第三百八十六話 降り立って

「だってしょうがないの。レニー達のごはんがとってもおいしかったの」


 地表に降り立ち、村民クルー達による歓迎の宴の中、フィアールカが料理に舌鼓を打ちながらそんな事を言う。


 ここに居るフィアールカは分体。そう、わざわざ急いでこしらえた分体なのだった。


 曰く、レニー達と食べた食事が非常に美味かった。それまでは飾りでついていた設定仕様である食事機能に疑問を感じていたが、それでも作中でちょいちょい食べてはいたし、まあ、それなりに悪くはないと思っていたのだそうな。


 そんなフィアールカなので、異世界でのはじめての食事は尚更興味が薄かった……のだが、そこで出されたのは見知った日本の料理。しかも、アニメ作中で食べたものよりも格段に美味く……フィアールカが言うには――


『なんというの……そうなの! 現実味がある味だったの! これが本当の料理なのね!』


 とのことで。こちらのパイロット達と食べた料理にすっかり感銘を受けてしまったらしい。それに加えてフィアールカの容姿にすっかりやられてしまったミシェル達によりオヤツまでチョイチョイと与えられてしまってすっかり餌付けをされてしまったというわけだ。


 さて、問題はいつそんな暇があったのかという話だが、まあそれは非常にシンプルな話だった。元々素材となるクマの予備パーツは沢山ストックされている。その中でも小型の素体をちょいちょいと弄るくらいは我々の機体改装をする片手間にするには大した問題ではなかったらしい。


『スミレやカイザーの妖精体フェアリーを見て思いついたのよ。私ならここからでも外界の身体にアクセス可能だし、上と下で同時に動くことだって可能なのよ! 私は凄いの!』


 なんとも器用なことで。実のところ、私だってその気になれば真似が出来なくはない。けど、元が人間であり『私』と『俺』が別人格ではなく、同一人格としてややこしい形で混在してしまっているわけなので、下手にそんな真似をすれば『俺』と『私』に分裂してしまう恐れがある。


 それはそれで便利な気もするんだけど、自分が自分と話をするってのはちょっと考えただけでゾっとするし、カイザーになりたくて転生したってのに妖精になってしまったってのは『私』からすれば本末転倒だし『俺』からすれば食事や酒を楽しめなくなるわけなので認められることではないのだ。


 うーん! ややこしい話は終わり! 兎に角、フィアールカは『食事をしたい』その一心で半分ほどにサイズを落とした分体を作り、我々に同行させてしまったのだった。


 さて、現在私達はお祭り二日目、もう完全に普通のお祭りと化した会場で村民達の歓待を受けています。


 我々がお空に飛んでいってしまっている間、外界では巫女長であるレニー母、アイリさんより詳しい説明がされていたらしい。


 そして結局クルーとしてグランシャイナーに乗り込むのは50名の村民達。アイリさんとレニー父、ジーンさんは非常に残念そうな顔で『我々は……同行できないのです……』と言っていた。


 レニーの両親には別の仕事、グレンシャ村を護るという大切な役割があったのだった。


 この世界の人々は機兵を製造できるとはいえ、異世界の技術を全て理解し、弄れるというわけではない。彼らがいじっているのはあくまで我々の劣化コピー品であり、それそのものではないのだ。


 我々の機体のことなら自動修復機能が有るため、ある程度の破損はなんとかなるのだが、グランシャイナーやオプション装備などにはその機能が実装されていない。つまりは修理をする場所が必要となるわけだ。


 人員的な話で言えば、ポーラに常駐しているクマ達とキリンだ。しかし、クマたちに直してもらうためにはいちいち宇宙まで飛ぶ必要があるし、グランシャイナーのような巨体を直すドック的な場所が存在しないポーラでメンテナンスをするのはちょっと難がある。


 ではどうするかと言えば……聖典と伝承という形で引き継がれてきた技術を利用する。そう、このグレンシャ村の住人達はその半数がグランシャイナーのクルー達、直系の末裔であり、いつか訪れるときのためにクルーとしてのスキル、言ってしまえばメンテナンススキルなどもきちんと伝えられていたのだ。


 そのメンテナンスドックこそがレニー達の実家である神社……としか言いようがない場所であり、現在グランシャイナーが停泊している神社の広場もそれに含まれているのだった。


 見た目的には天井もない屋外なのだが、実は謎パワーで動くバリアが存在し、雨が降ろうと雪が降ろうと敵の攻撃が降り注ごうと神社周辺はその全てから護られるのだという。


 巨大な蔵にしか見えないハンガーが有るのも同じ理由だ。自動修復が通用しないレベルの破損が発生した際にも対応できるように用意されているのだという。


 バリアの開閉を始めとしたこの施設の使用権限はレニーの母親、アイリさんに与えられている。


 そのため、両親はこの神社にしか見えないメンテナンスドックに詰め、言ってしまえば基地司令官代理の様な事をする必要があるのだ。

 我々の機体やグランシャイナーに何か有れば修理の指示を出したり、問い合わせがあれば聖典の情報を元にアドバイスをしたり……なんだりかんだりと……今後はグレンシャ村基地の代表としての仕事があるようで、ここから離れることが出来ないというわけなのだった。


「はあ、そんなわけでお母さんたちはついていけないのよー……ね、お願いだから2日でいいの。2日だけ、ゆっくりしていってね?」


「頼む! 私からも頼む! カイザー様! どうか! レニーちゃんとフィオラちゃんに2日ばかりの休暇をお与えください!」


 そんなわけで、こうして巫女長と神主から頭を下げられるという非常に酷い絵面になっているわけなのですが……ううん、いやまあいいんじゃないでしょうか。空から下を監視してるフィアールカもいいって言ってるしね。


 忙しい日々が続いたし、少しくらい休息をとっても誰も文句など言えないさ。

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