第四百三十九話 束ねる力
「さて、レニー君。ミシェル君の戦いを見てどう思ったかな?」
「はい! とっても綺麗で熱いと思いました!!」
ムフーと興奮した顔でキリンに答えるレニー。なかなかに彼女らしい感想だ……。
「これでケルベロス、ヤマタノオロチ、フェニックス、そして私キリンが使う真の必殺技が出揃ったわけだが……ここで君に……いや、君とカイザーに謝っておこうと思うんだ」
……その理由は薄々察しがついているぞ。ヤマタノオロチの技については大外れだったけれど、これは自分の事だけにきっと正解なんだろうなって思う。
私だって伊達に何度も何度も地上波版を見て居たわけじゃ無いんだ。これまでの流れから劇場版で描かれていただろう最終決戦を推測して、今後の作戦に役立てようとしていたんだ。当然、現実的な材料だけではなく、メタ的な――アニメ制作的な材料も考慮してね。
その中には勿論、カイザーの新必殺技に関する推測もあったわけで。
私が予想したシナリオで一番現実味がある流れ……映画の尺とオモチャの都合を考えた結果導き出された答えは…………。
「すまない、レニー君、カイザー。君達には単独の必殺技という物は存在しない……いや、少なくとも私が知っているカイザーと竜也はそんな物を使っては居なかった」
「ええーーーー!!!!」
驚きの声を上げるレニー。聞きました? カイザーさん! とばかりにこちらを見ているけれど、ごめんねレニー。私はこうなるんじゃないかなって薄々感づいていたんだ。
キリンが説明した話しをまとめると……。
新機体を得た竜也達は、敵の偵察隊との戦いでその力を大いに試し、これならいけるぞと、長きに渡った戦いの日々がようやく終わるのだと確信する。
しかし、それは誤りだった。確かに強くなっては居たが、それはあくまで機体性能の向上による物。パイロット達の技術力が追いついていない以上、機体は真の力を発揮することは出来ない。
色々あって敵の副司令官に挑むことになった(ここはキリンが気を遣ってボカしてくれた)この力があれば余裕だぜと、自信満々に立ち向かう竜也達だったが……あっさりと敗北する。
『リムアースが認めた武人とあって、貴様らには多少の敬意を払っていたが……新たな武具を手にして呆けてしまったようだな。今の貴様らは戦場で散る権利も無い。今日のところは無様に逃げ帰るが良い』
バトルジャンキー武人系キャラらしい敵副司令はそんなセリフで竜也達を煽り、そのまま撤退して行ってしまう。残された竜也達は敵副司令の言葉を噛みしめ……様々な想いを経て(ここもキリンがボカした)未熟な自分を鍛え直してもらおうと、それぞれの師匠の元へ修行に向かった。
そして、厳しい修行の末に身につけたのがマシュー達が使っていた必殺技だ。ああ、どうやらこの時点ではまだキリンは正式加入していなかったらしくって、基地の研究者としてパイロットたちの様子を見守っていたんだってさ。
で、キリンの加入タイミングがまた……なんかこう、アレでさ。敗北イベントを経て、新たな力と共に再度立ち上がった最終決戦前の竜也達に『私こそが勝利に繋がる最後の鍵である』のような事を言って、しれっと仲間になったんだそうな。キリンの性格を見て居れば……なんとなく想像がつくね……きっとすげードヤ顔してたんだぜ? ぽっと出のキリンが美味しいタイミングでスッと加わるんだ、きっと掲示板は大炎上したんじゃないかな……くっ! 未練はもう無いと思っていたけど……ここに来て地球の掲示板が恋しくなってきた!
……話を戻そう。
そして修行を終えたパイロット達は再び基地に集う。それぞれがそれぞれの新たな想いと技を手に入れて。ところが、竜也は必殺技という物は身につけていなかった。
いや、修行は無駄だったわけじゃあない。刀術はさらに磨き上げられていたし、念願叶って二刀流も物にして帰ってきたんだ。当然、それを使った奥義も伝授されてきたわけなので、十分に強化されたと言っても過言ではなかったのだが……それでもそれは他のパイロット達のような【一撃必殺】と呼べるような強力な技と言えるものでは無かったらしい。
それもそのはず、奥義を極めた向こう側にさらなる最終奥義と呼ばれるものがあったのだ。師は、それを身に着けられればさらなる力になるだろうと口にした。
当然、竜也は師に奥義を伝授してくれるよう頼んだらしい。しかし、竜也の師である『御門 宗右衛門』は首を縦には振らなかった。
『何故だ? 何故なんだよ師匠! 俺は強くなった! 今なら……御門流奥義を使える筈なんだ! 他の連中もきっと……最終奥義を覚え戻ってくる。楓さんと山に籠もった雫だってそうなんだろう? なあ、頼むよ師匠! これは必要なことなんだ!』
必死に食い下がる竜也だったが、それは宗右衛門の一喝により止められる。
『馬鹿者! 竜也。お前は御門流の真の強さを履き違えているのでは無いか?』
『真の強さ……?』
『御門流の神髄は刀術にあらず。何故我が御門流が複数人での鍛錬をしているか、連携の鍛錬を重視しているか……』
『仲間の力を……束ね……一つの個として扱う……まさか師匠、御門流の真髄ってのはそういう事なのか……?』
『然り。御門流の神髄は当人だけの強さにあらず。仲間と信頼し合い、その力をひとつに束ねて敵に放つ……それを理解したのであれば良かろう。既に楓にも話は通してある。雫もやがてここに来るだろう。さあ、残りの仲間達を連れてきなさい』
そして……、新たな技を身につけた仲間を連れ、再び道場に戻った竜也は仲間達と共に連携の修行を開始する。その訓練にはキリンのパイロットである双子の少女も同行したらしい。
「……というわけで、レニー君、カイザー、そしてスミレ君。ここからが本番だ。マシュー君、ミシェル君、シグレ君、フィオラ君、ラムレット君もいいね。これから最終訓練、シャインカイザーの真・必殺技とそれに連なる戦術を学んで貰う」
カイザー、そして竜也に与えられた真必殺技は皆と力を合わせ発動する。つまりは、『シャインカイザーアルティメットフォーム』の状態でのみ使用可能な技なのだ。
「この訓練中に竜也君が覚えた奥義も教えるから……レニー君はそう気を落とさないで……いや、落としてないね……流石レニー君だ」
「ふふ! 当然です! 専用技は確かに格好いいですけど、皆で力を合わせて使う技……そっちの方がずっと格好いいです! さあ、始めましょう訓練を! さあ! さあ!」
「う……うむ……まあ、少し休んでから……」
「もー! 時間が無いんでしょう!? さあ! さあ! さあ!!」
レニーが熱くなっている……これはキリンが押し負けるパターンだ。
そして……レニーの押しに負けたキリンの大きなため息を合図として私達の最終特訓が始まった。これから覚える技は本当の意味での必殺技だ。
ああ、なんだかアニメで言う所の最終3話の冒頭のような空気になってきたね……。
私がこの世界に転生し、この世界で紡いだ物語が終わるときが……近づいているのを感じる。絶対に、絶対にハッピーエンドで終わらせてやる!
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