第四百三十七話 反省会
「うわーん! 負けちゃったー!」
機体が大破判定を受けて間もなく、VR訓練場の待機室である怪しげな白い空間に転送された。訓練開始前にも通された部屋だけど、異世界転生者が神とお話するアレみたいで微妙な気持ちになるんだよね……。
私がこちらの世界に来る前に飛ばされたらしいあの場所はプラネタリウム見たいな場所だったけどさ。
さて、先程から悔しそうな声を上げているのはレニーだ。どうやらこの部屋で観戦していたらしいマシューやフィオラから慰められたり、煽られたりしていて、顔色をくるくると忙しく変えている。
「でもさ、フィオラだってアレには絶対勝てないよ? 4本腕のシャーシルが4機! 腕が16本だよ!? こっちは頑張っても4本しか無いのにさ!」
「お姉……頑張ってもって……ああ、自分のを足したの? お姉、自分の腕を足しちゃ駄目だよ……。ほら、ルゥも頭を抱えて困った顔をしてるじゃないの」
待機ルームということで、お茶やお菓子が用意されている。私がこうしてルゥとなっているのはそれを飲み食いしたいという理由では決して無く、他のパイロット達と歓談をしやすいからだ。ほんとだぞ? そもそもVR空間で食べた所でありがたみはあまり無いしね……味と香りはしっかりと再現されていて、なかなかに凄いなとは思うけれど。
しかし……さっきのはヤバかったなあ。アレはほんとキツいよ。コントロールを私とスミレに移した上で、シミュレーションに沿って最適な動きを選択し続けたとしても……4機全てを撃破するというのは無理だろうな。
出来てもせいぜい2機。しかも爪縛りを解いて、持っている武器を全て使ってのお話だ。いや、そもそもそれが許されるならさ、通常通りレニーをパイロットとして操縦させ、意外性があるアドリブで戦ったほうがよっぽど勝機があるもんね。爪縛りで4機、中々に難敵だぞ。
「いやまあ、確かにさ……ありゃあたいでもキツいかな。3本腕のケルベロスならカイザーより1本分有利だけど……複数寄越されちゃ敵わないよ」
「そうですね。私なら……ガア助の機動力で翻弄しながら1機ずつ削るという作戦が良さそうですが、シャーシルはあれで脚が速いですからな。遠隔攻撃や体当たりを当てるのは難しいと思われます……アレを使えばまとめて焼き払うこともできそうですが……使うと暫く動けぬ故、外したら最後ですし……」
ああだこうだ、彼女らなりに先程の戦いを語り合っている……ん?
「ねえ、キリン。ミシェルの姿が見えないようだけど?」
よく見ればミシェルの姿が見えない。それに、ぬいぐるみ化してゴロゴロとしている他の機体達は居るのに、
と、声をかけたら、良いタイミングだったようで、見た目は機体そのままでサイズを人間サイズにまで落としたキリンがこちらに向かって歩いてきたところだった。
なかなか面白いモノをみせてくれたな……VRならではか。なるほど、その手が有ったかと思うけれど、なんだか妙な気分になるな。中に誰か入ってるんじゃ無いかって思っちゃう。ロボコスプレってやつだ。
「ああ、君たちの番が終わったからね。今度は彼女たちの……と、その前にレニーくんに質問をしておこうかな」
キリンがレニーに声をかけ、こちらに呼ぶ。やってきたレニーもまた変な顔でキリンを見ていたが、先程の反省会をすると察したのか直ぐに真面目な表情になった。
「さて、先程の戦いだけど……アレは我ながらかなり意地悪な事をしたと理解しているよ。カイザーがたまに零す言葉を引用するならば無理ゲーと言っても過言ではないんだ」
……そこまで『無理ゲー』という単語を発したことはないと思うんだけど……確かに先程の状況を的確に表すならばその言葉がふさわしいなとは思うけどさ。
「ふふ、じゃあなんであんなメニューにしたのかという顔をしているね? そうだね、レニー君には装備品の変更だけではどうしようもない状況を体験してほしかったんだ」
何を言ってるのかわかるようなわからないような……? まあ確かにアニメで良くある展開――追い詰められた主人公の元に現れるメカニック達!
『待たせたな! こいつがお前たちの新装備だ!』
そのセリフと共に届けられる起死回生の鍵。それを受け取った主人公は全く新しい未知の武器だとしても不思議と使いこなし、今までの苦戦が嘘かの様に敵を討滅してしまうのだ。アニメで良くあるご都合展開だね。なお、次回からは初登場のご祝儀ボーナスが消えるために他の装備と似通った性能になるもよう……
……神様らしきアレの介入を受けているとほぼ確定している私達も似たような状況があったような気がするんだけど……アニメほど極端な大勝利というパターンは無かった……と思う。
キリンは新装備を使いこなすためにレニーに足りないなにかに気づいてほしかった、そのためにあんな無茶な戦いをさせたのだろうね。
「うんうん、カイザーが考えているとおりだよ。レニー君には足りない物を自覚して貰う必要があった。そう、今のレニー君に足りないのは腕の数だ!」
「そうだね、キリンの言う通り……って違うだろ! 確かに腕は足らないけれど、ここはそんな話をする場面じゃないだろう!」
「はっはっは。冗談だよ。少し場を温めようと思ってね? コホン。レニー君に足りないもの、それは手数を増やす戦闘スタイルのセンスだ。レニー君はどちらかと言えばパワーファイター。重い一撃を的確に決める必殺技重視タイプと言えよう」
まったく。温まるどころか皆びっくりして固まってしまったじゃないか。レニーなんか『カイザーさんが腕を増やされる……?』とかゾッとする事を言ってるし。
それはともかくとして、後半はキリンに同意だ。手数に頼る戦い方はあまり得意としないレニーはその分重い攻撃に向いている。武器での攻撃があまり得意ではないという理由から近接格闘の技術が磨かれていったのがその理由かと思うけど、思えば最初の戦いからしてパワー型と言える戦い方をしていたね……。
さっきの戦いは、レニーにしては手数を増やしていた方だと思うけれど、それでもまだ一撃一撃に重点を置きすぎて居たり、隙あらば大技を叩き込もうとしてみたりで、隙が大きくなっちゃったんだよな。そうなると、相手に防御の機会を多く与えることになってしまって、上手く削りきれず。気づけばシャーシル全機に取り囲まれてましたって結果に終わってしまったからね。避けるのはなかなか上手くなったから、あとちょっとだと思うんだよな。
「そこで、まずはそのパワータイプのスタイルではどうしようもない状況を経験してもらってだね……同様のケースを凌ぐにはどうしたら良いのか見てもらおうと考えたわけだ」
そのセリフと共に映されたのは市街地に降り立っているミシェルが搭乗するヤマタノオロチの映像だ。キリンの話によればこの後シャーシル達と闘うらしい。
「何故わざわざレニー君に苦手なスタイルの特訓をさせるのか、苦手なスタイルの必殺技を覚えさせようとしているのか? これは竜也も通った道なのだが……まあ、理由はミシェル君の戦いを見てから話そう」
竜也も通った道か……。私はそんな話は知らないから劇場版の追加エピソードなのだろうな。レニーは竜也も……という部分に何やら興奮し、かじりつく勢いで映像に顔を近づけている。
さて、ヤマタノオロチが戦闘態勢に入ったようだ。私としても参考になるだろうし、楽しませてもらうよ、ミシェル。
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