第四百二十一話 違和感
◆新機歴121年12月14日13時08分
さっそく交代しようと、兵士達が守りを固めている門前に行くと、こちらを確認した3機がゆっくりと後ろに下がっていった。
その内1機が俺の横で停止し、ジェスチャーで何かを伝えようとしていたが、仲間に引っ張られるようにして後退していった……パイロットは一体何を伝えたかったのだろうか。
今回限りの共闘とは言え、通信が出来ないのは非常に不便だな。リアルタイムで情報共有を出来るか否かで作戦の成功率は大きく変わってしまう。この程度の敵なら無くても平気だろうと思ったが、何か嫌な予感がするし、万全を期すことにしよう。
こんな事もあろうかと! というわけで、実は今回のような事態を想定して予め用意していてもらった装備が有る。これはコクピットに設置する後付タイプなのだが、範囲を短距離に絞り、専用チャンネルのみ送受信可能な通信機だ。
これは誰でも簡単に使えるようにをコンセプトに、いずれライダー向けに売り出す予定の民間向け量産型通信機なのだが、特に難しい操作を覚える必要なく、
機能を限定したものなので、残念ながらミュート機能は搭載されていないため、チャンネルを合わせている間は常時コクピット内の音声が相手に垂れ流しになってしまう。慣れないと独り言を拾われてしまう事になるため、俺のようにうっかり口を滑らせるタイプの人間は特に気をつけた方がいいだろうな。
とは言え、それは通信機を貸与される兵士達だけの話しだ。こちら側ははじめから搭載されている通信機で兵士用のチャンネルに合わせるだけで通信可能だし、こちらから相手に音声を送ろうと思わなければ相手に届くことは無い。いくら俺が間抜けだろうと、不味い会話はスミレ先生がカットしてくれるので安心なのである……。
というわけで、レニーが休憩で戻った際に兵士に通信機を渡し、簡単な説明をした。ハッチを閉めたままでも会話ができると聞いて、信じられないという顔をしていたが……まあ効果は結果を御覧じろだ。
「こちらカイザー、シーハマ防衛隊諸君、聞えるか。防衛ポイントに到着した。これより防衛任務に取りかかる。陣地の皆はゆっくり体を休めてくれ」
『こちらヘイズ。さっきあんたと話した赤髪だ。ああ、ホントに離れてても話せるんだな………正直言ってあんたの参戦はかなり助かってる。俺らも回復し次第そちらを手伝う』
「俺達のことは気にするな。諸君はまず、じっくり魔力を回復することを考えてくれ。今後も状況が変わらないとは限らない。休める時に休んでこそだ」
『…………了解。すまねえな、何かあったら呼んでくれ。直ぐに飛んでくからな』
通信が切れ、辺りを静寂が包み込む。現在正面に見える3機の敵機は、俺が単機で現れたところで特に変化を見せることはない。兵士が3機で守っていた時と同様に、時折威嚇するかのように切り込んでくるくらいで、基本的にはじっと門の先を守っている。
「思ったんですが、3機だけなら私達でやっつけられませんか?」
じっと様子を伺うのに飽きたのか、レニーがそんな事を言う。実のところこの3機が相手であれば、ヘバり気味の兵士諸君の力を借りること無く、俺達だけで制圧可能だと思う。
俺に言われるまでもなく、既にシミュレーションを済ませていたスミレ先生によれば、カイザー単機で強襲した場合、98%の確率で撃破できるとの事だ。その気になればいますぐにでも制圧する事は出来る。
ただし、その場合、眷属化されたパイロットに少なからずダメージを与えてしまう可能性が高い。それに――
「……実のところを言えば、俺達だけで十分制圧可能なのだが」
レニーはやっぱりそうだよね、と微妙な顔をした後、ハッ! と、目を見開いたかと思ったら、なにやら難しい顔をして考え始めた。
以前のレニーであればここで間違いなく『じゃあなんで戦わないんですか!』と鼻息荒く質問なり抗議なりをしてきたはずだが、俺の声から、何かを感じ取ったのか、あえて敵を泳がせている理由を探っているようだ。
レニーの成長が感じられて非常に嬉しい。
「考えてみれば変な話しですよね、操られてるパイロットだって、こんな事をしていたら兵士さん達みたいに消耗して動けなくなるはずですよね?」
「そうだな。眷属は周囲の魔素を取り込めるようだが、眷属化パイロットは操られているだけで、体は人間のままだ」
「ほっとけばそのうち息切れしちゃいますよね。そのために、お目付け役の眷属が居るのかも知れないけど、3機の内、人間が乗っているのは2機です。2機が一緒にへばって相手が1機だけになったら、兵士さんたちでもなんとか出来るかも知れませんよね」
「そう。相手もきっとそれはわかってる。じゃあ、ルクルァシアは何故この様な作戦を取らせているのだろうな?」
「……海を除けばここ以外出入り口はありませんよね?……つまり、逃さないように見張っているだけ? 兵士さんたちだけじゃなく、村の人達全員を狙って閉じ込めている、そういうことかな?」
「正解だ。後でご褒美をあげよう」
「わあい!」
なぜこんな悠長なことを眷属共がしているのだろうか? その疑問にたどり着かない俺やスミレではない。口に出すのも悍ましいが、奴らにとって人間は良い材料となる。それがパイロットではなくとも、今後何かと便利に使うために捕らえているはずなんだ。
村人全員を狙った作戦が遂行されている、先発隊が抑え込んでいる内、実戦部隊が後から搭乗するのではないか?
最悪のケースを想定し、上のフィアールカに頼んで周囲を探って貰っていたのだが……嫌な予感は当たるものだ。獲物の群れが網に掛かってしまった。
『カイザー、群れから別れた獲物がいくつかそっちに行ってるの。詳しくは映像データを添付しておくから見るのよ』
「ありがとう、フィアールカ」
フィアールカから送られていた映像によると、こちらに向かう敵機の数は28機。現在位置から予測されるこちらへの予定到着時刻は23時間前後。
あまりにも多すぎる団体様の姿が見えた時には、冗談ではないと頭を抱えてしまった。スミレも同じく苦い顔をしていたな。
この村の規模を考えれば、少々人数が多すぎるように思える。まあ、何にせよだ。理由はわからんが、敵の数が増えた所で俺達がやることには変わりはない。
……正直、予想よりマズい状況になったと思っているが、顔を突っ込んでしまった以上『思ったより敵が多かったから無理です、帰ります』という訳にはいかないからな。
流石にこれは現在の戦力だけではどうしようもない。まずは頼みの綱であるグランシャイナーに報告をして情報を共有しておかないとな。
「こちらカイザー、想定していたよりも面倒な事になりそうなのだが、マギアディスチャージの具合はどうだ?」
『こちらキリン。現在順調に加工中……と、言いたい所なのだがね、思ったよりも歩留まりが悪くてね……いやはや、この植物資源というのは、難しいね。鉱物資源と違って、思った以上にロスを抑えるのが難しい。明日の朝、追加素材を入手してもらうことになっているのだが……と、面倒な事と言ったね?』
「あ、ああ……今、上のフィアールカが撮った映像が届いたと思うのだが、これだけの敵機がこちらに向かってきているんだ。対するこちらの戦力は俺と12機の機兵、それに数に入れていいのか悩むところだが、生身の兵士が8人だ」
『それはそれは……。いくらなんでも、厳しいね。こちらは素材入手のために少々遠出していてね、今から向かえば5時間後には合流できると思う』
「5時間の距離か……いや、それならそのままマギアディスチャージの作成に専念してくれ。ターゲットがこちらに到着するのはおよそ23時間後だ。そちらは夜明け共に追加素材を入手し、それが済み次第、加工しながらこちらに向かってくれれば……間に合うかも知れないからな」
『幸い、この辺りは日の出が早いからね。到着予定時刻を13時とすれば、まあギリギリ間に合うかも知れない……が、安心はできないよ、カイザー』
「ああ、勿論だ。では、頼んだぞ、キリン」
『うん、君達も気をつけて』
グランシャイナーが間に合うかは……微妙、というか十中八九間に合わないと踏んでいる。けれど、援軍が来るとわかっているんだ。仲間が来るその時まで、俺達だけでなんとか持ちこたえるしか無い。
23時間後に敵機の追加が有るとの情報を知っているのはブレイブシャインと同盟軍のみ。まだ兵士達には伝えていない……が、まだ少し黙っていたほうが良かろうな。
現在彼らは体力も魔力も大きく消耗している。体が弱りきっているこの状況で下手に不安を煽ってしまえば、回復量が大きく低下するばかりか、今後の作戦に支障が出るほどに士気がガタ落ちになってしまうだろう。
なので申し訳ないが、もう暫くだけ、彼らが万全に回復するまでは話さないことにした。
俺のストレージから出した食事を与え、気力も体力も魔力も回復した所で、情報を開示する。強力な味方が向かっていることを合わせて伝えれば、彼らの心が折れることはないだろうさ。
「うう……これってかなりまずいですよね。グランシャイナーの皆が間に合ってくれればいいけど……」
「最悪の場合は大いにレニーの力を発揮してもらうことになるだろうな。だから今は気をはらずゆっくり休んでおけ」
「……そんな事を言われると休まる心も休まらないよー!」
口ではそう言いつつも、既に気持ちは休憩に向かっているようで、ストレージから軽食を取り出し食べ始めている。そう言えばお昼もまだだったな……。
ここから長丁場だ。ゆっくりと休んでくれ。
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