第四百十六話 無力化兵器
加工された吸魔剤を素材として作り出された魔力炉。それは
魔石とは本来、魔獣の体内で心臓のような役割をしている器官だ。魔獣は取り込んだ魔素を魔石で魔力に変え、それを体内を循環させることによってその体を動かしている。
それをそのまま応用すれば機兵の動力源として使えるのではないか、大戦時に使われていた機兵の動力炉は魔獣が持つ魔石と同等の仕組みだったのではないか、いや、古の魔獣の魔石を用い、魔力炉として使っていたのではないか。
学者たちのそんな言葉から始まったのがシュヴァルツ開発計画だ。
その推測は正解のようで誤りで、事実を知る私からすると妙な気持ちになるけれど、それでもいい線言ってるのだから、学者さん達は誇って良いね。
そもそもの間違いは魔獣の歴史が非常に浅いというところだね。魔獣の誕生には大変遺憾ながら私やスミレが大いに関わっていて、やらかす以前には魔獣というものは存在しなかったのだから。
古の魔獣というのも中々に面白い話だ。確かに古の魔獣というものは正しく存在していただろうさ。けれど、それは今この大陸を闊歩しているメカメカしいアレじゃあなくって、ドラゴンだの、フェンリルだの、オークだのと言った生身のそれなのだから。なんなら沖合で釣りでもしてみたらいいさ、我々の魔の手から逃れて今も生き残る水竜が釣り上げられるんだからね。
……ていうか、そもそもベースとなった機兵を開発したのがうちの身内、
さて、そんな誕生秘話を知るはずもない魔力研究所の人たちは、日々調査と研究に励み、とうとう吸魔草という物にたどり着く。それを見つけたのは勿論、鋼鉄の魔女事、リン婆ちゃんだ。かつて集落で作っていた薬草からヒントを得て魔石と組み合わせ、それに魔術回路を刻み込むことによって魔力のポンプ的な器官、つまりは機兵の心臓を作り出すことに成功したんだ。
コンソール越しにパイロットの手を通じて吸収された魔力を炉に集め、機兵を動かす動力とするわけで、パイロットがコンソール越しに輝力を送る我々カイザーチームの仕組みとよく似ているのだから、なかなかいい線いってるなと感じるわけなのですよ。
コンソールからパイロットの魔力を吸い出す、その働きを逆手に取ろうと言うのが今回の作戦、魔力発散剤を用いた無力化兵器だ。
『……正直これを実用化するのは迷ったよ。なんと言っても過去の自分が生み出した子供達、シュヴァルツ達を完全に殺してしまう道具だからね。でもあんな姿になってる我が子達を見て決心をしたよ。カイザー、レニー頼んだよ。うちの子たちをどうか開放しておくれ』
リン婆ちゃんが覚悟を決めて開発してくれたのは【マギアディスチャージ】と名付けられたこの魔導具だ。これはグレネードランチャーにて放つ弾として使用され、目標に着弾後、機体に張り付き、ターゲット内部を循環する魔力を大気中に放出するという恐ろしい物だ。
本来であれば、機体の動作に回される魔力が霧散してしまうわけで、そのままでいれば、機体は動作不良を起こして止まってしまうわけだ。
搭乗しているパイロットは、それを防ぐためには魔力を流し続けるしかない。しかし、そのまま流し続けていると……魔力欠乏を引き起こして意識を失って無力化されてしまうというわけだ。
乗っているパイロットがまともであれば、そうなる前にコクピットから離脱するか、魔力の供給を止めて反撃の機会を伺うんだろうけれど、眷属化しているパイロットにはそんな器用な真似は出来ないからね。バカ正直にどんどん魔力を注ぎ込んで気絶してしまうのは明らかさ。
そして皮肉なことに、マギアディスチャージは今まで帝国の技術者が馬鹿にしてきた他国の機体には通用しない。何故だろうか?
実は帝国式の魔力炉と他国の魔力炉には大きな違いが有るんだ。
帝国式の場合、パイロットの魔力は一度炉に集められ、そこからそのまま各部位に循環させて機体を動かす仕組みだ。
驚くべきことは、その腕なり脚なりを動かす方法だ。なんと、全身のパーツがそれぞれ魔力で動く魔導具となっていて、ギアだのモーターだのの存在は無く、ただ純粋に魔力で魔術的にパーツを動かすという、それはそれで中々にイカス設計思想なのである。
対して他国の機兵はエーテリンにて動作するエンジン的なパーツが動力源となり、機械的な理屈で各パーを動作させる仕組みだ。
機兵の内部には複雑なパーツがひしめいていて、軽微な破損でも動作不良を引き起こすというデメリットが有り、何より燃料の運搬が必要であるという何よりの足枷があるため、帝国ではもはや時代遅れの旧型という扱いをされていたわけだ。
もっとも、現在その手の機兵に乗っているのはハンター位のもので、同盟軍を始めとした各国の軍機はウロボロス型魔力炉を搭載した新型機兵に変わっているけれどね。
ただし、設計思想は従来のままだ。動力炉こそ、帝国型の物と似通った物になったけれど、機体を動作させるのはあくまでも機械的な設計思想によるものだ。パイロットから送り込まれる魔力は、あくまでも魔力炉を動かすためのものだ。魔力炉は魔力をエネルギーに変換し、それが各パーツを動かす力となるのだ。
わざわざ魔力を別のエネルギーに変えるのは、無駄に見えるだろうし帝国の技術者から言わせれば「古臭い」と言われそう……というか、実際にリン婆ちゃんも『そんだけ立派なのに機械式のままなのかい』と驚いていたけれど、その違いが勝利の鍵となるのだ。
全身を魔力が駆け巡る仕組みの帝国式は、それ故に脆い。何処か一箇所でもマギアディスチャージに侵されるとおしまい。穴が空いたボールのように、そこからじわじわと魔力が放出され、やがて動作不良を起こしてしまうんだ。
我々同盟軍が採用している機体はどうかといえば、腕やら足やらにマギアディスチャージを食らった所でどうということはない。そこを吸われても魔力は出ないのだから。勿論、魔力炉が搭載されている腹部等に当たってしまえば、そこはしっかりと魔力を座れることとなるんだけど、逆に言えばそこを守ってしまえば弱点はないわけだからね。
勿論、誤射に備えて対策済みなのさ。
さて、こんな物が生まれてしまった以上、今後の帝国は国防上大いに不利となるわけだ。マギアディスチャージが頭の悪い連中の手に渡ってしまった場合、騎士達が乗るシュヴァルツは手も足も出ないまま蹂躙されることとなる。
それに、トリバやルナーサ、リーンバイル等の他国に対して、軍事力的に弱い立場になってしまう事も明らかだ。
勿論、四代目皇帝であるナルスレインが治めるシュヴァルツヴァルト帝国も含めた大陸国家同盟は、今回の戦いの後も継続されるわけなので、今後のことはきちんと考えてある。
すべてが終わった後、ナルスレインを皇帝として生まれ変わる帝国に同盟軍で使われている機体達、今ステラとしてジルコニスタ達が搭乗している機体が配備されることが決まっているからね。
だから、婆ちゃんが言う通り、シュヴァルツ達、機兵研究所産の機兵達の時代はもうおしまいだ。魔術型機体にはロマンを感じるし、気の毒に思うけど……今回で退場してもらう。
これで眷属化した騎士達を無力化する手はずは整った。しかし、安心はしていられない。無力化出来るとは言え、相手も無抵抗でこの攻撃を受けてくれるはずはないし、マギアディスチャージが通用しないであろう『眷属』の存在も有るからね。
いくらマギアディスチャージが体内の魔力を吸い出すとは言え、それが有効となるのは機兵のみで、体内で魔力を生み出す魔獣のような存在には効果が薄い。
眷属はルクルァシアから分け与えられた魔力で動いていると推測されている。体内に魔力を生み出す機関がないのであれば、確かにマギアディスチャージは効果的だと思うけれど、奴らは眷属化された騎士達とともに、帝都から長い道なりをしっかりと移動してきているんだ。
つまり、何らかの方法で外部から魔力供給を受けていると考えられ、マギアディスチャージを喰らったとしても、然程効果がないだろうと推測されている。
そもそもスライム的な粘体が機兵の殻を着ているような状態だからね……一筋縄では行かないだろうさ。
これで情報共有は完了。今度はこちらが攻め入る番だ。装備の量産が済み次第、首都へ向かうこととしよう。
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