第三百八十五話 帰還
慌ただしく宇宙に飛ばされてから一夜が明けた。バタバタと濃密な1日だったはずなのだけれども、VR訓練で時間を引き延ばされたのが逆に良い方向に働き、パイロット達に疲れは残っていないようだった。
精神的な疲れは兎も角、肉体的には疲れると思うのだけれども、それはやはり若さというヤツなのかな……。私からは年齢に対する拘りという物は消えている……というか、生物を超越した年齢になっているというか、そもそも生物かどうか怪しい存在なので、それに対して何か思うところがあるわけではない。
ただちょっぴり、若いって良いなあって思っただけ。
ゆっくりと目覚めたパイロット達はフィアールカと共に穏やかに朝食を摂り、お別れの時間となりました。
「私は空から見守っているから……辛くなったら空を見て私を思い出すのよ」
「なんだよその、死ぬ間際っぽいセリフは」
「間違っては居ないのが腹立たしいですね……」
手伝いに来ていたクマロボと共にぺこりとお辞儀をしたフィアールカはゾロゾロとポーラに帰って行ってしまった。ちょっぴり寂しく思うけれど、これからは通信端末を通じて彼女とも連絡が取れる。キリンに頼めば神の山にある基地の設備もアップデート可能だろうから、今後は何かと捗るようになりそうだね。
フィアールカを見送った私達は地上に戻るべくブリッジに集まった。パイロット達はちょっぴり寂しそうな顔をしている。短い時間だったとはいえ、見た目的にもキャラ的にもかなり濃い存在感を放っていたフィアールカ。ミシェルやラムレット、そしてシグレは特にしょんぼりと落ち込んでいるようだった。
『さあ、みんな出発なのよ! こちらからサポートするから大船に乗ったつもりで居ると良いの!』
「このタイミングで出てくるんじゃないよお前は……」
色々とぶち壊しなクマなのだった。
なんだか微妙な空気になってしまったが、滞りなく帰還シークエンスは進行し、地表に向けての降下が始まった。念のために地表の様子を探っているが、ルクルァシアが何かするような気配は感じられない。こちらが何かやっているのに気付いていても、まだ何か対策をする余裕が無いのかも知れないな。
油断して良い話しでは無いけど、あちらもあちらで戦力増強中ってとこだろうしね。
フィアールカのナビとグランシャイナーのシステムに接続したキリンの操縦で機体は特に危なげなく、グレンシャ村に向かい降下している。地表から見たら星が降ってきているように見えるだろうな……各地で妙な騒ぎにならなければ良いのだけれども。
と、ブリッジのモニタに着信通知が表示された。発信元は……グレンシャ村だ。今更あの村について驚くことはない。私達が通された倉の中はどう見ても格納庫だったし、レニーの実家に通信室があってもおかしくは無いからね……。
通話許可を出すと、案の定……いや映像付きかよ! ちょっとそれはビックリしたぞ。いやまあ、地球から来たクルー達が設置したんだろうけれどもさ、そんな物まであの村にあったとはね……。
……モニタの向こう側ではレニーの母親、アイリさんがニコニコと手を振っていた。
『やっほー。レニーちゃん! フィオラちゃん! ブレイブシャインのみなさーん』
「「お母さん……」」
軽い……。軽いノリの母親とそれを見てぐったりと疲れた顔をするヴァイオレット姉妹。あれだよね、参観日に来た母親がやたら目立つ行動をして恥ずかしい! みたいなそう言うアレだろう? わかる、わかるぞ。私もなんだか見て居てちょっといたたまれない。
『ごほん。まずは皆様、試練達成おめでとうございます、そしてお疲れ様でした。天に光る流星がこちらからも見えます。その綺羅星こそ、貴方たちが乗るグランシャイナーなのでしょう』
「カイザーです。ええ、お察しの通り我々は現在グレンシャ村を目指し降下中です。突然天に飛ばされ驚きましたが、何事も無く任務は達成出来ました」
『それはそれは。ふふ、お父さんね、レニーちゃんとフィオラちゃんがとんでっちゃった! って大騒ぎだったのよ-』
「お、お母さん! だからそう言うことは皆の前で言わないでよ!」
「そうだよそうだよ! もー、恥ずかしい……!」
ミシェルは顔を横に向けて小刻みに震えているし、マシューとラムレットは遠慮無く腹を抱えて笑っているし……シグレはなんだこれ、同類の母親を持っているためか我が身のように顔を紅くして俯いているな……。
どれ、私が話しの流れを変えて少しでも二人の気分を回復させてやろう……。
「ごほん。詳しい報告はもう少ししたら、地表に帰ったらしようと思いますが、我々の身体……機体も全て一新され、かなりの強化が成されました。見た目が変わっていますので驚かないで頂ければと」
『あらあら! 私達もそこまでは知らなかったわ。天上でそんな事が起こっていたのねえ。それもたった一晩で? ううん、ご先祖様達の作ったお船は凄いのねえ。レニーちゃんとフィオラちゃんも生まれ変わっておとなになってたり……しないかしら?』
通信室に一人で居るせいなのか、もう巫女長として話すのを辞めたのかはわからないが、私に対しても砕けて話すようになったな……。すまないレニー、フィオラ。私には空気を変えることは出来なかったよ……。
なんて思って居たら、予期せぬ方向から空気を変える一言が降ってきた。
「ちがうの! 黒森重工のスタッフが凄いのは認めるけど、一晩どころか数時間で仕上げたのは私と私の優秀なクマ達の力なのよ!」
ぴょいーんと擬音が聞えるかのような軽やかな跳躍でミシェルの膝の上に飛び降りた子グマが1匹。
「「「「フィアールカ!?」」」」
「フィアールカ!? 君は……確かに皆と帰ったよね……? 手を振りながらゾロゾロとポーラに向かって歩いていったじゃん……」
「待って下さいカイザーさん。よく見て下さいな、このフィアールカ……小さいですわよ……!」
嬉しそうな顔をしたミシェルに抱かれているフィアールカ……確かによく見れば……いや、よく見なくてもとても小さい……。
『あらあらあら! なあに! その可愛いクマさんは!』
レニー達の母親もすっかりフィアールカに目を奪われている。というか、一体何がどうなってこうなって……ああもうだめだ、頭がグチャグチャだよ。
まったく、次から次へと忙しい展開ばかりだな……!
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