異世界輝神シャインカイザーR

第四百五話 森の魔女

『お仕置きの木』とジルコニスタが呼ぶ大木から１０分程進むと、森が少しだけ拓け、なんとも可愛らしい家が見えてきた。

　石で作られた基礎の上には、漆喰が塗られた白く輝く壁が乗っている。そしてそれを支えるように屋根に向かってバッテンにこげ茶色の板が打ち付けられているばかりか、壁には蔦が生え、屋根には赤いレンガが瓦のように乗っているではないか。

　そして、家の前にはレンガで作られた花壇があり、もう冬だというのに色とりどりの花が咲いていた。

　ファンタジーな世界に転生し、あちらこちらの街を見てきたけれど、ここまで完璧に私（・）が想像していたアレを模した物は無かった。

　私（・）はロボも大好きだが、実はこういうテンプレ的な建物も大好物なのだ！

「これは……素晴らしいな。何処からどう見ても立派な魔女のおうちだ！」

　と、興奮のあまり思わず感想を口から漏らすと、それをしっかりと耳で拾ったらしいレニーとジルコニスタが同時に吹き出した。

「確かに婆ちゃんは森の魔女って呼ばれてるらしいけど、家を見て魔女って！　あはは」

「ふふ、森の魔女なら良いが、決して鋼鉄の魔女と呼ぶなよ？　口にした瞬間、杖で殴られるからな」

　魔女の異名を２つも持つ人物か……。大魔法使いならうちの仲間に１機居るけれど、魔女と会うのは初めてだ。しかし、森の魔女はともかくとして、鋼鉄の魔女とは……。

　一体何をすればそんな異名がつくのだろうな。

　庭先にしゃがみこみ、背中からから２人を降ろしながらワイワイと話していると、こちらに駆け寄る足音が聞こえてきた。

「誰が鋼鉄の魔女じゃ！　その名で呼ぶなと言っとろうが！　こんの馬鹿者めが！」

　間もなくして、ポカリと音が。そして頭を抑えてうずくまるジルコニスタの姿が。

　凄い……！　パイロットとしての腕前だけでは無く、自身の戦闘能力もかなりの物で有ると評判の団長に避ける間を与えず、一瞬で沈めてしまったぞ！

「リン婆ちゃん！」

　杖の先をドシンと地に打ち付け、フンと鼻息ひとつ上げてふんぞり返るは、純白の髪をなびかせる女性の姿。

　彼女には髪色と同じ、白い猫耳と尻尾が生えていて、どうやら猫系獣人（猫族）であるらしいことがわかる。小柄ながらも、見た目以上に高い身体能力は種族特性と言ったところだろうか。

　種族と髪の色的に何処かジンを思わせる小柄な婆ちゃんに嬉しそうに抱きついているのはレニーだ。彼女の身長は１５０ｃｍあるかないか程度と、そこまで大きくないのだが、抱きつかれている婆ちゃんはさらにひとまわり程小さな体をしているため、レニーにすっぽりと覆われている様な状態になっている。

　ああ、レニーに包まれる婆ちゃんを見て何か既視感を覚えると思ったが、なるほどこの婆ちゃんはマシューと同じくらいの身長なんだ。良くマシューも似たように包み込まれてるもんなあ。

「こ、こりゃ！　レニーやめなさい！　潰れてしまうじゃろ！　これ！」

「あははは！　本当にリン婆ちゃんだ！」

「お前らから尋ねてきて本当も何も無いじゃろうに……」

「……元気そうで良かった、母さん」

「ふん、そう簡単にくたばってやるもんかい。こうしてレニーが戻ってきた辺り、何かあるんだろうが……まずは中に入りな、庭先で騒がれちゃ叶わないからね。

　……さて、そこの馬のような機兵は……どうしようかね？　うちには厩舎はなんてものは無いからね、裏の納屋にでも――」

「ああ、気を遣わせてしまってすまないな。こ（・）い（・）つ（・）はその辺りに置いたままで構わない」

「む……？ 馬の機兵がしゃべ……？？」

　突如として言葉を発した馬を見て婆ちゃんが目を白黒とさせている！　まずいな、これは話が進まなくなる流れだ。取りあえず妖精体（ルゥ）に身体を移して自己紹介といこう。

「改めて自己紹介をさせてください。私はカイザー、先程の馬の中身を移した姿がこれで……」

「よ、妖精様が……」

「こっちに居る似たような姿をしたのがスミレです。彼女も一応は機兵で、私達の仲間です」

「お……御二人も……ぬ……ぬう……」

「母さん！」

「婆ちゃん！」

　いけない。馬が喋るよりはマシだろうと思ったけど、老人には刺激が強すぎちゃったようだ。ふわりと腰を抜かし倒れ込んでしまったが……大丈夫だよね？　ショックでそのままってことはないよね？　婆ちゃん、微妙に身体が震えてるようだけど……平気だよね？

「スミレ先生！」　

「メディカルチェック……スキャン中……血圧と心拍数共に急激な上昇をしたようですが、それを原因とした損傷は確認できませんでした。脳も心臓にも影響はありません、端的に言えば肝を冷やして腰を抜かした状態ですね」

「……それは流石に見ればわかるけどさ……なんともないのなら何よりだよ」

「れ、レニー、ルッコ……お前達、一体なにを連れてきたんだい？」

　流石に庭先の立ち話で済ませられるほどシンプルな話題でも無いし、ジルコニスタの用事の事もあるため、リンばあちゃんが最初に提案した通り家の中で話をすることになった　

　ジルコニスタに背負われた婆ちゃんに変わって案内するのはレニーだ。まるで我が家であるかのように、我々をリビングまで案内をする。

　外から見た時点で、もう完璧だったというのに、中もまた、物語にでてくる魔女の家そのものだった。

　上を見れば束ねられた乾燥ハーブたちがいくつも梁からぶら下がっているのが見える。そのハーブは、どれもがとても良い香りを立てていて、目も鼻も嬉しい気持ちにさせてくれる。

　そして、棚を見てみれば、何に使うのかわからない謎の液体が収められた小瓶が沢山並んでいて……！　さらにさらに！　リビングまでの移動中、廊下からちらりと中が見えた小部屋の中にはなにやら大鍋が置いてあって！　これぞまさしく魔女の家！　リン婆ちゃんのアトリエ過ぎるぜ！　なんて、一人静かに興奮してしまった。

　さて、お話をしましょうかという事で、木製の椅子にレニーとジルコニスタ、リン婆ちゃんが座り、私とスミレは婆ちゃんに断りを入れてテーブルの端に腰掛けた。

　すると、それを見た婆ちゃんが椅子から立ち上がり、戸棚をごそごそとしたかと思ったら、そのまま何処かに消え、間もなくして何かを二つ持ってきた。

「それじゃあ座りにくいじゃろう。これを使ってくだされ」

　ニコニコと嬉しげな顔をした婆ちゃんがテーブルの上に小さな椅子とテーブルを置き、さらにはかわいらしいティーセットまで並べていく。

「人形用の家具で申し訳ないんじゃが……」

　そうは言うけど、置かれたその家具達はどれもが精巧に出来ていて、ティーポットにはちゃんと我々様に淹れてきてくれたらしい温かい紅茶まで。

　さらに、いそいそとケーキを小さく切り分けて、小さなお皿に乗せていく。何から何まで気が回る婆ちゃんだ……ああ、これあれだ。孫が来て喜びの余り張り切る婆ちゃんそのものだわ。

　先程まで腰を抜かして動けなくなっていたとは思えない程にキビキビと動き、すでにお菓子でいっぱいになっているテーブルに追加のフルーツを持ってこようとしたところでようやくジルコニスタに止められていた。

「母さん、もう十分だから」

「なにいってんだい！　レニーが来てくれただけじゃなくって、妖精様まで連れてきてくれたんじゃ！　おもてなしをしなくてどうするんだい！」

「いや……先程も言った通り私達は妖精ではなくて……」

「お前さん達が妖精様かどうかは私が決めるんじゃ！　良いから黙っておもてなしさせてくだされ！」

「え、あ、は、はい！」　

　なんともパワフルな婆ちゃんだ……。

　かつてジルコニスタを一晩中森の木に吊り下げたと言う事だったが、なるほどなあ、この強烈な婆ちゃんを見ちゃうと妙に納得をするというか、なんというか……優しさの中に苛烈さがあるというかなんというか……うん、逆らっちゃ駄目なタイプの婆ちゃんだな！

　そして凄まじく豪勢なティータイムがはじまり、それが一段落した頃にジルコニスタの口からこれまでの経緯と今回の来訪の目的が語られた。