第四百三十四話 俺とレニーの新装備

 拳のマシュー、急降下突撃のシグレ、そして完全防御のフィオラとラムレット。


 レニーと同じく、近接格闘を得意とするマシューはその通り、ヘルズ・フレイムナックルと言う、格闘タイプの必殺技を身に付けた。敵の懐に潜り込んでの強烈な一撃は正に必殺技。パワータイプのケルベロスと相性抜群だ。


 物心が付いた時からガアスケと共に過ごし、その背に乗せられ飛ぶことに慣れていたシグレにとって空は庭のような物であり、フェニックスガアスケとの息もぴったりだ。互いに互いを信頼しきっているからこそ、一見すれば自爆攻撃にも見えるフェニックスインパクトを放てるのだろう。


 フィオラとラムレットは……別に防御が得意なパイロット、というわけではないが、キリンの指導の下、サポートメカ的なキリンという機体を上手く運用出来るようになり、その特異なギミックを最大限に使いこなしてアイギスの発動を実現させた。キリンの事だから、一発勝負なんて言っては居たけれど、それに至るまで綿密で厳しい訓練を課したのだろうと思う。パイロット2人の努力の結晶と言えるのではなかろうか。


 そして妙に勿体ぶって未だ教えてくれないのがミシェルとヤマタノオロチの新技なのだが、実はもしかしたら――と、検討がついている。


 ウロボロスがヤマタノオロチへ換装した際、新たに手に入れた装備はフォトンランチャー飛び道具だった。ケルベロスと同様に、背中に生えたサブアームからフォトン粒子を撃ち出すというものだ。


 ミシェルもマシューも射撃が得意というわけでは無いが、全く使えないというわけでも無く、機体に備えられている照準補正機能と相まって十分実用的な装備として運用出来ていて、それを用いた必殺技は実に強力な物となり得るのでは無いかと思う。。

 

 しかし、新たにケルベロスが得た必殺技はそれを使うものでは無く、武器でも何でも無い、機体自身の拳による物だった。なぜ、新装備を使わずにパンチなのだろうと考えた時に、アニメのパイロットである獅童謙一の姿が頭に浮かんだ。


 彼の得意技である『喧嘩パンチ』は、生身での喧嘩の時には勿論のこと、オルトロスに搭乗している際にもしばしば使っていて、実はブレスで援護するよりもインファイターとして殴り続けていた方が強いのでは? なんて掲示板で語られていたもんだ。


 マシューもまた、謙一同様にインファイター気質。であれば、謙一の喧嘩パンチと相性が悪いわけが無い。


 オリジナル技だという『ヘルズ・フレイムナックル』は、その喧嘩パンチから着想を得て作られた技なのでは無かろうかと思う。キリンはやかましい奴だが、俺達機体とそのパイロットのことをよく見ている。我々にぴったりな装備と技を編み出すのはお手の物だろう。

 

 そしてヤタガラスなのだが、原作パイロットの迅はクールなサボり魔というアレな二つ名を公式設定(確か出展は子供向けの雑誌)で付けられているほどやる気が無い男で、周りが真面目に作業をする中『ふぁ~あ……わるい、活動限界来ちゃったわ。寝かせて貰うぜ……』等と言い残し、フラリと何処かへ消えるのだ。当然、仲間達からは叱責されたり、しょうが無い奴だと笑われたりしてしまうわけで、それだけ見ていれば、ただただどうしようも無い奴という印象を受けてしまうのだが、実は彼には秘密があった。


 迅には幼い頃から体操の英才教育を受けていて、非常に柔軟で身軽な身体を持っているという設定がある。


 仲間達には『寝る』と伝えていたが、実はそうではなく、その身体能力を活用し、密かに諜報活動をしていたのだ。これは黒森重工の上層部から秘密裏に命じられている任務であり、仲間達にすら秘密にしている事だった。潜入先は多岐にわたり、黒森重工と敵対の疑いがある組織や、ジャマリオンとの繋がりの疑いが掛かった組織などに潜り込み、情報を盗んだり、攪乱したりと、密かに大活躍をしていたのである。


 視聴者にこれが判明したのは2クールの後半だったため『今更その設定明らかにすんの?』と、それはそれは大いに荒れたのだが……その設定を知った上で、過去のエピソードを見返すと、中々上手くその伏線が紛れ込んでいて、それが判明してからは手のひらを返した住人達によって掲示板が大いに盛り上がった物だ。


 当然、その能力は戦闘時においても――ヤタガラスに搭乗している際にも生かされていて、眠たげな顔で偵察をしてみたり、ひょいひょいとビルを飛び回りながら器用に狙撃をしてみせたりと、低血圧系な性格と相まって、基本的には冷静で、マイペース。それでいてクールであると言う、中々にクセがある性格を見せてくれるのだが……彼にはもう一つ厄介な設定があるのだ。


 熱しやすく冷めやすいのが竜也と謙一。それに対して迅という男は沸点が異常に高いところにあり、滅多に怒りの感情を表に出すことは無いのだが、何かの拍子に限界突破をしてしまえば、中々に酷い事になる。


 バーサーカーモード、確か雫がそう名付けたような気がするのだが、ブチンとキレてしまった迅は性格が豹変し、眠たげな眼をクワッと見開き、その怒りの感情にまかせるままに奇声を発しながら宙を自在に舞い、武器を使わず、機体を直接敵機に何度も何度も当てるという酷い戦い方をするのである。とうぜん、ヤタガラス自体にもそれなりにダメーが入るのだが……それと比較すれば圧倒的に耐久力が低い敵の量産機はそれはそれは酷い有様。竜也や謙一ですらドン引きをするほどに破壊し尽くしてしまうのである。


 ……それをうまく昇華のが、おそらくはフェニックスインパクトなのではなかろうか。オリジナルのバーサーカーモードはちょいとアレだが、ナノマテリアルによって機体の損傷をゼロに出来るフェニックスならば、高高度からの体当たりは強力な武器となる。その上、全身を炎で包んでいるのだから恐ろしい話だ。


 このパターンからいくと、ミシェルの技はウロボロスのパイロットである桜川 雫が得意とするナギナタをモチーフとした武器を使用したものでは無かろうかと思うのだ。


 これまでのブレイブシャインは、原作は原作、我々は我々というようなスタンスで、原作パイロットの得意武器をそのまま使うという事はせず、ブレイブシャインのパイロット達が得意とする物を使わせてきた。


 過去のアレで、装備品がそっくり大陸中に飛び散り、行方知れずになってしまっていたのが一番の理由だったが、それでも工夫をしながら上手くやってこれていたと思う。


 しかし、相手がこちらと対等な存在、同じ世界からやってきた機体ともなれば少々厳しくなってくる。原作と違う装備で戦うというのには、中々に浪漫を感じるのだが、そのままではルクルァシアとやり合うには足りなくなってしまうだろう。


 我々の装備品というのは、機体に合わせて作られている。逆に言えば、その武器を装備してこそ、我々は完璧なパフォーマンスを発揮出来るというわけだ。


 キリンが仲間となった今、専用装備の製造が可能となった。しかし、パイロットが不得手で使いこなせない物を装備してしまっては、いくら武器と機体の相性が抜群であっても、逆にパフォーマンスが落ちてしまうことになる。

  

 なのでキリンはパイロット達がある程度新機体に馴染んだ頃、専用装備の取り扱い訓練をした後、それを用いた新必殺技を授けたのでは無いか。


 しかし、俺に感してはどうも事情が違うようだ。現在新装備の仕込みに向かっているキリンがこんな言葉を残していた。


『カイザーブレードは君の専用装備であり、君にとって非常に相性が良い武器だよね。でも、それはあくまでも竜也に合わせたものであり"アチラの世界の都合"でそれが選ばれているだけなのだよ。しかし君は他のAIとは事情が違う。君自身がレニー君に合わせる事ができてしまう。言ってしまえば、君は竜也が乗っていたカイザーとは別機体、レニー君を専用パイロットとしてデータを蓄積してきた機体だ。それを考慮すると……レニー君の得意武器であるナックルでも十分ポテンシャルを引き出すことは可能……けれど、それでも今のままではダメ、君もレニー君も新たな一歩を踏み出す時が来たんだよ。竜也とレニー、2人のパイロットが結びつく時が、力を継承する時が来たんだ』


 いやあ、一息にこんな事を言われてしまって、クラクラとしてしまったが、なんだかストンと俺の中にはまる物が有ったのも確かだ。俺自身には竜也と共に戦った記憶は一切無い。持っているのはあくまでも視聴者目線でのデータのみだ。思えば、機体に残されているはずの戦闘データは空っぽ。他の僚機達と違って、原作パイロット達が残した記録が一切残っていないのだ。


 なので、俺の中に蓄えられている戦闘データはこちらの世界、つまりはレニーをパイロットとして戦ってきた記録のみだ。なるほど、俺自身がレニー好みの機体として成長し、原作のカイザーとは違うカイザーへと変化していたのだな。


 そして、新たな一歩と来た。他のパイロット達と同様、レニーに武器と技を授けるのであれば、素直にカイザーブレードの後継装備か、それを用いた新技の訓練だとなるはずである。


 しかし、素直にそうはならないだろうと思っている。思い出して欲しいのは、悲しいまでに相性が悪いレニーのソードスキルだ。一応それなりには戦えるのだが、あくまでもそれなりにすぎない。幾ら訓練をしても光る物は無い。純粋に剣でのみの勝負をしてしまえば、ステラの団員に手も足も出ないまま負けてしまうだろう。


 しかし、キリンの言葉にはそれでもなんとかなるという説得力があった。


『それを考慮すると……レニー君の得意武器であるナックルでも十分ポテンシャルを引き出すことは可能……けれど、それでも今のままではダメ、君もレニー君も新たな一歩を踏み出す時が来たんだよ。竜也とレニー、2人のパイロットが結びつく時が、力を継承する時が来たんだ』


 つまり、原作通りではないにしろ、劇場版の竜也が使用していた技を身につけられるという事だ。初代パイロットから2代目パイロットに技を継承する……なんて燃える展開なのだろうか!


 こうなってしまうともう予想がつかない。なので、キリンが何を出してくるのか期待と不安の気持ちを溢れさせながら待っている。


 待っていると言っても体感時間で5分くらいのものであったが、どうやらキリンが戻ってきたようだ。


「やーやー、待たせたね? 待ってない? まあ、どちらでもいいのだが、用意が出来たので転送しようじゃないか」


 居るだけでうるさいキリンが余計なセリフと共に何かを送ってきた…………これは。


 送られてきたのは新装備のデータであった。ここはVR空間内なので情報がそのまま実体化してしまう、つまり目の前に現れたのは新装備そのものだ。


「レニー、つかえそうか?」

「どうでしょう? 見たことが無い武器なので正直わかりませんが……でも、これならガントレットと同じように使えるかも知れませんね!」


 若干戸惑いつつも、剣よりは大分いけそうであると、レニーが目を輝かせている。


「なるほど、こう来ましたか。確かにレニーにピッタリですね。興奮して暴れ始めたレニーは野生の狸が獰猛に暴れている幻影が見えることがありますが……それを思えば納得です」

「タヌっ……お姉ちゃん? タヌキは可愛くて好きだけど酷いよ!」

「ええ、レニーは可愛いタヌキさんですよ」

「ちょ、ひどいってば! もーお姉ちゃん! ひどいよ!」

  


 たぬきだ、たぬきじゃないとワイワイと騒ぐ2人。なるほどなあ、確かにレニーはちょっとタヌキっぽいな。フィオラはもう少しシュッとしてるんだけど……っと、やばいやばい。スミレに思考が漏れたらいいつけられてしまうな。


 わーわーと、ひとしきり騒いだ後、ようやく落ち着いたレニーが気を取り直して新武器の装備をオーダーする。


「換装! カイザークロー!」


 シンプルでそのまんまである名前のコールと共に両手に長く、分厚い4本の爪を備えた武器がそれぞれ現れる。


 腕に固定されるように装備されているその爪は、俺を人間サイズ――170cm程度――に換算すれば50cmくらいだろうか? 下にだらりと腕を下げればふくらはぎの辺りまで伸びるその爪は非常に長く、拳と大分勝手が異なりそうなのだが……ふむ、レニーは何か自信に満ちあふれた顔をしているな?


「フフ、どうだい? その爪は。かっこいいだろう?」

「はい! お姉ちゃんにタヌキ呼ばわりされたのは許しませんが、武器に罪はありません!」


「カイザー、すまない。少々ネタバレをするがいいかい?」

「ああ、構わんよ。俺はもう……気にしないと……決めたから……な」

 

「随分と苦しそうだが……まあ、許可も出たことだし、話そうか。竜也が決戦に向けて新たに手に入れた武器は、改良型カイザーブレードなんだけどね、なんと念願叶ってそれを両手にそれぞれ装備、そう、かれはとうとう二刀流を成し遂げたんだよ! まあまあ、そう嫌な顔をしないで遅れよカイザー。私だって、核心となるネタバレは一応避けているんだから。というわけで、新たに手に入れたカイザーブレード二刀流は非常に強力な味方となってくれたわけなんだが、流石に拳じゃあそれは再現不可能だ。しかし、レニー君は剣が苦手。そこでだ。グリップを握る必要の無いこの爪ならば、君も上手く扱えるのでは無いかと用意しておいたのさ」


「キリン……ありがとう! やれる、この武器ならあたし、やれるよ!」

  


 あの爪の長さならば、確かに剣の代わりになるかも知れないな。しかし、竜也……二刀流を極めたのかぁ……くっ、きっとかっこいいのだろうな! それを成すまでの課程もきっと素晴らしいシーンだったんだろうな! いいさいいさ! 俺にはレニーが居るんだ。レニーがどのような壁にぶち当たり、如何にしてそれをぶち破るのか。アニメでは無く、現実の物として自らパイロットと共に体験出来るんだ! ネタバレなんて平気へっちゃらだもんね! 

「じゃ、まずはその武器に慣れる所からいこうか。では、戦闘再開だ」


 ノンビリと、しかしウキウキとした声でキリンがカウントダウンを開始する。さあ、レニー! 新たな一歩を共に踏み出そう!

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