第四百三話 帝国へ

「後は全て我々に任せてくれたまえ! なに、そんな顔をするな。そもそも本来ならば我々トリバ防衛軍がやるべき仕事だったのを君達、同盟軍に手伝ってもらったのだ。遠慮はいらないぞ!」


 快活に笑いながらリオが言う。


 私達の目的地はここではなく、帝国領だ。今回捕虜となった67名の帝国兵達は洗脳が解けるまでの間、マーディンの収容所に送られることになったんだけど、先を急ぐ我々に代わり、その役を請け負ってくれるという。


 マーディンの収容所は、そこまで遠い距離ではないから片手間にグランシャイナーで運んでも良いのになって思ったんだけど、スミレ先生とキリン先生から反対されてしまったのだ。


 捕虜を隔離出来るような設備がグランシャイナーに設けられていないという事と、縛ったままそこらに転がしておくと危ないという事と、なによりルクルァシアの影響下にある捕虜達をグランシャイナーに乗せることをキリンが凄く嫌がったんだ。


『私の我が儘みたいなものだが、これだけは勘弁してくれ。僅かでもルクルァシアとのリンクが生きている可能性がある物を艦内に入れるというのはやっぱり許可出来ないのだよ。奴は小狡い所があるからね、何か妙な仕掛けを仕込んでいないとも限らない。

 洗脳されてしまっている彼らには罪は無いのだが、すまないが、頼むよカイザー』


 と言うことで。その意見には確かにそうかもねと、私も納得したので、リオの申し出は凄く有り難く、甘えさせて貰う事にしたのです。


 このままリオ達第七部隊にもルクルゥシア討伐に加わって貰って、今回見られなかった専用機の活躍を見たい所なんだけど、それは流石に無理なんだよね。


 今回は対ルクルァシア軍戦に力を貸して貰ったけど、本来彼女達が担当するお仕事は魔獣討伐。魔獣はいつなんどき現れるか予測不可能だし、魔獣被害はバカに出来ないからね。第七部隊を借りていくのは不味いんだ。


 今回だってたまたま近くにいたから、トカゲ……と彼女は言っていたけど、例の大鰐の討伐が本来彼女達が請け負って居た任務だったんだ。任務で向かう先にたまたまルクルァシア軍が侵攻してきたため、急遽私達と組んでの防衛作戦を行うことになったんだ。


 洗脳された捕虜の件はグランシャイナーの通信機を使ってリオと私からレイの元に伝えられている。数が多いし、状態が状態だし、いつまでも第七部隊に畑違いのことをさせるのも不味いという事で、第四・第五部隊をマーディンまで引き継ぎに寄越してくれるんだってさ。


「我々の役割はあくまでも魔物相手の遊撃だからな。一箇所でじっとしているわけには行かないのだが、引き継ぎが来てくれるようだからな、こっちは何も問題は無いさ。君達は安心して帝国に向かってくれ」


「ああ、リオ達、第七部隊が居るからこそ、我々も安心して戦地に迎えるよ。

 ねえ、……すべて終わったらさ、一度狩りに同行させてもらえないかな?」


「おお、君達が手伝ってくれるなら心強いが……なぜ我々と同行を?」


「君が乗るRIONの活躍を是非この目で見てみたいと思ったんだ。マシュー達から聞く話と実際見るのとでは迫力が違うだろうからね。君が駆るRIONを間近で見てみたいんだよ……恥ずかしい話、私は機兵に目がなくてね……今回はまともな戦いとは言えなかったでしょう? だから、改めての活躍をこの目で見たいと思ったんだ」


「はっはっは。機兵だったり妖精だったりするカイザー殿から『機兵に目がない』なんて言われるのもなんだか不思議な気分になるが、断る理由はないさ。私としても機神であるカイザー殿と共に狩りが出来るなんて夢のようだからな。その日を楽しみにしているよ」


 リオと固く握手を……交わすのはルゥだとサイズ的に無理なので、両手でリオの指を包み込んで握手の代わりとし、別れを告げた。


 グランシャイナーに戻る途中、スミレから『なんだか死亡フラグみたいでしたよ』と物騒なことを言われたのはちょっと悲しかった。これから戦地に向かう、しかもラスボス戦に挑む私になんてことを言うんだよ……。


 神が楽しむための物語を演じるためにこの体をもらえた感がある私だぞ? その物語も終盤なんだぞ? 物語が終わった後にどうなるか……もしかしたらルクルゥシア諸共消滅してさ、大空に私の笑顔が浮かんで、レニー達がそれに敬礼して終わりって感じのエンディグってのもあの神ならやりかねないんだぞ……。


 冗談でも怖いことは言わないでほしいよ……まったく。



◆新機歴121年12月9日11時32分


 ヘビラド半島南側を海岸線沿いに飛行していた我々は進行を一時止め、海上に停泊している。


 というのも、ちょっとした寄り道するためなのだが……。


 現在帝国領内はルクルァシアの支配域と化している。そんな土地を酷く目立つであろうグランシャイナーで堂々と飛び回るのはまずいので、最終決戦のに向けて帝国領内で何か支度をしようと思えば、あまり目立たぬように最小限の構成で向かう必要があるわけだ。


 その寄り道というのが、ジルコニスタから頼まれた『母親の所に寄る』と言うもので、一見すると単なる私用にしか見えないのだが、未だ詳しくは話せないとのことだが、この行動にはなにか重要な事情があるらしいのだ。


 そしてその母親というのは、かつて単身帝国領に飛ばされたレニーが大層世話になった人物だ。当然、ジルコニスタから『母のところに行く』と言う言葉が出れば、それにレニーが反応しないわけが無い。


『えっ? ルッコさん、リンばあちゃんの所に行くんですか? 私も行きたい!』


 と、鋭く興味を示し、私も行きたい、お願いだよカイザーさんと、珍しくダダを捏ねられてしまった。既に決戦に向けての作戦が始まっていて、のんびりと遊んでいられるような状況ではないため、そんな我儘は到底受け入れることは出来ない。


 ……しかし、迅速に目立たず行動するという条件を満たす為には、俺という存在が必要不可欠であり、そうなると当然パイロットであるレニーも同行する事となるため、結果的にレニーも行くことになった。それはそれは大喜びしていたよ……。


 迅速に現地に向かう方法、それは俺の新フォームの変形形態であるペガサスフォームである。アニメ特有の『回によってサイズが変動する』特性というか、『作画の都合』を仕様として実装してしまっているこの世界では、最小サイズが普通の馬サイズで、最大となると中にパイロットが乗り込めるサイズにまで柔軟に大きさを変える事が可能なのだ。


 というわけで、現在の俺は普通の馬サイズのペガサスとなり、その背にレニーとジルコニスタを乗せて居る。レニーの胸ポケットから顔を出すのはスミレと俺の妖精体だ。誰かに見られたら、お人形好きの女の子であると暖かな眼差しを向けられることだろう。


 このサイズであれば飛行しても目立たないし、ルクルゥシア単体であれば気づかれることも無いだろうという甘えなのだが……、神様が変な気を回してあの無駄に気持ちが悪い生体的な要塞まで再現しているのであれば感づかれてしまうかも知れないな。


「天馬に乗る日が来るとは思わなかったが、中々に気持ちが良い物だな!」

「機兵のカイザーさんで飛んでるから慣れてると思ったけど、これは格別だね!」 


 背中から楽しげな声が聞こえてくるため、なんだかピクニックかにかに向かっているような気分になってしまうが、これでも一応任務中なのだ。


 ジルコニスタの祖母の家にて何か重要な物を入手するとのことだが、その『リン婆ちゃん』という人物は、レニーの恩人でもあり、俺の恩人でもあると言える。

 見知らぬ帝国領の森で遭難しかけていたレニーを見つけ、面倒を見て。母だけでは無く、息子のジルコニスタにも、レニーをきちんと俺の元に届けてくれたという恩がある。


 こうして顔を合わせる機会ができたのだ、よければ俺達の元に一時避難をしないかと提案してみるつもりだ。ジルコニスタの身内という事で狙われることがあるかも知れないし、そうじゃなくとも、ルクルァシアがヘビラド半島の住人に何かしでかさないとも限らない。


 グランシャイナーの内部に居れば奴の影響はまず受けることは無い。なので、強制では無いが、提案してみようと思っている。

 

 眼下に広がる晩秋の森は所々が紅葉して綺麗な物だが、赤や黄色に色づいているのは外周部の一部だけで、広大な森の殆どが深い緑色の葉をたたえたままだ。


「そろそろ実家がある土地に近づいていると思う。カイザー、速度を落としてくれないか」

「ああ、了解だ」


 緩やかに速度を落とし、探索モードに入る。さて、噂のリン婆ちゃんとはどんな人なのだろうな。

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