第四百四十話 開戦

 キリンの最終訓練、それはケルベロス、ヤマタノオロチ、フェニックス……そしてキリンの4機をカイザーわたしが束ね、一つの強大な力とする……そんな内容だった。


 その技を使う際には私が機体の核となり、他の4機全てと真に一体化――力と心を一つにならなければならない。


 通常の合体も、全機が一体化しているわけだけれども、それはあくまでも機体同士が寄り集まっているだけに過ぎない。最終奥義たる必殺技を使う際には、真の意味でひとつになる必要がある。


 それには登場するパイロット達も含まれることになる。機体とパイロット、その全てが一体となって発動するその技は、体力・輝力その両方を大きく消耗する。私やスミレ、他のAI達は勿論のこと、パイロットであるレニー達にも多大な負担がかかるんだ。


 なのでこの技は……文字通り必殺技。最後の最後に、ルクルァシアを確実に滅せるそのタイミングで発動させなければならない。


 訓練を始める前にキリンから一つの質問をされた。それは私にとって……非常に悩ましい二択。


『この必殺技は……宗右衛門氏から伝授された物というのは離しただろう? けれど、ルクルァシアを破ったのはその発展型……といっていいのかはわからないけれど、とにかく、さらなる強化がされるのだが……その、それに至るまでの経緯をな? それを知らなければ……うん、ルクルァシアを破る技として完成をしないのでな? その、私としては話しておきたいのだが、これを話すということは……その……』


 キリンにしては珍しく、やたら煮え切らない言い方をしているが、そこまで言われてしまっては私でも何を言いたいのかわかるよ。全く、余計な気を遣っちゃってさ。らしくないよ、キリン。


『……物語の結末を、劇場版のエンディングを見届けた君が話す最大のネタバレになる……そういうことだよね?』

『ああ……そういう事だね。私からすれば、実体験の一つでしかないのだが、君からすれば楽しみにしている作品のラストシーンだ。流石の私もこればかりは軽々しく口を滑らせることは出来ないさ』


 そりゃあ、観るのを楽しみにしている作品の……しかも大好きな作品のネタバレ……その結末に関わる話を聞くかと言われれば普通は首を縦に振れないよ。


 でも……これはもうアニメのお話じゃあない。この世界に住んでいる人達の生活が、命がかかっている。それにもう、とっくの昔に私は割り切ったんだ。


 私達がこの世界で新たなシャインカイザーを紡ぐんだと。


 そう考えれば……熱い展開じゃないか。原作の力を借りてラスボスに挑むんだぞ。何よりのリスペクトだよ。


『気を遣ってくれてありがとうね、キリン。でも私はもう大丈夫。だからどうか、世界を救うために……どうか、知恵を貸してくれ! 結末を識る君の力が必要なんだ!』


 私の決意を受け取ったキリンは優しげな声色で『うん、君ならそう言ってくれると思ったさ』と笑い、技を生み出すに至った経緯を話してくれた。


 ……あいも変わらず、彼女の話は回りくどかったのでザックリと要点をまとめて話すと……。


 新たな装備を手に入れ、負ける気がしねえぜと、外部装備としてのキリンと共にルクルァシアが潜む敵本拠地に突撃した竜也達は様々な敵(一応キリンが伏せてくれた)との熱戦を経て、とうとう敵の総大将であるルクルァシアの元に到達した。


 待ち受けていたのは悪しき龍をモチーフとした禍々しい機体。漂う黒いオーラはまさに邪神と言った風貌だ。


 それでも、生まれ変わったカイザーチームは強く、討伐まで後少しの所まで追い詰めた……と、その時は全員が思ったらしい。


 けれど、それはルクルァシアの姑息な罠だった。


 奴は不敵に笑うと、お約束とも言える『ラスボスのフォームチェンジ』をした。ゲームでもよくあるけれど、フォームチェンジ前のラスボスという奴はいわゆるナメプをしているわけだ。相手を生かさず殺さず、じっくりと楽しむように戦った後にドヤ顔で第2形態とやらにかわるんだよな。


 それでは真の力を見せてやろう、そんな具合で始まった"本戦"だったが……。


 これがゲームであれば、このまま頑張って撃破してエンディングに行く流れだ。アニメや特撮でもそうなることは確かにある……けれど、そうはならないパターンも結構あるんだよね。


 メタ的な事を言っちゃうけど、恐らくそのフォームチェンジの時点で残りの放映時間は20分くらいだったんじゃないかな。うん、ラストシーンにはまだちょっと早い時間だ。そうだね、完璧に仕上げきったと思いこんでいた竜也たちを待っていたのは『最終決戦で差し込まれる大ピンチ』だったんだ。


 地上波の場合、早々とラスボスとの戦闘が始まっちゃうとさ『まだ話数残ってるのにどうするの? まさか決戦でダラダラ5話も引き伸ばすはずはないし……ああ、フォームチェンジしたボスにやり返してからの覚醒イベントがあるんだな?』と察するわけで。


 ……まあ、普通に倒してあっさりと真のボスが現れるパターンもあるけどね……今回それはないと信じたい。


 それで、その戦いで覚醒した竜也達は形だけではない、真の意味での一体化を果たし、ルクルゥシアを打ち破る必殺技を発動させるんだけど、キリンが伝えたかったのは覚醒前の竜也達が地に膝をつけることになったルクルゥシアの攻撃についてだった。


 どのような姿に変わり、どのような攻撃をしてくるか。竜也達がどのように失敗をし、どのように敗北をしたのか。そして……どの様にしてそれを乗り越え、討滅したのか。


 余すこと無く話されたその内容は聞いてよかったと思える内容だった。もしもそれを聞かず、その場の判断で挑むという蛮行に出てしまったら……間違いなく同じ轍を踏んだに違いない。


 いや、もっと酷い状況になった可能性もある。レニー達も強くなったとは言え、アニメ補正がかかった竜也達には敵わないかも知れない。


 流石に人命が掛かることでネタバレがどうのとワガママを言うほど私は愚かじゃないけれど、もし何か血迷ってそんな酷い判断をしてしまっていたら……ネタバレを聞かずに挑んでいたら最悪の未来になっていただろうな。


 この情報は勿論、レニー達にも共有した。未だ修復が終わらない円盤のクライマックスを先に知ることになると前置きをしたけれど、誰一人それに嫌な顔をする者は居なかった……当たり前だよね。


 再びキリンの回りくどい解説が始まり、パイロット達はたまに眉をしかめつつも最後までしっかりとその話を聞き遂げた。


 そのおかげか、その後の訓練はいつも以上に皆真剣だったな。私やスミレが休むよう諌めるほどに。


 そして新機歴121年12月20日――


 現実時間で2日、仮想空間内の時間で一月近くにも渡る訓練を終えた私達はシュヴァルツヴァルトから程近い草原に到着していた。


「想定より……かなり酷い事になっているな……」


 ナルスレインが愕然とした声で言う。我々が降り立った場所は丘の上。そこから続く草原は遠く見える王都まで広がっているのだけれども、どうやらこちらに気づいたらしい敵機達がワラワラと門をくぐってこちらへ向かっていた。


 何機居るのか……カウントしたくないレベルで遠く見える敵機達。あんな物がひしめいているのを見れば王都を憂うナルスレインが眉を顰めるのは無理はない。


『分析完了。ワイトタイプとバーサーカータイプが確認できるが、どうやらあの軍勢は全て眷属で構成されているようだ。量産しにくい"洗脳兵"は使い捨てのコマにはしないってことかもしれないねえ』


 呑気な声でキリンが分析結果を告げた。そして――


『というわけで、これはこれで好都合なの。ぜーんぶ眷属だと言うなら遠慮はいらないのよ! ふっふー、ここから皆をサポートするこの艦最初のお仕事のお時間なのー!』


 妙にウキウキとした声でフィアールカが続き、搭乗準備をしていた私にアレの使用許可を求める通信を入れてきた。


 当然答えは『可』だ。却下する理由なんていっこもないね! 私も実は結構ウキウキとしている。ふっふっふ……これまでの鬱憤、晴らしてやる!


「グランシャイナー主砲、発射用意!」

『グランシャイナー主砲発射用意なの!』


『第2輝力炉、出力上げます!』

『炉の出力上昇を確認。出力安定、フォトンジェネレーター起動!』


『フォトンジェネレーター起動しました! フォトン粒子チャージ開始!』

『フォトン粒子チャージ……70……80……90……120……フォトン粒子充填完了!』


『艦長、主砲発射準備完了しました! いつでもいけます!』


「うむ! 主砲、発射! 眷属共を薙ぎ払えー!」

『薙ぎ払うのー!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る