第四百三十二話 VR訓練再び
新必殺技を覚えよう!――というわけで、我々はキリンとフィアールカが共同で用意した訓練プログラムを立ち上げ、VR空間内で訓練の開始を今か今かと待ちわびている所だ。
『最大まで時間が引き伸ばされたこの空間内でならば、"外での"時間を考慮せず、思う存分訓練することができるよ』とキリンは嬉しそうに言っていた。
思う存分出来るほどに時間を引き延ばした場合のリスク、レニーやミシェル達、生身の人間にとって、脳を酷使するような真似をして大丈夫なのかと、キリンとフィアールカに聞いてみたのだが、参加パイロットの様子はフィアールカがキチンとモニタリングした上で、負担が掛からないように調整をかけているとのことだった。
そもそも、レニー達は輝力の扱いに慣れ、大分身体に馴染んでいるとかで、一般人と比べれば、びっくりするほど頑丈な身体になっているんだそうな。キリンが『今のあの子達と一般人を比較すると、ゴリラとネズミくらいの差はあるよ』等と言っていたが……パイロット達をゴリラ呼ばわりとは、後でフィオラにチクってやろう。
というわけで、VR空間内には俺達の他に、新技を披露してくれるというミシェルとヤマタノオロチ、そして訓練はいくらしても構わないとばかりに付き合ってくれているマシューとシグレ達。
勿論、我々の講師役としてキリン大先生と、そのパイロットであるフィオラとラムレットも参加しているわけで。
つまりは結局の所いつもどおりの全員参加なのであった。
「さて、訓練と言われて来てみたが……キリン先生、これから我々は一体どのような事をさせられるのだろうか」
『うむ、カイザー君、実に良い質問だね。ブレイブシャインのパイロット達は輝力の扱い、操縦技術共に規定のレベルを十分に超えている。これはこれまでの訓練や実戦で得られた経験の賜だと思う。実によく頑張ってきたね。
しかし、圧倒的に足らないのが経験だ。特に、対人戦の経験が不足している。だから、今以上にポテンシャルを向上させるには、やはり実戦形式の訓練しかないだろうなと私は思うんだ。つまりだね、以前同様に私とフィアールカがシミュレートした強敵達のデータと戦ってもらおうと思っているのだよ』
以前の訓練では、データで再現されたアニメカイザーの敵幹部達が訓練相手としてVR空間に登場し、ちょっとした憎い演出を使ってパイロット達の限界を引き出し、新たな機体と装備に慣れさせるという、なかなかに唸らせる事をやらかしてくれたんだよな。
今回も同様に……ということなんだが、どうもキリンの喋り方に含みを感じるんだよな。そもそも、だ。同様の訓練を受けたであろう、パイロット達が今日まで一切細やかな話をすることがないのが気に掛かる。特に、マシューなんか普段であればアレが凄かったの、これがキツかったのと、嬉しげに話の種にしているはずなのに涼しい顔でこちらをみているもんな。
……今回の訓練……きっと何かがあるぞ。
スミレも俺と同じことを思っているようで、注意深くキリンの動向を探っている。何か悪いことをされるわけでは無いのだが、キリンの手のひらの上でコロコロとされるのは気に入らないようで、キリンをじっとり睨み付けている。
「その気になればハッキングを仕掛けて探ることも不可能ではないのですが……まあ、味方がすることですし、サプライズを仕掛けるというのであればこちらも楽しみに受け止めてあげましょうかね……」
……とか思っていたら密かに恐ろしいことを考えていたようだ。これでキリンが身内でなければ、どこかの国の協力者――と言った存在であれば、スミレはサラリとハッキングを仕掛けてたんだろうなあ。
『……? なんだか寒気がするね。いや、寒気というのがどういうものなのかキチンと知っているわけではないけれど、パイロット達が言う寒気に該当するような現象が起きたような……? 背部パーツ内部に違和感を覚えたというか、これがゾクッとするって奴なのかな? 一体何が!?』
キリンに何か妙な現象が発生している……!
「まあ、いいか。後でデータをチェックしてみるさ。というわけで! カイザー君! レニー君! スミレ君!」
って、切り替えるのはやいな!
『これより訓練を開始する。まずは準備運動がてら雑魚戦からだ。存分に身体を慣らしてくれた前。ああ、ちなみにミシェル君の新技披露だけどね、それも君たちの訓練と合わせて行おうと思っているんだが、それはまあ、後のお楽しみだ』
では始めるよ、とキリンが言うやいなや、これまで我々が立って居た
しかし、市街地と言っても、以前の訓練に使われた物とは別物だった。先の訓練で使われたのは、アニメの舞台である日本の架空の街だったのだが、今回のマップはキチンとこちらの世界に合わせた建物になっているようだ。
「あ! カイザーさん! あたしここ知ってます! 帝都ですよ帝都! ほら、あのお城見て下さい! あれがナルスレインさんやルッコさんが居るお城ですよ」
レニーが指差す方向を見れば、なるほど確かに立派な城、ヨーロッパにありそうな城らしい城が建っている。そう言えばレニーは一人帝国に飛ばされた後、ジルコニスタと共に帝都を訪れていたんだったな……。
怪しげな仮想敵国として認識し、やがて実際に敵対して戦闘まで行ったシュヴァルツバルト帝国。しかし、今では共に手を取り合い戦地に向かう仲になっている。アニメ2期で1期の敵対組織が味方になる展開……と考えれば中々に俺好みのシナリオになっていると思うのだが、それもこれもルクルゥシアと言う共通の敵が現れたおかげ……おかげと言って良いのかわからないが、その影響で出会った縁があるんだよなあ。
鎖国していたリーンバイルとの国交再会、滅んでしまっていた旧ボルツ領の生き残り達の再興、そして長き間の睨み合いにピリオドを打ち、共に手を取り歩み始めたシュヴァルツバルト帝国。
この戦いが終わったら……というのはなんだか死亡フラグのようで嫌だが、戦いが終わればこれまでに無いほどの平和と平穏がこの大陸に訪れることだろうな。全ての国家が手を取り合い、ひとつになって大陸全体を盛り立てていく、そんな世の中に――
と、しみじみ将来を想像していたところで……スミレからカツが飛んできた。
「カイザー……貴方は何かスキを見せるとシミジミとする悪い癖があります。既に訓練が始まっていると理解していますか? 前方2時の方向より敵影、レニー、頼みましたよ」
「了解! んー……あいつ見たことあるな……えっと、えっと飛行タイプの……あ! アニメで見た空飛ぶ雑魚敵……ええと、ブンブーンだ!」
ホント悪い癖だよな。敵の接近に気づかないほどにぼんやりしちゃうなんてスミレに怒られるのも無理はない……と、ブンブーンか。随分と懐かしい敵ロボだ。その名の通り、背中に昆虫型の羽根を備えた飛行タイプのロボットで、雑魚兵士が乗り込み、主人公チームを牽制するために現れるという、俗にいうところのやられメカその1だな。
「なるほど、確かにこれはウォーミングアップにはぴったりだな。レニー、まずはこちらも飛行して空中戦の訓練といこう」
「了解! ふふ、あたしブンブーンと戦ってみたかったんです! ……こう、まるまっちくて可愛くて……ふふふう」
「そ、そうか……」
妙にテンションを上げニヤけるレニー。そう言えばこの娘は
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