第四百十九話 防衛ポイントへ
避難場所まで村人を誘導してきた兵士が居たようで、彼が我々を防衛ポイントまで連れて行ってくれるとの事。現地の兵士達には我々の情報が伝えられていないからな。このまま行っては、また浜辺のように余計な混乱を招いてしまうのではと、思っていたところだったから、その申し出は非常にありがたい。
先行して伝令役の兵士が向かったそうで、後は案内人と共に向かえばこちらの身分は保証されるというわけだ。先触れまで出して貰ったのであれば、敵の増援と勘違いされるなど、面倒な事にはならなそうだな。
「中央の連中が乗ってるシュヴァルツよりでけえが、あんた一体何処の所属なんだ?」
流石に徒歩の兵士に合わせて移動するのは時間が勿体なかったため、手のひらに乗せてナビをしてもらっているわけだが、レニーに向かってやたらと質問が飛んでいる。
いくら皇太子殿下のお墨付きとは言え、なんとも怪しい我々だ。村を守る兵士ならば、厳しい取り調べをするのは当然だろうなと、仕事熱心な人だと関心しながら律儀に答えていた……どうもこの兵士は単なる機兵好きだったようで、最終的には『いやあ、この機体かっけえよなあ! 特に足元のラインにしびれたよ!』等と、レニーと楽しく語っていた。
……俺もまじりたいな……平和になったら改めて遊びに来よう。
機兵好きの兵士によれば、一般的な帝国兵が乗る機体はヒューゲルと言うらしい。それらを束ねる兵士長クラスになると、スペックアップが施されたヒューゲル改になり、更にそれらを束ねる兵団長クラスになれば、騎士団同様、シュヴァルツが与えられるようだ。
ただし、それは黒騎士団が搭乗するシュヴァルツから機能が削られた量産タイプであり、金の差し色が入っている黒騎士団カラーと差別化するため、騎士団用の機体は黒色ベースに両肩が赤、兵士に支給される機体は同じくベースは黒色で、両肩が白く塗られているのだとのこと。なにそれかっけえ。
黒騎士団はジルコニスタを中心とした皇帝直属部隊が20名。彼らは皇帝の護衛をする他、その命によって各地に派遣され、魔獣狩りや治安維持に務める。
そして、黒騎士団にはその他にも40名程の現地隊というのが居て、彼らは半島各地に配備され、兵士達と共に魔獣から村や街を守っているらしい。そこで功績を上げると皇帝直属部隊に昇進することもあるとの事だから、騎士→現地隊→直属部隊といった具合に昇進していくのかも知れないな。この辺り、興味深いから後でジルコニスタにでも聞いてみよう。
いやあ、しかしホント詳しいなこの兄ちゃん。ステラの連中からちょいちょいと話は聞いていたけれど、彼らが話すのはどういう作戦をしたとか、どういう戦いだったとかそんな内容ばかりだったもんなあ。こういうデータ的な情報を聞くことはなかったからなかなか興味深い。
「ま、ここは辺鄙すぎて黒騎士様も置かれねーようなとこなんだけどよお、それはそれで気楽でいいよなあって言ってたらこのザマよ。噂には聞いてたがよお、まさか本当にシュヴァルツが暴れまわってるなんて……」
だんだん話し方がフランクになってきた兵士がそんな事を言ってボヤく。
眷属達が乗っている機体は、確認できた物の全てが改良型のシュヴァルツだった。ワイトが使用しているものは兎も角として、バーサーカーが搭乗しているものは内部機構を含めてきちんと正規の帝国騎士団や兵士に支給されているものだった。
捕虜として保護をしているパイロット達の詳しい所属や階級については、まだきちんと情報を得られていないが、あれら全てが騎士や兵団長というのは考えにくい。
おそらく眷属達はパイロット達を捕獲後眷属化し、寄り強力な機体に換装させて"任務"に向かわせているのではないかと思われるが、シンプルな命令しか覚えられないのが眷属だ。ポイント、ポイントで
襲撃し、捕らえた人間たちを眷属処理をした後、拠点に運ぶ。ここで担当を引き継ぎ、捕らえた中から操縦が出来るものを選出し、適当な機体に乗せて、シュヴァルツの格納庫まで移動させる。
シュヴァルツの格納庫に到着後は、また別の命令を受けた眷属が引き継ぎ、次の命令をこなしていくと……。
ルクルァシアを中心とした侵略計画はなんだか身体を侵していく病原菌のようでいやらしい。
砂浜から歩くこと20分。住宅地を通り抜け、農耕地帯を抜けたると、崖を利用して作ったらしい砦のような門が見えてきた。
その門の前には兵士たちが乗る機兵の姿があり、どうやら5機ずつ交代で門を守っているようだ。
砦はカイザーの身長であっても簡単に超えられないほどに高く、立派なものだ。両脇からせり出している岩の存在もあって、無理やりよじ登って通り抜けることは難しそうだ。
つまり、この門を守れば眷属達の侵入を抑えられるというわけで、兵士達が必死に守っている姿が見られるのだが……歩きながら様子をみているのだが、どうも眷属達は手を抜いているような気がする……。
いや、この機兵好きの兵士も言っていたな。一気に攻撃するわけでもなし、こちらを馬鹿にするかのように、せこい攻撃ばかりしていると。
確かに眷属の知能レベルは酷いものだが、逆に言えば『村を襲撃せよ』と言う命令が出ていたのであれば、ちんたら動くことはせずに全力で事に当たりそうなものだ。
マーディンではろくにデータを取れなかったが、情報によればそれなりには戦えるらしいからな。あれではまるで、時間稼ぎをしているようにしか思えない。
「おそらく魔力切れを待っているのでしょう。眷属化した者は別として、眷属達には魔力切れという物は無いでしょうから、兵士達が魔力切れを起こしたタイミングで鹵獲するつもりなのでは」
こういう時にスミレさんの状況分析は大いに役に立つ。戦闘になってしまえば相手の機体を破壊してしまうかもしれないし、死傷者だってでる事だろう。眷属達の目的は殲滅ではなく収穫だ。特に、機兵とそのパイロットは何より優先して手に入れたい獲物のはずだ。
であれば、なるべく無傷で捕獲し、搭乗機毎連れていきたいと考えるわけで、相手が弱るのを待つように命令がくだされている可能性はあるな。
いくら眷属達が馬鹿だとは言っても、それを束ねるルクルァシアは知能が高く狡猾だからな。それくらいのことは考え、実行するだろうさ。
5機ずつ交代で守っているとは言え、魔力はそう簡単に回復するようなものでも無い。同盟軍やリムールの防衛隊のパイロット達も『任務が長引くと翌朝に響く』とボヤいていたからな。魔力というものは、しっかりと食事をとってゆっくり休まねば満足に回復しないものらしい。
現在砦を守っている兵士達にそれが出来ているとは思えない。いくら交代で休憩をとっているとは言っても、わずかに休んで得られる回復量は微々たるものだ。休憩している兵士の顔を見るに、既に限界が近いことが窺える。
間に合ってよかった!
コクピットハッチを開け、そこから顔を出したレニーがぶんぶんと手をふる。
こちらを見て驚いた顔をしているのは、ぐったりとした顔でへばっているパイロット達だ。そのまま彼らの所に向かうと、驚いた顔をして固まっていたが、伝令を思い出したのか、直ぐにホッとした表情に変わる。
「おーい! 応援を連れてきたぞ」
手のひらに乗せていた兵士を下ろすと、仲間の所に駆け寄っていく。俺の手から降ろされた仲間の姿に、伝令はマジだったのかと驚いた顔をしているな。
「おお……! さっき聞いたが……なるほど確かにデケえな……けど1機か……」
「冗談かと思ったら、ほんとに女の子じゃねえか! 大丈夫なのか?」
「俺もそう思うんだが、殿下のお墨付きだからなあ。何かこう、バーンと秘密でもあるんだろうよ」
「こういう場所じゃなけりゃ、歓迎したい様な子だけどよお……」
眷属達の攻撃が収まっている様で、心なしか兵士達の口調も穏やかである。しかし、秘密と来たか。確かにのほほんとしたレニーの顔を見れば申し訳ないが頼りにならなそうだと思ってしまうのかもしれないが……。
「むー。何だか知らないけど失礼な事を言われてますね!」
「ふふ、ゴリラみたいな女の子がきたぞ! これで勝てる! って言われるよりマシでしょう?」
「それは……そうなんだけど……むー」
「ほら、カイザー。ここに来ているのがレニーだけだと思われているから、殿下のお墨付きでもまだ足りないんですよ。ここはしっかりと、大人の貴方が話をするべきです」
「そうだよね、カイザーさんがビシッと言えば嫌でも信じてくれるよね!」
ほら、はやくなさいとスミレに言われ、唐突に俺の出番が来てしまった。そう言えばシーハマに来てから外に向けて喋ってなかったな。はじめから俺が話していれば、もう少しスムーズに事が進んだのかも知れないな……。
どれ、自己紹介といきますか。
『紹介が遅れてすまない。俺はカイザー、
突如として響き渡る謎の声……、俺の声はどうやらそういう扱いを受けたようだ。
「今……喋ったのって……」
「機兵……? 機兵が喋ったのか……?」
「嘘だろ……おい、乗ってるの女の子だけじゃなかったのか?」
「いや、確かにあの子だけだったぞ?」
「じゃあやっぱり……」
「今喋ったの、あの機兵なのかー!?」
久々のリアクションに懐かしさを覚え、苦笑する我々なのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます