第四百三十三話 レニーの欠点
ブンブーンは飛行系やられメカということで、単体であればそこまで脅威とはならない……のだが、現在こちらに向かってきているのは単体では無く群れ、群れなのである。
「ひーふーみー……ざっくりと23機は居ますね」
「指振り数えんでもレーダーでわかってるだろ……」
スミレが暢気な声でブンブーンを数えている。相手が雑魚である事からそこまで脅威では無いと判断しているのだろうが……それでもあの数でこられると少々面倒だぞ。
レニーが得意とする武器は拳である。中でも得意とするのはストレート……といっていいのか、わからないが、兎に角普通のパンチだ。機体重量を乗せたその一撃は惡を穿つ強力な一撃となる……のだが、欠点もある。
攻撃範囲が『点』であり『面』ではないところだ。故に動き回る敵には当てるのが難しく、ましてそれが飛行しているともなれば、完全に分が悪い。拳法の達人の様に飛んでいるハエをピシピシと拳でたたき落とすなんて器用な真似はうちのレニーには不可能だ。
そして何より……多数の敵を相手とするとなればなおさらだ。ブンブーン相手ならば、そう易々とマズイ状況にはならないだろうが、それでも1機ずつ地道に潰していくというのはなかなかに骨が折れる。
本来のカイザーはカイザーブレードを振り回すことが多く、わらわらと現れる雑魚敵の対処はブレードの回転切りで済ませていた。
それもこれもアニメのパイロットである竜也が喧嘩をする際に木刀を使っていたため、そのセンスがそのまま生かされた結果なのだが、レニーにはどうもその才能が無い。
こちらの世界にはハンターと呼ばれる傭兵と狩人、冒険者を足したような職業があるわけで、機兵に乗らずに生身で獣を狩るハンターの数は少なくはない。
『全裸』などと言う蔑称で呼ぶ連中もいるようだが、魔獣ではない単なる獣であっても生身に人間にとっては脅威となる。機体が大きく、小回りがきかない民生用の機兵では獣を狩るのは難しいため、危険な野生生物の討伐依頼で活躍するのは生身のハンターで有ることが多いという。
フィオラも狩りの才能に満ちあふれていて、ルゥとして彼女と旅をしていた時には鳥やらウサギやらなんやらと、動物性タンパク質には困らなかったことを覚えて居る。
狩りに関する才能が天才的なフィオラと対象的にレニーはそのセンスが無く、その代りに採集の才能があり、薬草やキノコ、はたまた鉱石の類など、レニーは軽く見つけてしまうのだという。
レニーと出会ってからまだ1年足らずであるが、彼女の性格は大分わかってきた。努力家で、細やかなところに目が行き、興味が有ることはとことん調べ上げ、知識と技術を磨いていく。わからない事があれば細やかに質問をし、我が身の知識として吸収してしまうのだ。彼女の採取上手な所は、その性格から来ているのだろうと思う。
しかし、レニーは結構大雑把なところがある。採取に関しては、教育の賜なのか、その限りでは無いのだが、他の作業をやらせようとすると雑というか、真っ直ぐに結果を求めようとするというか。プラモを組ませようとしてみれば、きっと適当にぱちんぱちんとニッパーで切ってしまい、バリやら傷やらで悲しい出来になってしまうことだろうな。つまり、レニーはその性格上細やかな作業をするのにあまり向いていないのだ。
レニー自身もそれは身に染みて解っているようだ。レニーが作る料理は中々に美味いのだが、繊細で手が込んだものではなく、どちらかと言えば男の手料理というか、なんというか……お父さんがキャンプで作ってくれたやつだこれ! みたいな物を作るのだ。おいしい、おいしいと食べる仲間達をみて、どこかばつが悪そうに『味だけはいいってよく妹に言われてたんだよねえ、あたしあんまり器用じゃ無いから差』と、こぼしていたのを覚えて居る。
器用では無く、細かい作業が苦手であると理解しているからこそ、機兵のことが好きで好きで仕方がないのに、そのエンジニアであるリックに弟子入りをしようとは考えず、こつこつとハンター稼業を頑張っていたのかも知れない。
もしもレニーがもう少し器用であればリックのもとに弟子入りし、マシュー同様に機兵の修理や武器開発の手伝いができたのかも知れないし、狩りの才能ももう少しあったのかも知れない。
そして――きっと剣だって上手く扱えたのだろうな。咆哮を上げながら、未だ扱い切れずにいるカイザーブレードを振り回すレニーを見ながらそう思った。
「のりゃあああああああああ!!!!!」
ブレードに巻き込まれたブンブーンが1機、また1機と撃破されていく。当たるのだ、そう、当たることは当たるのだ。
剣の才能が薄いレニーとは言え、今日まで全くそれに触れてこなかったわけではない。努力でもって補い、それなりには戦えるようになっている。
が、それなりはそれなりだ。
シグレやミシェルの動きと比較すれば無駄が多く、振り抜いた後の隙が多い。そのため、ブンブーンにちょいちょい反撃のチャンスを与えてしまっている。
戦闘訓練を始めてから5分が経過している。現在残存しているブンブーンの数は11機。
『ミシェルであれば既に殲滅しているでしょうね』
と、スミレが俺にだけ聞こえるように漏らしていた。彼女もまた、レニーの弱点であるこの状況、複数の敵を相手取らなければいけない状況に頭を悩ませ渋面を浮かべている。
時間をかければレニー単体で十分に殲滅できる相手ではあるのだが、時間をかければかけるだけコチラのダメージも多くなっていく。いくら自動修復機能があるとは言え、修復が済むまでは運動性能を始めとした機能の低下がどうしても発生してしまうので、無駄な被弾はなるべく避けていきたい。
そして、なによりこれから始まろうとしているルクルァシア戦においてもこれは乗り越えなければいけない問題だ。
恐らくはルクルゥシアも多数の眷属を用意していることだろう。我々が現れたと知れば、それらを差し向け、防衛に当たるはずである。
本命のルクルァシアに辿り着く前にぼろぼろになってしまってはどうもこうも無い。いうも僚機のサポートを受けられるとは限らない。合体を解除して、個別に行動することもあるだろう。その際に、飛行タイプの眷属に囲まれてしまえば――キリンとフィアールカが用意してくれたこの訓練が意図することはそういう事なのではなかろうか。準備運動と言っていたが、中々にやってくれる。
……ああ、なんてこった。この推測は正解で間違いなさそうだ。まったく、本当にやってくれるぜ、キリン先生!
残り4機まで減らした所でスミレがのんびりとした声を上げる。
「良かったですねレニー、早くもおかわりが届いたようですよ」
「ええ……!? うっわあ、なんだよこれえ。全然良くないよ、お姉ちゃん!」
若干うんざりした声を上げるレニー、それもそのはずおかわりの数は40機。先程より増えている。これをまた全て捌くとなるとこのままでは不味いだろうな……などと考えていると、キリンから通信が入る。
「準備運動は済んだみたいだから本題に入るよ。っと、ブンブーン隊は一時停止っと。
……うんうん、やはりレニー君にはブレードは向いていないね。動きに無駄が多いし、武器の良さを活かしきれていない」
ざっくりと厳しいところをザックリといかれてしょんぼりとするレニー。この問題は本人もよーく自覚していたようで、反論することなく話を聞いている。
「ああ、そんな顔をしないでいいよ、レニー君。これは君のせいではない、ブレードのせいなんだ」
どんなフォローの仕方だよ! と思ったが、黙っておく。ここで混ぜっ返すと話が進まなくなるからな。
「ブレードはあくまでも竜也に合わせたものだ。なんといったらいいかな『アチラの世界の都合』でそれが選ばれている装備品と言ったところかな。竜也は木刀を好んで使うだろう? パイロットにあわせて用意された装備、それがカイザーブレードだ。竜也のために用意された武器を君が上手く使えないのも仕方が無い話さ。
君は射撃が苦手な反面、近接戦闘を得意とする。ただし、刃物は何故か上手く使いこなせないで居る。だから君はナックルをメインとして使っているのだと思うのだが、それだけじゃあ多数の敵に囲まれた時に苦しいし、ブンブーンのような飛行体には苦戦しちゃうよね。そこでだ――」
と、キリンが切り出したのは、ここに来て登場する新装備の話であった。
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