第三百九十話 出立の日

 あっという間にブレイブシャインの休暇は終わり、懐かしき基地に戻る日がやってきた。懐かしいと言っても、出発からたかだか2ヶ月程度しか経過していないわけだけれども、VR訓練をしたのもあってかなり久々に変えるような感覚がするね。


 というわけで、現在我々は神社の広すぎるほど広い広場に着陸しているグランシャイナーの前で多くの村人達に囲まれていた。


 今回グランシャイナーに同乗し神の山基地に向かうのは約50名。グランシャイナーもまたルクルァシア率いるシュヴァルツヴァルト軍の元へ向かうことになるため、戦地へ向かう家族や知人をしっかりと送り出してあげようと集まっているわけである。


 私の役割は全てが終わった後、クルーたちを無事、誰ひとり欠ける事無くこの村に送り届ける事だ。あるものは笑顔で、ある物は涙を流しながら、暫しの別れの時間を過ごすクルー達とその家族を見て改めて固く心に誓った。


 そしてやはりと言うか、当然のごとくレニーの両親もまた娘達と親子の時間を過ごしていた。


「レニーちゃん。貴方が御務めから逃げ、カイザー様に出会えたことは神様が決めた運命なの。そしてフィオラちゃん。貴方がレニーちゃんを心配してここを飛び出したのも勿論運命。なら、二人仲良くにっこり笑ってまたここに帰ってくるのも運命なの」


「お母さん……」

「ん……そうだね」


「そうだぞ、レニーちゃん、フィオラちゃん。グレンシャ村の春祭り、お友達にも見せたいと言っていたよね。カイザー様やスミレ様、そしてフィアールカちゃんと一緒に春祭りを見よう。お父さんと約束してくれるね」


「うん、春祭りまでには絶対に帰ってくるよ」

「その頃になれば美味しい山菜もたくさん取れるしね! 皆喜ぶよ」


「アイリさん、ジーンさん。娘さん達、お借りしていきます」


「いえいえ、こちらこそ娘たちをよろしくおねがいします」

「カイザー様、春祭り楽しみにしていてくださいね。フィアールカちゃんもきっと喜びますよ」


 なんだか嫁をもらうような空気になっているが、それはなんだか私的にはちょっと複雑な気持ちになるな……というかジーンさん、フィアールカも私達と似たような存在だろうに、彼女にだけ態度がちがうというか、娘のように接していると言うか……愛玩動物のような扱いというか……さてはジーン殿、おぬし可愛い物好きだな……。


 それぞれがそれぞれの別れを終え、グランシャイナーに乗り込んでいく。クルー達が全て乗り込み、いよいよ私達も乗り込む時間がやってきた。


 パイロット達はそれぞれの機体に乗り込み、俺もスミレとともにカイザーに戻った。ここのところ、休暇ということで妖精体で居ることが多かったため、なんだか久々の感覚だ。


 ブレイブシャインの機体一同、グランシャイナーの前に並んで村の人達にご挨拶だ。


「グレンシャ村の諸君! 本日という日を迎えられて俺は非常に嬉しく思う! 世界を超え追ってきた我らの宿敵ルクルァシア、それと対等に戦う力を手に入れ、何よりの味方であるグランシャイナーのクルー達を新たな仲間として迎え入れられたのは君達、グレンシャ村の諸君が今日まで代々その力を継いで来てくれたからこそである! 同行するクルー達は勿論の事、彼、彼女らを支え、共に今日まで村と知識を守り通した君達と、その先祖一同に今一度感謝の言葉と、決意の言葉を送りたいと思う」


 先に乗り込んだクルー達にも俺の言葉は届けられている。あまり演説は得意とは言えないが、これが俺の言葉であり、戦いへ向かう前に伝えたい言葉なのだ。


「ありがとう! 友よ! 我らは誰一人欠けること無くこの地に戻る! 俺は持てる力の全てを絞り出し、仲間と共にルクルァシア打倒を果たす! だからその日まで……その日までどうか、我らが帰る場所を守り、待っていてほしい」


 わあ、っと歓声が上がる。それは広場からも、グランシャイナーの機内からも波のように押し寄せる。


「では! 行ってくるぞ! みんな! グレンシャ村の春祭り! 楽しみにしているからな!」


 僚機達と共に敬礼をし、順にグランシャイナーに乗り込んでいく。キリンが乗り、フェニックスが乗り、ヤマタノオロチが乗り……ケルベロスが乗り込んだ。そして最後に俺達もグランシャイナーを向き、脚を踏み出す。


「カイザー、レニー。必ず……必ずまたここに戻ってきましょうね」


「ああ……そうだな。『私』とスミレ、それにフィアールカは悪ガキ共にリベンジをしなくてはいけないからな!」


「ふふ、そうですよ。カイザーさん、お姉ちゃん! 村の悪ガキという強敵が待っているんです。ルクルァシアなんてちょいちょいと捻り潰してきましょう!」


「ああ、そうだな!」

「そうですね」


 そして心の中で改めて『行ってきます』をして、グランシャイナーに乗り込んだ。


 妖精体となり、スミレやパイロット達、フィアールカと共にブリッジに移動する。ブリッジには我々以外にも他のクルー達も揃っていて、我々の姿に気づくと敬礼をしてくれた。


 ブリッジを見渡すと、そこについていたクルー達はみな一様にいい顔をしていた。


 私は満足気にコクリと頷いて発進命令を出す。


『グランシャイナー発進! 目指すは南西、神の山! 舵を取れ!』

『グランシャイナー発進! 進路は南西!』

『ナビゲーションシステムオールグリーン、グランシャイナー発進します!』


 静かにゆっくりと機体が浮き上がり、ぐんぐん高度を上げていく。そして機体は南西を目指し移動を始めた。どんどんと小さくなっていくグレンシャ村。クルー達はいつまでもいつまでもモニタに映る村を見つめていた。


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