第三百八十四話 訓練も終わり
合体した我々は無敵だ……。
陳腐ではあるが、そう言いたくなるほどにキリンナックル(と、呼ぶとキリンがとても嫌がる)の攻撃力は我が身ながら恐ろしい物だった。
的……もとい、訓練相手として用意されたのはスミレカイザーとして戦ったルクルァシアの眷属達だったのだが、敵では無いというレベルではなく、もはや相手としてみるのすら気の毒に感じるレベルであった。
キリンナックルの凄まじいところは、そのまま近接格闘武器として使用しても高威力のダメージを与えられるのに加えて、遠距離武器――いわゆるロケットパンチ的な武器として使えるという所にもある。これはリックとともに作ったナックルも似たような仕様であったが、これには更にその先を行く驚くべきギミックが隠されていたのである。
フィオラとラムレットがわざわざシャインカイザーのコクピットルームにその身を移す理由、それがそこにあった。なんと左右の拳は、それぞれフィオラとラムレットが遠隔操作する事が可能だったのだ。
パイロットが乗った状態でそれをしてしまえば、色々な人に多方面から怒られると言う問題が発生するのだろうが、安全な位置から遠隔操作をするとなればそれを避けることが出来る。
なんとなく大人の事情という物を感じる仕様ではあったが、あれだけの攻撃力を持つ飛び道具を遠隔操作できるというのは中々にヤバイ。
しかもだ。主人公補正と言ってしまうと身も蓋もないが、やたらめったら頑丈なのである。我が身を犠牲として敵を落とすというのはナンセンスだといわんばかりに我が身だけは護りつつ敵を落とすのだ。キリン曰く、一応何らかのフィールドというかバリアが展開されているためこちらのダメージは薄いのだという事なのだが、敢えて俺は言わせて貰う。それは確実に主人公補正だと。
アニメという枠組みから外れたこの世界に置いても神の加護を受けているといってもいい我々には主人公補正と同等の加護がもたらされていると思うのだ。それを考えればキリンナックルの頑丈さというか、敵を倒してもその身は無事であるという矛盾も頷きたくは無いが、頷けてしまう。
そしてとうとう訓練の終わりを告げるフィアールカのアナウンスが聞えてしまう。結局、真に隠されたキリンの能力という物は明かされることは無かった。これは彼女なりになにか矜持があるのだろう。正論を言ってしまえば全てを明かして貰った上で決戦に備えたいとは思うのだが……。
俺の中のロボットアニメファンが『熱く盛り上げるために明かさないというならそれを待ってやろうじゃ無いか』と囁くのだから仕方が無い。ああ、そうさ。それはそれ、これはこれだ。仲間達が危険な目に遭うのはまっぴらごめんだが、それはそれとして熱い展開は味わいたいからな。
許してくれ皆。それもこれも……俺のロボットアニメ愛が悪いのだから……。
◆◇
「お疲れ様なの! さあさ、みんなゆっくり休むのよ!」
VR空間から戻った我々を迎えてくれたのは紫色のクマ―フィアールカだった。我々からすればもうかれこれ2週間はどっぷり訓練をしたような感覚なのだが、実際には6時間しか経っていないらしい。そこまで無茶をすればかなり体に悪いのでは無かろうかと思うのだが、フィアールカやキリンがきちんと調節をしたので大丈夫なのだという。
まあ、彼女達が言うことを信じておくか。
レニーの母親達が心配しているだろうから早く戻ろうと提案すると、大丈夫であるとフィアールカに言われてしまった。
「下のクルー達……げんみつに言えば子孫達なんだっけ。まあいいの。みんなには明日帰ると連絡しておいたから大丈夫なの。ポーラはあの子達に任せてあるから、私もグランシャイナーで皆の様子を見るのよ。さあ、食堂に行きましょう? おなかぺこぺこなのよ」
6時間もの間、我々の機体を改修したりパイロット達のバイタルチェックをしたりしていたのだろうから腹も減るだろうな。 ……例え、原則食事の必要が無いロボ的な何かだという事はこの際忘れておいてやろう。
そんなわけで、私もカイザーから降りて『ルゥ』となり、ふよふよと食堂に移動した。今日のメニューはクリームシチューとパンだ。クリームシチューは私がパイロット達にそれらしくなりそうなレシピを教え、地球の味を再現させた物なんだけど、思った以上に上出来で今では私達の定番メニューになっている。
「なあにこれ! このしちゅー、とってもおいしいの!」
クマのぬいぐるみが口の周りをシチューでベタベタにしながら興奮している。そうだろうそうだろう。シチューはジャスティスだからね。しかたないね。
私が
そんなノンビリとした時間はあっという間に過ぎていきまして。食事が終わった後は
逆に言えば1日という短い時間であんなにも濃密な訓練が出来たのだと言えるんだけどさ……。
地上に帰ったらそれはそれでお祭り騒ぎが待ってるだろうし、グランシャイナーのクルーと神の山のみんなを会わせたいというのもあるし、中々に濃密で忙しい日々が訪れちゃうな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます