第三百九十一話 カイザー達は……

張り切ってグレンシャ村を発った我々、ブレイブシャインとグランシャイナーのクルー達であったが……非常に残念なことに神の山にはそれを停泊する場所が存在しなかった。


 いや、存在するわけがない。少し考えればわかるようなことであるのに、一切考慮せず、予め根回しをしていなかった私が、アズやレイへの報告を怠っていた私が全て悪いのです。


 しかし、突如として訪れたそんな危機も、キリン大先生のおかげでなんとかなりそうで……流石はキリンだなと言ったところなのです。


 キリンの性格を考えると、彼女は全て予想していた上で敢えて黙っていたのかも知れなけどね。なんにせよ助かったので良しとしよう!


 今頃向こうではマシューとシグレ、フィオラとラムレット、そしてケルベロスとフェニックスのブレイブシャイン組と、技術備えたクルー達やその補助要員を何人か連れたキリンがせっせとグランシャイナー停泊地の造成に向けて動いている頃でしょう。


 そんな中、グランシャイナーに残った私達がやっていることは……。

 

「よっし!三十……七匹目ッ!」

「やりますわねレニー! こちらも……三十二匹目……! 数では負けてますがサイズでは負けませんわよ!」


 そう、釣りなのでした……。現在我々はグランシャイナー……改、帆船と化したグランシャイナーを海に浮かべ、パイロットとクルー達で釣りをしています。これは決してレジャーではありません! 暇つぶしというわけではないのです!


 遊んでいるようにしか見えないかも知れないけれど、これはれっきとした食料調達任務なのだ。現在基地の食糧事情を支えているのはトリバ国。レイの『メシの事なら俺に任せろ』の一声で食料が供給されていて、とってもありがたいわけなんだけれども、我々ブレイブシャインがグランシャイナーのクルーとしてかなりの人数を連れてきてしまったため、これからは更に国への負担がふえるわけでして。


 だったら少しでもその負担を減らしましょうねえ……というわけで、我々待機組はせっせと釣りに励んでいるのであります。決して遊んでいるわけではなく……あくまでも食料調達の一環なのだ。本当だぞ。


 海洋資源の調達に汗を流しているのはパイロット2名を合わせて15名。大陸西側の海という人がほとんど訪れない場所であるという条件に加え、航海技術が未熟なこの世界の住人達は事故を恐れて沖合に出ようとはしないため、魚がまったくスレていないという好条件が生まれ……。


 更に船内に設けられているメンテナンス施設を使ってフィアールカが作り上げたヤバいスペックの釣具、そしてそれに取り付けられた疑似餌がかなりの効果を発揮して、そいつを投げればバンバン魚がかかる入れ食い状態になっているのだ。


「これだけ景気よく釣られると私もやってみたくなるな……」

「やめておきなさい、カイザー。身体のサイズを考えれば無謀なのはわかるでしょう?」

「……わかってるよ。さっきレニーが釣り上げたカツオみたいな魚なんて私を丸呑みできそうだったしね」

「レニーはよくあんな大きな魚を抜き上げられましたよね……」


 釣り上げられる魚を観察し、データベースに登録しているけれど、やはり何処か地球の魚と違うだけれども、何処か見覚えがある雰囲気がする。カツオのような魚、マグロのような魚、鮭のような魚に、カサゴのような魚も釣り上げられている。


 動物たちほど奇抜な個体はあまり居ないのかも知れないな、なんて思いながらみているけれど、そうしているうちにやはりムズムズと釣りをしたくなってくる。


 生前の私は家族の影響でちょこちょこ釣りをしていたのもあって、成人後もちょいちょい釣りに行っていた。

 幼い頃を思い出してみれば、防波堤でのサビキ釣り、海や湖でのルアー釣りと、餌の虫があまり得意ではない私に気を遣ってなのか、疑似餌を使った釣りが多かったけれど、父のサポートが手厚かったおかげか、いつもそこそこ釣れて楽しかった思い出しか無い。


 なので……学生時代までほどではないけれど、就職後もたまにルアーを投げに行くことはあったので、こう、人が投げているのを見てると良いなあって思っちゃうわけで……でも流石にこの体だと無理だよなあ。


「そんなにやりたかったら試し見てみたらいいの」


 フィアールカがそんな無責任なことを言う。試してみるのは簡単だ。しかし、この体ではどんなに小さな魚が相手でも問答無用で引きずり込まれて餌にされてしまう自信がある。そりゃあ、引きずり込まれたところで本体に戻れば良いわけなので、大事にはならないけれど、この体を失うのはちょっと嫌だ……。


「流石に自分から餌になるような真似はしたくはないよ」


 若干自虐気味に言って断ったのだけれども、フィアールカは譲らない。なにか秘策が有るらしい。


「簡単なことなのよ。その体で負けるなら負けない身体でやればいいの」


「とは言っても……人間サイズの義体なんて持っていないし、そんなものすぐには作れないでしょ」


「何を言ってるの? もうあるでしょう? 立派な立派なカイザーという体が」


「……カイザーで……釣り?」


 似たようなことをやったような気はするけれど、純粋な釣りはしたことがない……はずだ。そもそも、魔獣を狙って釣るというのであれば、まだわからなくはないのだけれども……魔獣をつったところで素材にはなっても食料にはならない。流石にちょっとそれは気持ちだけ頂いておこうとおもったんだけれども……。


「カイザーは馬鹿なの? 地球の高級魚、マグロのサイズを考えてみるの。カジキのサイズを考えてみるの!」


 マグロやカジキはかなり大きくなる。船を脚代わりに、自分よりも大きなそれと力比べをするトローリングはかなりパワーに溢れた釣りとして有名だ。


 釣り上がる獲物のサイズは3mを超えることも有る。フォームチェンジ後のカイザーは大体12m程度の身長だ。それに対して3m……身体の1/4サイズか。単純計算で、160cmの人間であれば40cmだ。40cmともなれば、それなりに達成感が有るサイズだと思う。


 ……ヤバい、絶対楽しいやつだこれ! よ、ようし! 食料調達がんばるぞお!


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