第四百十八話 シーハマに
『カイザー殿! こちらでござる』
目的地付近に到着すると、森の中にシグレの反応があった。ゆっくりと下降し、合流を済ます。
「シグレ、ご苦労様。これまでの状況はどうだ?」
『はい。村の防衛にあたっていた兵士は10機、対する敵機は3機で、内2機が眷属化した騎士で1機が眷属でした。数では勝る兵士達はなんとかギリギリのラインで護りを固めていますが……正直言って破られるのは時間の問題でしょう』
シグレの説明によれば、兵士達の機兵は防衛用の兵装に身を包み村の中に入れないよう頑張っているのだという。巨大な壁のような盾を展開し、なんとか侵入を許さず頑張っているようだ。
眷属達の行動ルーチンが単純なのが幸いしてるな……。あれで奴らが賢かったらばとっくに制圧されていたことだろう。
「シグレ、君にはレノールの運搬を頼みたい。レニーが集めたのをそちらのストレージに転送する。君のと合わせても予定した数量に足らないかも知れないが……取り敢えず試作品の作成を急がせてくれ」
『わかりました……ではカイザー殿達は……?』
「……油断するつもりはさらさら無いが、3機なら俺達の介入が有ればなんとかなるだろう。ただ、無力化しようと思えば、少々手間取るかも知れないな。だからシグレ、急いでキリン達にそれを手渡し、試作品の作成を急がせてくれ」
リオ達と共に戦った時のデータから考えれば、上手く兵士達と連携が取れればなんとかなりそうな気はする。しかし、眷属の力は侮りがたいし、眷属化している騎士はなるべく傷つけたくはないため、中々厳しい戦いになりそうだな。
「もし、試作品が完成した時点で俺からの通信が無かった場合、急ぎ届けてくれると助かる……」
『……了解です……! カイザー殿、レニー、スミレ殿。ご武運を』
レノールの転送が終わるやいなや、猛スピードで飛んでいくシグレ。あの速度ならここからグランシャイナーまで片道2時間というところか。
マギアディスチャージの試作品がどれだけの時間で出来るのかはわからないが、いくらなんでも行って直ぐ出来るようなものではないだろう。
取り敢えず……村の兵士達とコンタクトを取らねばな。
シグレを見送った後、即座にシーハマへと向かった。どうやらこの村は漁村らしく、砂浜に立てられた桟橋には小さな漁船が沢山係留されている。
居住地は岩山に包まれるように存在する土地にあり、東側がそっくり砂浜になっていて、村への出入り口は西に有る岩山の隙間を通るしか無いようだ。
なるほど、天然の要塞みたいだな。おかげでなんとか持ちこたえられているんだな。
いくら眷属とは言え、海を移動することは不可能である。以前アランとリリィが使用した次世代型船舶でも有れば話しは別だろうが、眷属共にそれを使える知能が有るとは思えない。
なので、村に攻め込もうとすればどうしても西のルートを使う必要があり、そこをなんとか兵士達が守っているというのが今の状況だろうな。
さて、飛行可能な俺はそんな都合など知った話ではなく、堂々と砂浜側から村に降り立たせてもらった。この巨体では隠れて侵入するということは不可能だし、兵士や村人と協力体制を取る必要があるので、コソコソ隠れることはせず、もうはじめから堂々と行ってしまえというわけだ。
俺が降り立った砂浜には村人たちが避難してきていたようで、突然空からから降り立った俺を見て悲鳴を上げたり、腰を抜かしたり、神に祈ったりと……まあ、まあ大忙しだ。
が、この登場は俺が単独で決めた作戦ではない。スミレ大先生の奇策を大いに取り入れ、保険に保険を重ねた成功確率が高い作戦なのだ。
「予想通りだな……レニー、頼む」
「はい! 任せて下さい!」
コクピットハッチを開け、レニーが顔を出すと村人たちの恐慌状態が若干収まった。それもそうだろう、見知らぬ機体が非常に悪いタイミングで妙なところから現れたわけだから、敵の増援だと思った事だろう。
しかし、中から出てきたのは何処にでもいそうな普通の女の子である。別の意味で驚くことはあっても、無害そうな顔をしているレニーを見て怯えることはないはずだ。
「ええと……はじめまして。通りすがりの応援部隊です。現在攻撃を受けているこの村の手助けをすべくやってきました……よ?」
何故そこで疑問形になる……ともあれ、こちらに敵意はないことと、協力をしに来たということは伝えたぞ。
……かなり無理があるけれどもな!
「お、応援部隊だと……? 何処にも連絡してねえのになんでここが襲われてるってわかったんだ……? それにお前1人来たところでどうしようも……ないだろ……」
「そうだそうだ。盾くれえにはなるかも知れねえが、俺達だって兵士の連中にだって意地はあらあ。あんたみたいな女の子をむざむざ危ねえとこに行かせられるか」
む、レニーのあどけない顔は逆効果だったか。空から現れた特殊なロボに乗っているというのに、それには触れずに村人たちはただひたすらにレニーの事を心配している……」
「通りすがりっていったねえ。大方煙でも見てきてくれたんだろう? 私達は……大丈夫だから……悪いことは言わないさ、どうかこのまま逃げとくれ」
まさかここまでとは。流石のレニーも困った顔でスミレに助けを求めている。
「まあ、ここまでは想定内です。では保険を使いましょう」
レニーが村人達から説教されている間に"保険"の用意を進める。要するにお墨付きになればレニーだって立派な戦力として認められるはずだ。
村人達だって本心では1機でも多くの応援が欲しいはず。大義名分を与えてやればコロリと行くはずなのだ。
と、用意が出来たようだ。それでは外部スピーカーに音声を出力開始……と。
『む……それで私は……何? もう繋がっている……? ……それを早く言ってくれ』
「なんだ? 男の声が聞こえるぞ……?」
「どこから……? 機兵からか?」
「いやまて、この声……どこかで……」
突然聞こえ始めた男の声にざわめく村人達。レニーの他に誰か乗っているのではないか、などと言っている奴も居たので、姿勢を低くし、コクピット内が見えるようにしてそれを否定する。
『シーハマの諸君。ナルスレイン・シュヴァルツヴァルトだ。此度の襲撃は現在帝国各地で発生している異変に関する異常事態である。一見すると我が帝国の者が反乱を起こしているように見えるが、事実は違う。あの機体を操っているのは、人であり人ではない存在、諸君も噂程度には聞いていることだろう』
「おいおい……皇太子殿下じゃないか……この声、本物だぞ……」
「しかし一体どこから喋っているんだ?」
「特別な魔導具でも使ってるのだろう」
皇太子だ、本物だとざわめくもの、やはり異変の噂はほんとうだったのかと震える者、様々である。
そもそも兵士達が何も知らないのであれば、黒騎士が村に来た時点でノーチェックのまま招き入れたはずだ。多少動きが怪しかったのだろうが、眷属であると見破り即座に防衛に入ったのは賞賛に値する。
『さて、現在私の声を諸君に届けている白き機兵だが、機体、パイロット共にジルコニスタとその愛機を凌駕する力を持っている。1機である、少女であると侮るな。彼女は、彼女の機体は強い。まさに英雄の力を持っている』
ちょっと盛り上げ過ぎじゃないですかね……レニーはみるみる顔を赤く染めていくし、スミレは満足そうに頷いているし……。
『現在我々はこの異変に対処すべく動いている。だが、それには少しだけ時間がかかろう。それまで……白き英雄の力を借り、なんとか持ちこたえてくれ。彼女とその機体はそれを可能とする力を持つ』
そして……思った以上に俺達を持ち上げ、村人達を安心させ……場の空気をそっくり変えてナルスレインの通信が終了した。
「うう……カイザーさん……これはこれでやりにくいよ……」
「そうだな……まあ、がんばれ……」
「うわーん」
目をキラキラとさせた村人達に囲まれ、レニーはますます顔を紅く染め上げるのであった。
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