3章 Release
第三百九十話 カイザーやらかす
「こちらカイザー。現在輝力母艦グランシャイナー改に搭乗中。多数のクルー達とともにそちらに向かっている。受け入れ体勢の用意をお願い。到着予定時刻は……うん、明日の朝8時だね」
グレンシャ村を発って直ぐ神の山に連絡を入れた。通信室にはアズが居たようで、要請を聞いて直ぐに承諾を…………してくれると思ったのだが、少し様子がおかしい。
「グランシャイナーと言うのは……ええと、君の言葉からすると……その、この間言っていた船……の事だよね? 受け入れの用意……と言われても、一体どうすれば良いんだい? 海はここからかなり距離があるし、海に拠点を作っているという話しは聞いてないよ」
まずい……これはやらかしたのではないでしょうか。
確かに『そのうちでっかい船でいくからね』とは言っていたけれど、まさかいきなり船に乗って現れるとは思っていないだろうし、そもそも船という物は水場に有る物だ。
天がひっくり返っても神の山のような山間部に現れるようなものじゃあない。
流石にアズでも気を回して受け入れ用意を済ませている――なんて事は不可能だよね……変な悪戯心でサップラーイズ! とかほんとなにやってんだ私は。
……今からでも遅くは……いや、もう遅いけれど、きちんと謝って事情を説明しよう。
「ごめん、アズ。ちゃんと説明してなかったね。あのね、グランシャイナーは空を飛ぶ巨大な帆船で……」
「……えっ? ちょ、ちょっと待って。空を飛ぶ……? 巨大な帆船……?」
「う、うん。だから水場じゃ無くても着陸できるんだ。だから多少拓けた場所さえあれば、陸上にだって……あっ」
「……うん、今の『あ』は気付いた『あ』だね。君達が乗れるような船だ。さぞや大きいのだろうね」
「ああ、とおっても大きいね……」
「基地の周りは森だよね。広大に広がる王家の森があるわけだ。さて、どこに停泊してもらったらいい?」
「えっとその、えへへ……困ったね……?」
「ああ、困るも困る、大弱りだよ……。君達や人員を運べるであろうグランシャイナーがかなりの戦力になるのはわかるし、是非とも受け入れたい。しかし、置き場が無い。森を切り開く許可はレイから直ぐに貰えると思うけれど、さて、その後どうするか。いくら許可が降りても明日の8時までにそれだけの物を停める場所を整備するだなんて無理な話しだよね? カイザー、君に何か妙案はあるのかい?」
これらの会話はブリッジ内にそのまま流れている。呆れた視線を私に送るパイロット達。ため息をつくスミレ。フィアールカは何故か優しく私の肩に手を置き、慰めてくれている。
うう……そうだよ、どうしよう……? 妙案と言われてもどうしようも無い。
と、ここで最高の助っ人から提案が降ってきた。
『はっはっは。お忘れでは無いか、私のことを! たった数日でトンネルを掘り抜いた私のことを! さあ! 頼ってくれたまえ! このキリンに! さあ! さあ!』
キリンと言えばビックリメカだ。なるほど、彼女なら伐採・整地メカの開発・製造も可能かも知れない。
『今、キリンなら……って思っただろう? どれ、私が話を付けよう! 通信先……アズくんと言ったか。彼に繋いでくれたまえ!』
とは言っても、こんなにもやかましくブリッジ内に響いているわけで。当然キリンの声もアズに届いている。
「……キリンだったね。はじめまして。アズベルト・ルン・ルストニアだ。そこにいるミシェルの父であり、ルナーサの総支配人をしている。よろしく頼む」
『ああ! よろしく頼む。私は天才技術者であり、カイザー君達のサポートメカを務めるキリンだ。それで、早速本題に入らせて貰うけれど、私にはグランシャイナーの着陸スペースを作る用意がある。どうだろう、全て私に任せてくれないかね?』
「……こちらでどうすることも出来ない以上、君にお願いするしかないだろうね。しかし、それまでの間、グランシャイナーはどうするんだい? パイロット達以外にも多くの人達が乗っているんだろう?」
『それに関しても合わせて説明をしよう。まずは……』
と、ここからはキリンの独壇場である。ペラペラとしゃべるわしゃべるわ。アズもそれなりにしゃべる方だと思うのだが、終始キリンの勢いに押されていた……後でアズを誘って酒場にでも行こう……。
◆◇◆
翌朝、私達は予定通りの時刻に神の山に到着した。基地前に広がる関係者達が住む町には朝も早いというのに多くの人達が立っていて、皆が驚いた顔をして空を指さしている。
『本当に船だぞ!』
『あんなのまで飛ばすのかよー!』
『ていうか、何処に置く気なんだ?』
地上の音を拾うと、そんな会話が聞こえてくる。何処に置く……か。残念ながらここに停泊させることは出来ない。ではどうするのか? ここから先はキリンが決めたプランに従うしか無い。
まず、グランシャイナーはギリギリの高度まで下降する。
建造物を潰さないよう、気をつけながらギリギリ……高度5mまで下降した。その状態でホバリングしているわけだから、下から見れば中々にスリリングなのだろう。きゃあきゃあと悲鳴が聞こえてくる。
そしてまずはじめにキリンが下に降りた。挨拶もそこそこにしてもらい、続いてケルベロスとフェニックスが共に地上へ。そして、地上に向かうリフトに乗ったクルー達……といっても、全員ではなく、技術者の中から6人、サポートクルーが8人、計14名が先行して神の山基地に降り立った。
先行して下船した人員は、これよりキリンの指示の下、整地メカを建造し、グランシャイナーが停泊できる最低限のスペースを作る重要なミッションに挑むこととなる。我々がいつ神の山に降り立てるかは彼らにかかっているのだった。
そして残された我々はどうするかと言えば……。
「じゃあ、キリン。後は任せたよ! 定時連絡は欠かさないこと! いいね?」
『了解だよカイザー! こちらのことは全て私に任せておいてくれたまえ!』
浮遊したグランシャイナーは再び神の山から飛び立ち、停泊場所へと移動を開始した。
飛べると言っても船なんだし、せっかくだからトリバの港につけようか? と言う意見がレニーから出たのだが、普通の船舶に比べて大きすぎるため、スペースをやたらと取ってしまうのと、悪目立ちしてしまうのが目に見えていたため、申し訳無いがそれはなしにして……。
結果的に大陸の西側、前に元黒騎士の2人が上陸した海の沖合に停泊することにした。
船なのだから海に出たところで問題はない。海棲魔獣の襲撃を受けることもあるだろうが、グランシャイナーにも兵装は有るし、フィアールカやクルーが入ればその扱いも問題ない。それに、俺とヤマタノオロチが居るのだから十分防衛可能だ。
……しかし、張り切って村を出てきた手前、このグダグダっぷりは少々恥ずかしい……。これからは気を引き締めていかないとな。
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