をはって『これくらいなら平気だ』と仰っている。それは俺にとって何より勇気付けられる言葉だ。これまで幾度となく彼女達に、特にスミレ先生の言葉に助けられてきた。


 スミレがいけるというのならば、何も問題あるまいよ!


 さて、帝国奪還作戦となれば、心強い味方になるであろうグランシャイナーだが、暫くの間は平原に停泊し、負傷兵や機体の対応をしたり、援護射撃をして貰う。主砲は暫くお休みだが、それ以外の兵装を使えば俺達が抜けた穴を十分に埋めることが出来る。なにより、艦内に備え付けられている医療器具の存在が大きい。いくら相手が眷属だとは言え、数では彼方が大きく勝っている。少なからず出てしまうであろう負傷者を治療するためにグランシャイナーの存在は不可欠だ。


 当然、それだけ強力な存在は奪還部隊としても頼りにしたい。なのでグランシャイナーには平原戦がある程度落ち着いてから我々の元に駆けつけて貰う事になっている。


 平原戦に持ち込まず、そのままグランシャイナーで帝都を強襲してルクルァシアとの戦闘を開始すれば手っ取り早いだろうと言う意見も無くは無かったのだが……そんな真似をしてしまえば帝都は間違いなく火の海だ。まだ多くの国民が息を潜め、救助を待っているの情報もあるし、そうじゃなくとも流石に都市を焼き払うような真似をする事は出来ない。我々の目的はあくまでも奪還なのだから。


 なので、帝都戦におけるグランシャイナーの役割はあくまでも後方支援となる。あの主砲は勿論のこと、光子ガトリングやナノミサイルなど、大いに頼りになる兵装が多数装備されては居るのだが、建物が密集している帝都内で使ってしまえばとんでもないことになるからな。


 なるべくなら、グランシャイナーが到着する前にあらかたケリをつけ、避難民の収容や、負傷者の治療などをスムーズに進められるようにしたい所だ。


 ナルスレイン機と並び、平原を東に移動する。砲撃で薄くなっているとは言え、かなりの眷属が行く手を遮り我々の歩みを遅らせる。予想通り、敵の機体もさらに強化されているため、それに苦戦する騎士の姿が見られるのだが……ブレイブシャインや、ステラの隊長クラスの連中はさほど苦戦せず無力化する事が出来ている。


 我々ブレイブシャインに関しては、当然新装備と訓練がもたらした結果だな。キリンプロデュースの訓練はかなり厳しい者だった。眷属の攻撃がそれよりも数段劣るぬるさのせいか、レニーはとてもリラックス……いや、気が抜けているような気がするな。


「ルッコさん、ルッコさん。ここって前に来たところですよね」


 カイザークローでワイトの胸部を切り裂きながら、レニーが懐かしそうな声を出す。


『……ああ、そうだな。馬が……馬のカイザーが東を指した時には随分と驚かされた』

「ふふ、そうでしたね。今度はお馬のカイザーさんじゃ無くておっきなカイザーさんと一緒ですよ」

『そうだな、いやしかし……あの時はここまでの事になるとは思いもしなかった。ありがとう、レニー、カイザー。俺達の力だけではここまでの作戦は実現出来なかった』

「いや、君がレニーを無事に送り届けてくれたからこそ、今の状況があるとも言えるんだ。こちらからも改めて礼を言わせて貰うよ、ありがとう、ジルコニスタ」


 会話だけ聞いていれば実に良きシーンであるのだが……カイザーレニーもジルコニスタもバーサーカーやらワイトやらの頭を叩き潰しながら会話をしているのだからムードなんて最悪なもんだ。


 こういう所はきちんとリアルだよな……会話イベント中は空気を読んで襲いかかってこないーとかまでは流石に神様もやってくれないのだ。


 レニーとジルコニスタは引き続き話に花を咲かせている……勿論眷属を叩き潰しながらだ。子馬からデータを貰ったので大凡の話は俺も知っている。森の魔女、リナバール・ラムトレインこと『ばあちゃん』の家がある森を2日かけて抜けた先がこの平原だ。


 この平原はヘビラド半島に存在する街や村に繋がる街道があちらこちらに伸びている交通の要。山が多く、平地が少ないこの半島では希少な開けた土地であり、機兵を使ってシュヴァルツヴァルトに攻め込むのにここほど適した場所は無い。


 そんな場所でほのぼのと旅の思い出を語りながら戦う二人に少々呆れてしまうが……ガチガチになって動けなくなるより大分良い……事にしよう。


『ここを抜ければ俺達の帝都が待っている! 最後まで気を抜くな!』


 通信でナルスレインの檄が飛び込み、レニーがはっと気合を入れ直す。


「カイザーさん、お姉ちゃん。この国も……あたしが守りたい国なんだ。あたし……がんばるから、力を貸してね!」


「ああ! 勿論だとも。だがなレニー、熱くなりすぎるなよ。俺達の本命はあくまでもルクルァシアの討伐だそれを忘れず頭に入れて行動をしてくれな」


「はい!」


 ナルスレインの言う通り、敵の防御はあと一息で崩れそうだ。さあ、一気に帝都まで駆け抜けるぞ!


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