幕間 ばっちゃ

◆SIDE:レニー◆


 突然決まった里帰り。父さんに母さん、怒ってるかなあ……なんてちょっぴりドキドキしていたけれど、久しぶりに会った両親は前と変わらず優しくって。


 ハンターとして生きていくのに必死だったし、帰るのも一苦労って事で、帰るに帰れなかったと言うのもあるけれど……もっと早くに顔を見せておいても良かったかな? なんて思ったんだ。


 久しぶりに歩いた村の景色は昔となーんにも変わらない。けれど、村の人達にはちょっとだけ変化があったんだ。

 あーんなにちっこかった悪ガキ共がびっくりするほど大きくなってたり、前々から仲が良いなーって思ってた猟師のゲッコさんと、機織りが得意なマアヤさんが結婚して子供まで産まれてたりして。


 毎日なんも変わらない退屈な村だと思ってたけど、ちょっと距離を置いてみると、凄く変わったように感じるから面白い。


 ……そう言えば、村に戻ってからばっちゃの姿を見ていない。

 父さんも母さんも何も言わないし、フィオラだって特にそう言う話はしてこないから……ばっちゃに何かがあったってことは……多分無いけどさ。


 帰ったらばっちゃにしこたま怒られるかもーって思ってたから……ちょっぴり拍子抜けだよ。


 ばっちゃさ、私がちんまい頃からばっちゃだったからね。一体何歳なのかわからないけれど、もう結構いい年だもんね。もしかしたら、すっかり歩けなくなってたりしてさ、私を追い回すような元気もなくなっているのかも知れないなあ。


 ……それはそれで寂しいな。


 よし、だったらお見舞いに行くくらいしても大丈夫そうだ。私の元気な顔を見せてあげればばっちゃもきっと喜ぶよね? うん、そうだ。父さんも母さんもあんな調子だったし、ばっちゃだってきっと怒ってやしないよ。


 久しぶりにばっちゃの所にいってみるとしますかね。


 ◆◇


 ばっちゃのおうちは実家から歩いて直ぐの所にある。だからこそ、ばっちゃの姿が見えないのはおかしいなって思ってたんだけど……足腰弱ってたらそんな距離でも辛いだろうからねえ。


 ばっちゃは先代巫女長で、お母さんのお母さん。代替わりをした後も教育係として私やフィオラをガッツンガッツン鍛えまくってたパワフルなお婆さんだ。


 ……久々にばっちゃの家に来たけど……この玄関を見ると昔を思い出して手が震えるな。ええい、大丈夫! ばっちゃもあたしも昔とは違うんだから!


 トントンとノックをすると、扉の向こうから『開いてるよお』と、バッチャの声が聞こえてきた。うん、わかってたけど……ちゃんと生きてた、良かった!


「ばっちゃ、私だよー」

「……レニーかい。久しぶりだね、入っておいで……」


 ……なんだか昔よりも大分弱々しい声が返ってきた。なんだかちょっぴり寂しいけれど、ばっちゃも人間なんだ、年を取ったら当たり前に弱っちゃうよね……。


 ゆっくり扉を開き、中に入ると、私が知ってるばっちゃの家が、村から逃げ出す前と何ら変わらないお部屋が見えてちょっと涙ぐんでしまった。


「ばっちゃ、ただいま。顔を見せるのが遅くなってごめんね?」


 ばっちゃが何時も座っているフカフカのソファに向かって声をかけ……あれ? ばっちゃ居ないぞ。さっき確かに声が返ってきたよね……?


 ……ま、まさか……ばっちゃはやっぱりもう……? さっき聞こえたのはばっちゃの……ばっちゃの……。


「姿勢が悪い!」

「ぎにゃっ!?」


 突如として頭部に走る激痛! くっ……! この痛み! あたしは知っている!


「……っつぅ……ば、ばっちゃあ……酷いよぉ……」

「ふん! 直ぐに顔を見せれば正座くらいで許してやろうと思っとったが、今日の今日まで顔を見せないとは偉くなったもんだね」

「ぎ、儀式とか色々あって……急がし――にゃぎょぁっ!?」

「いいわけをしなさんな! 少し長めに滞在していくんだろう? フィオラから聞いてるよ。丁度良い、サボった分の修行、今日明日で片付けて貰うからね!」

「え、そ、そんな! あたしはもう巫女のお役目は――ギェニャッ!」

「うるさいよ。巫女の代わりに使徒になったんだろ! 機神さま、それもカイザー様にお仕えする素晴らしい御役目を授かったんじゃ無いか、巫女の修行よりも厳しい修行をして貰わないといけないね」

「そ、そんなあ……ば、ばっちゃ~」


 こうして……二日ばかりの間、あたしはばっちゃから凄まじく密度が濃い、修行という名のマナー講座みたいのをする羽目になったんだけど……痛かったし、辛かったし、うんざりしたけれど……久々にばっちゃと過ごした時間は何だかとっても楽しかったし、嬉しかった。


 ばっちゃ、戦いが終わったらまた顔を見せに来るからね。

 それまでどうか……いや、ばっちゃならあと50年は軽く元気なままでいそうだね……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る