第四百十三話 ハンガーにて

 カイザーのロボ形態を見た瞬間、カチリと入ってしまったらしい、婆ちゃんのスイッチはグランシャイナーを見てより悪い方向に加速し、パイロット達との会話で更にテンションが上昇してしまった。


 そしてそれが今また……。


「なんだいなんだい!? あんたらも妖精様なのかい?」


「はっはっは。面白い御婦人だ。妖精様なのは今の所カイザーとスミレ君だけだな! 私もそのうち妖精デビューしようと思ってるんだがね、まあそれは追々というところだね」


「……何だかよくわからないが、よく喋る機兵だねえ……一体どんな仕組みで喋っているんだい? カイザーには恐れ多くて頼めなかったが、あんたなら平気そうだ。どれ、婆ちゃんに少し中身を見せてくんな」


「おっとっと! 御婦人、私の身体に興味がお有りのようだね。うむうむ、さすがエンジニア! 流石は鋼鉄の魔女と言われたお方だ。シュヴァルツの話を聞かせてもらうんだ、資料の修復が済むまでじっくり話そうじゃないか。こう見えて、私も技術者だからね。きっと良い時間が過ごせるはずさ」


「おおそうかい! あんた面白いねえ。機兵なのに技術者なのかい。妖精様のお告げもあってすっかり恐ろしくなって今まで引きこもってたけどねえ、なんだか今まで眠らされていたかのような気分だよ」


 本当なら、この後艦内を紹介しながらブリッジまで案内する予定だったのに、すっかりキリンとの話に夢中になってしまっている。


 人というのはこうなってしまえばもう動かないのはわかっているので、楽しそうだし取り敢えずキリンに任せて私達は一足先にブリッジに向かうことにした。


「この婆ちゃんが居るなら話は別だ、今日はあたいも参加させてもらうぜ」


 と、普段はあんまりキリンと話したがらないマシューも輪に加わったので、帰りの案内もバッチリなのだ。


 ……キリンと会話のタイマン張るとほんとに疲れるからな。こちらが一つ言えば十の質問が帰ってくる。こちらが一つ質問をすればじっくりねっとり時間をかけて丁寧に答えてくれる。


 技術講師としてはかなり優秀だろうと思うけど、雑談として考えると非常にキツいのです。機械の体なはずなのに、凄まじくカロリーを消費した感覚がするのだからその凄さがわかるでしょう?


 なのでマシューは普段はあまりキリンと話そうとはしないんだけど、その手の話に興味が無いわけじゃあないんだよね。婆ちゃんという緩衝材がある今ならなんとかなると踏み、婆ちゃんから紅き尻尾時代の話を聞きたいのもあって、ホイホイと加わったんだろうね。


『魔力炉についてであれば、参考になる話ができるかも知れない』


 と、ジルコニスタやリリイを始めとしたステラの面々も何人かその場に残った様だけど、最後まで何人が生き残れるか見ものだね。因みにアランは挨拶もそこそこに食堂に駆け込んでいったので、そもそもハンガーには来ていなかったりする。相変わらず自由なやつだ。


 レニーもこの手の話に興味があるんじゃないかと思って、輪に加わらないの? と聞いてみたんだけど、機兵の種類だとか、装備品だとか、そっち方面の話には興味があるけど、内部構造の話となるとついていけなくなるからと、言っていた。


 わかる、わかるよレニー……。

 

 私もロボットアニメの話をするのは好きだけど、あの回の監督が誰で演出が誰で、と始まって『○○さんの回は最高だよね!??のシーン、△△でも使われた手法で……』と、製作者の話まで切り出されるとついて行けなくなったり、ロボット談義は好きだけれども、資料集や小説版等を読み込まなければ理解が及ばない細やかな年表の話となると目が回ってしまったりするからね。


 その手の楽しみ方をする人を否定するつもりはないし、いつか私も語れるようになったらなと言う憧れのようなものはあったので、今となってはそれも出来ずにちょっと悔しいなと思ったり。


 偶然なのか、神様の思し召しなのかはわからないけど、ロボに対するレニーの興味は私と似たベクトルなので、彼女がパイロットで本当に良かったと思う。


 ブリッジに到着し、基地に連絡を入れる。ここまでの行程と現在地、そして現在ハンガーで行われているであろう魔力炉の解析作業について簡単に報告を済ませた。


『ちょっと待て、待ってくれカイザーよ』


 あちらの司令室に来ていたらしいジンが会話に割り込んできた。そう言えば詳しい報告は今はじめてしたんだったな。


『さっきからカイザーが言ってるリン婆とか言う技術者ってよ……もしかして……リナバールとか言うんじゃねえだろうな?』


「そうだよ、リナバール・ラムトレイン。元帝国軍魔力研究所の所長で、その前は何処かのトレジャーハンターギルドに所属していたらしいね?」


『うわー……マッジかぁ……。リナさん……かぁ……』


 ……なんだこれ、ジンが普段出さないような、細々とした頼りない声を出しているぞ。

 あれれ、なんだこれ、面白い予感しかしないんですけど。


「ジン?」


『なあ、リナさん……いや、リナバールさん……リナーバル、リナバールに俺のこと話したりしてねえよな?』


 なんだこれ、なんだこれ! すっごい動揺してるぞ! ジンがここまで動揺するのはあまり無い、うわー、なんだろこのジン、面白いな!


「え……無理でしょ。マシューがいるんだよ? 私が言わなくてもマシューが話すだろうし、そのマシューは今、絶賛リン婆ちゃんと歓談中だよ。同じ紅き尻尾の家族として話したいと婆ちゃんも張り切ってたし、時間の問題でしょ」


『ぐああああ! リナさんが健在なのは嬉しい、嬉しいが……その、あれだ。暫く会ってねえからよ、顔を合わせづれえっつうか。どうか、俺との通信はしないように……』


「それも無理だろうね。婆ちゃん、ジンと話すのも楽しみにしていたし、色々片付いたらそっちに連れてくって約束してるから……遅かれ早かれ……」


『ぐっ……そうかあ……わかったよ……って、カイザーてめえ、俺のことバラしてんじゃねえかよお! ……はあ、しかし、リナさん生きてたかあ……そうかあ、元気なのかあ……』


 どうやらリン婆ちゃんに続いてジンまで過去の扉が開いて、性格が少し変わってしまったようだ。


 ……いや、これはただ単に姉に怯える弟というようなあれか……? 

 何にせよ、ジンの珍しい姿を見られて私は満足だよ。ふふふ。

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