第四百十五話 会談
各代表からの現況報告がそれぞれ終了した。グレンシャからはグランシャイナー維持施設に関わる報告と依頼……これは里に元々存在していた格納庫やメンテナンス用設備が本格的に再稼働をしたという報告と、それに伴い、今後必要となる物資の納入依頼だった。
グランシャイナーは最終的にグレンシャ村にて保守する予定なので、無論それはそのまま各国に受理された。
続いてリムールからは紅魔石の生産量の報告と、村の規模拡大についての報告があった。
周辺でほそぼそと生き残っていた集落からやってきた旧ボルツ領の人々が合流しに来ているうちはまだ余裕があったけど、噂を聞きつけて他国から新たな仕事を求めてはるばるやってきた人達や、長らく閉ざされていた土地に浪漫を感じた学者達、商機を見出した商人たちなどなど、多数の人々が居住許可を求めて村は中々に大変な状況になっていたのだという。
『治安維持の問題もあっての、村会議で話し合うことにしたんじゃが、防衛隊も人数が増えたことじゃし、取り敢えず試しに受け入れようということになったんじゃ』
そう語るガシューは中々に嬉しそうにしていたので、人口が増えること自体は喜ばしいのだろうね。元のままではどうしようもなかったため、周辺の土地を開拓して街の範囲を広げ、そこに新たな家や施設をどんどん建てているところなんだってさ。
今度行くまでにどれだけ広くなっているのか楽しみだね。
アズからは首都ルナーサの現状報告がされた。ルナーサに潜伏している斥候からの情報によると、国境門の護りが固くなった以外には特に変化はないとのことで、ルナーサ領への再侵攻が近い内に行われるようなことは無いだろうということだった。首都は既に落とされては居るけれど、そこから先の土地までは今の所手を出されていないからね。
一応はサウザンやラウリンに兵を派遣しては居るけれど、本格的に攻め込まれてしまうとちょっと心もとない。もしも、そういう動きが見られたら速やかに追加の戦力を送る必要があるだろうな。
今の所は自国の兵士を眷属化しているだけだけども、これを他国の兵士達にも使い始めたら非常に面倒なことになるからね。その理由は色々あるんだけど、一番大きな理由は、この後に控えたリン婆ちゃんの発表に関係することだったりする。
トリバのレイとリーンバイルのゲンリュウからの報告は、ほとんどがいつもと変わらない内容だったんだけど、トリバからは会談から数日前に重要な情報が先に届けられていたんだ。
それはレイの元に駆けつけたと言う、リオの口から話されたものだったんだけど、中々に驚くべき情報であり、今後の戦いで大いに役立つ内容だったんだ。
何に驚いたかって、あの戦いからまもなくして、隔離していた帝国の騎士達が次々に正気を取り戻していったみたいなんだ。
『彼らは正気を失っていたし、何が起こるかわからなかったからね、申し訳ないと思いつつも牢に入れて経過観察をしていたんだが、翌朝には"まとも”になっていたんだ』
そう、翌朝にはまともになっていたのだという。何か変わったことをしたのかと質問をしてみれば、特に何もしていないという。強いて言えば武装を解除したくらいだが、それは軍の規定によるもので、捕虜にせよ、犯罪者にせよ、牢屋に入れる前に武装解除するのは当然だろう? とのことだが、その通りでございます。
ただ、武装解除したというのが実は重要なポイントだったんだけど……その話についてはこの後に控えているリン婆ちゃんの発表で。
眷属化から開放する鍵を得た事は非常に喜ばしい話だったんだけど、それと同時にうんざりするような報告もされたんだよねえ。
『正気を取り戻した者から順に尋問したのだがね、何故自分がこうして捕らわれて居るのか、どうやってここまで来たのかをしっかりと覚えていたのだよ。ただし、これまでの行動は自身が行ったものではなく、勝手に体が動かされていたと。頭はぼんやりとして履いたけれど、我が身が勝手に動き、したくもない戦闘をさせられていたのだと……』
人を人とも思わぬ兵の運用だ、非人道的にも程があるとリオは激昂していたけど、まったくその通りだ。
眷属化の被害にあっている騎士達は帝国各地を巡ってさらなる眷属を集めていると聞く。中には抵抗する住人と交戦した者もいるんじゃないかな……罪のない自国民を体が勝手に斬り伏せる……そんなケースもあちこちで起きているのかも知れない……。
現在、眷属化から解き放たれた騎士達は、監視付きでは有るけれど悪くはない待遇を受けているとのこと。体調が回復し次第帝国に、と言いたいところだけど、現状を考えるとそうも行かないよね。せっかく回復したのに、捕まってまた眷属にってことも考えられるのだから。
その辺りのあれやこれやはトリバの御偉いさん辺りに任せるとして……。
本日の本題、対眷属戦の秘密兵器について語って貰おう。
さあ、ここからはリン婆ちゃんの時間。
キリンとマシューを始めとして、グランシャイナーに乗り込んでいる技術者達を集めて考え出された作戦、その発表をするんだ。
「改めて自己紹介と行こうかね、私は元帝国軍魔力研究所、所属のリナバール・ラムトレイン、自分で言うのは嫌だが、鋼鉄の魔女の方が通りがいいかも知れないね」
リナばあちゃんが自己紹介を始めた瞬間、アズの背後から息を呑むような音が聞こえた。姿は見えないが、その正体はわかったぞ、ジンめ、そこに隠れていたか!
婆ちゃんは簡単な自己紹介を済ませると、まず対策するべき敵は『眷属』と『眷属化した騎士』の2種類であると言うことを話す。
眷属は乱暴に言ってしまえば人型の魔獣であるため、討伐することについて特に問題はないけれど、眷属化した騎士の場合は話は別だ。リオからの報告で意識を保ったまま操られているという事が判明し、なんとしてでも機体を無力化し、なるべく多くの帝国騎士を眷属化から開放しようという方向で技術者チームは話し合ったそうだ。
そして、その後も第七部隊との連絡を続けていたグランシャイナー研究チームは、眷属化から開放される条件を特定するに至ったのだ。
『眷属化を維持するためには身体に装着された黒い魔石が必要であること』
『その魔石から身が離れるとやがて呪縛から解き放たれ、自我を取り戻す』
この世界はこれでも一応、ファンタジータグがギリギリ許される程度にはファンタジーらしい物が存在する世界である。
何を言いたいかと言うと、見た目で武器と分かりやすい剣や弓等という物の他に、一見そうとは分かりにくい魔導具と言う物が存在している。例えば、指輪にしか見えないものなのに、魔力を込めると火弾を発したり、ペンダントにしか見えないが、ちょっとした物理障壁を展開してみたりと、それはそれは中々にファンタジーな存在なのだ。
勿論、魔法というものが廃れつつあるこの世界において、その手の戦闘用魔導具は廃れつつあるらしいんだけど、それでもまだ作れる人間は存在するし、護身用にと所持しているものだって居るわけです。
当然、偉い人に会う際には、武器とともにアクセサリも外されることになるんだけど、それは勿論、捕虜として拘束された帝国騎士達にだって適応されることとなる。
普通に考えれば、武装解除と言われたら、全身を調べて刃物や銃なんかを奪う程度で済まされるけれど、この世界においてはアクセサリまできちんと外されるわけだ。
眷属化していた騎士達からはペンダントとして装着されていた黒い魔石も没収されることとなり、結果としてそれが眷属化から開放される事に繋がったわけなのです。
これでひとまず、眷属化については一応解決だ。眷属化から開放することが出来る、これは非常に喜ばしいことであり、敵の戦力を大きく削ぐ事にも繋がるわけです。
となると、課題となるのは、眷属化した騎士達に重篤なダメージを与えずに無力化する方法なんだけど、それについては、早くからジルコニスタが考えていた……というか、リン婆ちゃんの所に行ったのがまさにそのためだよね。
魔力炉の開発者であるリン婆ちゃんであれば、それを無力化する方法に心当たりがあるのでは無いかと。結果としてそれは大正解だったね。図面だけ託されかけたけれど、結局こうして同行してくれたし、その上、解決策まで生み出してくれたのだから。
『魔力炉の特性を逆手に取れば無力化することも可能なのさ。炉を止めちまえば機兵なんて直ぐに動かなくなるだろ?』
俺達は泥を使った力任せな無力化作戦を提案したけれど、流石は婆ちゃん、やっぱり賢い人は違うよね。技術と知識を使ったスマートな無力化を提案してくれたんだ。
帝国軍機で使用されている魔力炉の仕様を聞いて驚いたんだけど、炉の心臓部とも言えるパーツは魔力を吸寄せる魔導具が採用されていて、その材料となるのがなんと『吸魔草』という植物なんだ。
そしてその吸魔草というものは、正しくこのファンタジー世界ならではの薬効を持った薬草だったんだ。
『大人になるとね、自然と体から魔力を放出する方法がわかってくるんだけど、子供となるとそうもいかん。まあ、子供のうちは魔力量もそう多くないからね、さほど問題はないんだけど、たまーに子供のうちから魔力量が多い子がいてねえ、そういった子は過剰に魔力を溜め込んでしまって熱を出してしまうんだよ。
酷いときにはそのまま眠るように天に召されてしまうんだけどね……別に不治の病というわけじゃない。吸魔草を染み込ませた人形を抱かせるだけで、たちまち良くなるんだからね』
吸魔草は、加工する事によって周囲の魔力を集める特性を持つらしい。薬師の知識があり、母親が村の子供を治療していたのを見ていたリン婆ちゃんは、ある日、ふとその薬のことを思い出した。
機兵を動かすのには魔力が必要だ。人の体内にもそれがある、という事は、そいつを吸い出して動力源とすれば、エーテリン等使わずとも動くのでは?
その閃きから魔力炉を作ってしまったと言うのだから凄いよね……。薬草からロボの動力源を作ろうだなんて普通は思わないよ。薬草学と機兵学、その両方の知識を身に着けていたからこそ出来たんだろうな。
というわけで、薬草の魔力を吸寄せる特性を利用し、コンソールに触れた手から魔力炉にパイロットの魔力を集めるというのが魔力炉の秘密だったわけなんだけど、私によって微妙な世界にされてしまってはいるけれど、それでもやっぱり剣と魔法のファンタジーな世界なんだなと、しみじみしたよ。
さて、魔力炉の仕組みはそんな具合なんだけれど、そこに干渉して無力化するという魔導具の提案もまた、ファンタジー世界であることをおもださせてくれるような代物なんだ。
『吸魔草を使った子供用の薬はの、飲まずに抱くだけで済むからねえ、子供に与えやすくて良いものなんだけどね、調合にコツがいるため帝国に広まることはなかったんだ。まあ、使っていたのは精々田舎の村くらいのもんだね。
そうなると、街場の子供達はどうしていたのかと気になるだろ? ちゃーんと代替品が存在しているんだよ」
その名も魔力発散剤。これは比較的近年開発された薬らしいんだけど、飲めば立ち所に体内に溜め込んだ魔力を外に発散させてしまうという薬なのだ。魔力を溜め込んでいる子供もこれを飲めばバッチリ回復する。
『ただの、これには重要な欠点がある。生命に関わることじゃあないのでそのまま使われているんだけどね、体内に含まれる魔力……正確に言えば魔素をぜ~んぶ放出してしまうのさ。だから下手をすれば丸一日、魔力が回復するまで寝込むハメになるんだよ』
つまり加減が効かないというわけだ。
そしてこの発散剤を応用したのが今回発表された秘密兵器なのである。
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