第四百十七話 お花摘み
マギアディスチャージに使われる『魔力発散剤』は『魔力草』と言う俗称で呼ばれる『レノール』を原料とする薬品だ。
レノールは淡い紫色のカタクリに良く似た花を咲かせる植物で、雪解けとともに開花することから春告花の別名もある。
しかし、現在では開花とともに魔力を辺りに放出する特性から魔力草と呼ばれることが多く、風情ある春告草の名を使われることはあまりないらしい。
発散剤の材料となるのはレノールの花びらだ。花びらが1kgもあれば、今回の使用量は十分にまかなえるということなのだが、花びらをそれだけ集めるのは……まあ、大変だろうけれど、量に関してはなんとかなるらしい。レノールは増えやすく、群生する花とのことなので、生息ポイントに向かえばある程度まとまった数が期待できるのだ。
問題は現在12月であり、ルナーサ北部では雪がちらつき始めている頃、つまりは冬であるということだ。レノールが開花するのは2月の終わり頃。群生地に行ったところで咲いている筈はなく、薬品として加工されているものを手に入れようにも、それが保管されている場所は敵地の真っ只中であるわけなので、どうしようもない。
そこで役に立つのがリン婆ちゃんが住んでいる森である。あの森には不思議な加護が掛かっているとの事で、季節に関係なく様々な植物が年中咲き乱れているそうだ。
さすがのキリンもこの現象にはお手上げで『流石異世界。ファンタジーを前にすれば私の知識も型なしだね』とおどけた声で言っていた。
俺としては、我々シャインカイザーのロボット達やグランシャイナーやポーラもアニメ特有のトンデモ科学で、とても知識が役立つようなものじゃあないだろうと思うのだが……それをキリンに聞かれるとまた面倒なので黙っていた。
◆新機歴121年12月14日7時12分
というわけで、俺とレニーにスミレと、フェニックスとシグレの飛行可能な機体2機が例の森に向かうことになり、手分けをしてせっせと群生地を巡っている所である。
群生地の場所はリン婆ちゃんが知っていたので、それに関しては問題なく到着出来たのだが、このレノールを素材にするためには開花中に摘む必要がある。
そしてその開花時間と言うのが限られていて、早朝日光を浴びてから30分だけというひどく限定的な条件なのだ。
そのため、前の日から現地入りをして、夜明けとともに採取開始という非常に忙しいミッションに挑む羽目になったわけだ。
しかし、飛行可能な機体が2機のみということで、採取役がパイロット2名と限定されてしまい、作業は思うようにはかどらない。俺やスミレが手伝おうと思ったのだが、あの小さな体では上手く採取が出来ないため早々に諦めた。
完全合体をすれば6人で来られたのだが、あちらにブレイブシャインの機体を残さないというのも不安だったため、結局こうなってしまったわけだ。
「うわーん! 花が閉じちゃったよー!」
「レニー、ご苦労さまだ。シグレの分と合わせて足りなかったら……まあ、明日もあるさ」
「こんなに大変ならカーゴにルッコさんとかアランとか入れて連れてくればよかったね」
「……そ、そうだな」
なるほど、その手があったか……別に何かと戦うために来ているわけじゃない。花を摘みに来ているだけなのだ。ああ、しまったな。しくじったぞ、これは。きっとスミレは気づいていたのだろうな。あえて黙って見ていて、俺の失態を見てほくそ笑んでいるんだろうな、畜生!
「どうかしましたか? 何か気づいたことでも?」
「……なんでもない!」
フフっと、スミレが怪しげな笑みをうかべている。やはりこいつ……!
取り敢えずレニーが採取した花の総量を計測してみたが、382gと、中々健闘したと思うがやはり全然足らない。シグレがこの倍以上取っていてくれればミッションコンプリートなのだが、流石にそれは難しいだろうな……。
む……シグレが戻ってこないな。花が閉じてからもう30分は経っている。そろそろ戻って来てもおかしくはない頃なのだが……っと、噂をすればなんとやらだ。
「こちらカイザー。どうしたシグレ。トラブルか?」
『はい……。現在地は……ここなのですが』
と、送信されてきた座標によりマップに光点が灯る。ここから凡そ1時間の距離に位置する森の上空だ。一体そんなところで何をしているのだろう。
「確認した。状況を伝えてくれ」
『開花の終了を確認し、帰還しようと飛び上がったのですが、東の方角に煙が上がっているのが見えたのです。山火事ともなれば、この森が危なかろうと煙の出処を探るべく近くまで向かったのですが……』
「なるほどな。それは懸命な判断だ。行く前に一言欲しかったが、今はまず報告を続けてくれ」
『はい。煙は予想よりも遠い場所、森の外で上がっていたため、取越苦労かと思ったのですが、どうも様子がおかしい。そこで周辺を探ってみた所……レーダーに赤い光点が3つ』
「……敵襲か……」
『はい。場所はおそらくシーハマ。敵の種類はここからでは確認出来ません』
「わかった。報告ありがとう、シグレ。俺達もこれよりそちらに向かう。合流後、こちらが集めたレノールを渡すので、シグレはグランシャイナーに戻ってマギアディスチャージの製造を始めさせてくれ」
『了解です。では、監視を続けながら待機していますね』
「ああ、頼む」
3機とは言え敵は敵。
まして……眷属達のスペックに村の防衛にあたっている兵士達が対応できるとは申し訳ないが考えにくい。
通信を聞いていたレニーは既に俺に乗り込み発進準備を済ませていた。
「いきましょう! カイザーさん!」
「ああ、ゆくぞレニー! スミレ!」
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