第四百十四話 決戦に向けて

◆新機歴121年12月10日19時03分


 非常に満足げな顔をしたリン婆ちゃんとマシュー。疲れた顔のリリイに、うんざりとした顔のジルコニスタと白騎士ステラ達。時間にしてみれば3時間程度だけど、ハンガーでこってりと濃密な時間を過ごした人たちが食堂にやってきた。


 普段グランシャイナーの食事は、朝食が5時~10時、昼食が12時~15時、夕食が17時~24時の間に提供される決まりになっていて、それ以外の時間は事前に申請して作り置きをしておいて貰うか、自炊でなんとかして貰うことになっている。


 最も、シフトで割り振られている宿直が食べる夜食はキチンと用意されるので、イレギュラーな申請はあまりされていないみたいだけどね。


 ……個人的に『小腹がすいた』と自炊する者は多くいるみたいだけど。水や食料は収納のおかげで豊富にストックしてあるけれど、余り適当に食べすぎると、冗談ではなく本当に沖合に出て漁をするハメになるので、そこは理解しておいてほしいところだね。


 そんな具合のグランシャイナー食堂では、普段はみんな自分の予定に合わせてバラバラに食べるわけなんだけど、今日だけは特別。リン婆ちゃんの紹介を兼ねてささやかな歓迎会代わりにみんなで一緒に御飯を食べています。

 

「やたらデカい船だってのは乗る前からわかったけどね、中にあんな立派な格納庫があったり、こんなにだだっ広い食堂まで有るとは驚きだよ」


 そもそも外洋に航海をすることが無いこの大陸において、船というのは魔獣の影響が薄い岸に近いエリアを移動するもので、機兵という存在も有ることから主な流通経路は陸であり、船といえば精々漁船がある程度なのだ。

 

 需要が薄いため、帝国以外の地域では造船技術は長い年月停滞したままで、これほど大きな船が存在しているという時点でびっくりするわけだ。


 そして、船の上で煮炊きをするという事がどんなに危険であるかを技術者である婆ちゃんなら理解している。他に逃げ道がない海の上で火災が発生したらどうなるか? 船と運命を共にするか、生存を賭けて海に飛び込む他はないよね。


 しかし、影響が薄いとは言え、魔獣が生息しているのがこの世界。地球で言えば人を餌と認識をするサメの類がうじゃうじゃいるような海域だ。飛び込むなんて考えたくはないし、そんな事態が起きないよう、船上で火を使うことはご法度。


 船上で火を使った料理が提供されるという状況はありえないわけで。当然、火災についての対策を質問されることになったわけだけれども……。


「ほほう……。火の魔導具のようだが、火精の属性効果は感じられない。ふうむ、それなのに鍋が熱くなると……不思議なもんだが、これなら火の手が上がらず安全……なのかもしれないねえ」


 婆ちゃんの興味は尽きず、食事後に早速厨房を見学させる羽目になってしまった。IH的な調理器具や、電子レンジ的な調理器具の説明を受け、感心するやら首をひねるやら。電気の代わりに魔力が仕事をするこの世界では少々不思議な道具に見えるようだ。


 そんな具合に婆ちゃんの興味が変なところに飛んでいってしまったりはしたが、クルー達ほぼ全員に婆ちゃんの顔見せが出来たので目的は果たせたと言える。当直のため見張りに出ていたクルー達のところには後で別途挨拶に行くことにしよう。


◆新機歴121年12月11日10時00分


 トリバ代表レインズ・ヴィルハート、ルナーサ代表アズベルト・ルン・ルストニア、リーンバイル代表ゲンリュウ・リーンバイル、シュヴァルツヴァルト帝国代表ナルスレイン・シュヴァルツヴァルト。


 そして今回からリムール代表ガシュー・リムとグレンシャ代表アイリ・ヴァイオレットが加わり、随分と賑やかになってしまった首脳会談が始まった。


 リムール代表のガシューは、高齢のため一度は代表を辞退したのだが、周りの後押しもあり暫定的に承諾。


 リムールとグレンシャは厳密に言えば国ではなく、村なんだけど、リムールが属していたボルツは既に存在していないし、グレンシャに至っては昔からずっと国家に属していない独立した土地だったため、この際それぞれを国の代表として扱うことにしたのです。


 リムールがある旧ボルツ領は現行機の建造に必要不可欠な『紅魔石』が多数埋蔵されていて、この大陸の将来のため、重要な土地だ。


 その採掘を管理する組織が各国の同意のもとリムールに置かれたので、今後大いに発展していく事だろうね。ボルツは既に無いから、時が来たら新たな国家を立ち上げる予定なんだけど、その首都は当然リムールになる予定。


 なので、ガシューという存在は決して場違いじゃあないわけなのです。


 グレンシャ村はもう言わずもがな。グランシャイナーの運用に必要不可欠なクルー達が住む村だし、全てが終わればグランシャイナーは村に戻され、そこで管理されることになる。


 グレンシャ村の人たちは、思いっきりこちら側の事情を知る人間なので、当然この場にいるのは相応しいし、むしろ居てくれないと困るまである。


 そしてグランシャイナーからは私、カイザーと戦略サポートAIのスミレ、技術アドバイザーのキリンとリン婆ちゃん。

 

 同盟軍基地から参加しているアズの後ろには、恐らく他のメンバーと共にジンも居ると思うんだけど……リン婆ちゃんの名前を聞いて息を潜めているのだろうな、いつもならカメラに見きれるくらいに後ろで賑やかにしているのに……。


 さて、いよいよ決戦前の……この戦争における最後の首脳会談が始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る