第三百八十二話 明かされるキリンの秘密

 合体した私達の説明は一通り聞いた。シャインカイザーがそのままパワーアップした感じでは無く、大幅に重装備になっているのが中々に私好みで大いに興奮してしまった……。


 いやだって武器ラックも凄まじいし、腰についたフォトンキャノンもごっついし、さらに両肩にまでキャノンが装備されているんだよ? それでいて恐ろしいのがさ、翼が2対搭載されているお陰で、それでも機動力は高い、つまりは重装備にありがちな機動力へのマイナス補正が無いわけですよ。


 もしも某ロボット大集合的なシミュレーションゲームに参戦したとしたら、高火力長射程の武器を備えた上に移動力もめちゃくちゃあって更に精神コマンドが最低でも4、下手をすれば私やスミレ、各AIの分で9つは使えてしまうことになるわけで。いやあ、我ながら酷いぶっこわれ機体ですよ。


『さて、いよいよ満を持して私の力を明らかにするときが来てしまったんだがねえ? 今ここで明らかにするのはキリンの隠された力その1にとどめておこうと思うのだよ』


「ほう、その心は?」


『いざという時に見せた方が盛り上がるからに決まってるだろう』


「理解したくは無いが、痛いほどわかる、わかってしまう……! まあ、困るような事にならないのであればそれでいいのだが……その辺はくれぐれも頼むよ」


 どうせキリンは『こんな事もあろうかと!』的なヤツをやりたいのだろう。いや、もしかすれば口では茶化しておいて本心はまた別の所……いきなり全ての力を使おうと思えば重大な失敗をしてしまうとか、少しずつ覚えるべきであるとか、そう言う教訓じみたことを敢えて言わずに済ませようと言うところにあるのかも知れないが。


『さて、ルゥ君。カイザーに戻る前に外から見て客観的な意見を聞かせてくれないかね』


「客観的な意見とな」


『うむ、正直に言ってこのアルティメットフォームはとても格好いいと思うのだよ。無論、君だってそう思っていることだろう。元のシャインカイザーも素晴らしかったが、無駄とも思えるレベルで高火力・高機動仕様になったこの機体は各部位もまた大型化し、スペックだけでは無く見た目的にもかなりの迫力があるわけだよ』


「そうだね。キャノン砲を支えるためなのか肩や胸部はかなりがっしりとしているし、脚部だって太くがっしりとしている。新たに追加された脚部スラスターや腰のキャノン砲を支えるためにそうなっているのだろうな」


『うむうむ。ざっくりとした意見ではあるが、概ねよく見ていると言えるよ。さて、ここまで来ると気付かないかい? 肩や脚に比べると……どうも寂しい部分……そう、腕から手にかけてのパーツの頼りなさに……』


「そう言われて見れば……武器ラックや腰のキャノン砲に目が行くので気付きにくいが、確かに腕は少し頼りなく見える……まさか! キリンが腕パーツに……? いや、でもキリン、君は『君達とは合体できない、4体合体のままなんだよ』と言っていたじゃ無いか」


『ああそうさ。でも言っただろう? 『共に力を奮えないとは言っていない』と。ふふ、私もまあ、意地悪な事を言ったけれど誤りではないんだ。私が……いや、私達、フィオラ君やラムレット君が皆と共に戦うためには先に君達が合体している必要があるのだよ』


 ……むむ! なんだか少し展開が読めてきたな。合体メカが複数存在する作品でよく見るパターンだったりするのだが、もしかしたらそれに近い理屈でアレをやってしまうというのだろうか。


『取りあえずは一度試してみよう。なあに一回やれば納得して貰えるだろうさ』


「なんだかわからんが、面白そうな予感がするな!」

「ふふ、マシュー尻尾が揺れてるでござるよ」


「ねえ! フィオラ! あなたもしかしてどうなるか知ってたりするの!?」

「ふふーん。お姉には内緒だよ-」


「ああ、楽しみで楽しみで仕方が無いですわ! これ以上なにが起きてしまうのでしょう」

「フィオラはああ言ってるけど、実はアタイ達も話しか聞いてないからね。楽しみなのは一緒だよ」


 パイロット達がわいわいと話しながらそれぞれの機体……フィオラとラムレット以外は同じ機体だが、それに戻っていく。俺も当然の如く、カイザーにもどるとスミレがニヤニヤとした表情を浮かべて待ち構えていた。


「ふふ、カイザーのはしゃぎようと言ったら凄かったですね。思わず録画してしまいました」

「やめてくれよな……」


 乗り込んだパイロット達は皆ウキウキとして落ち着きが無い。恐らく本来であればもう少し引き締まった場面で満を持して明かされるキリンの秘密なのだろうが、うちの娘達は皆アニメのシャインカイザーにハマってしまっているため、どことなく客観的にわくわくとしてしまっているのだ。


 まあ、ここはVR空間内であるわけだから、危険なことは一切無い。このような場所で落ち着いて練習できるのは非常に幸運だな。


 キリン達も用意が出来たようで、向こうから通信が入った。


『ふふ、そちらから届く賑やかな声に私達も嬉しさを隠しきれないよ! では行くよ! ああ、済まないが今から送信するセリフを頼むよ。途中からは私が引き継がせて貰うがね』


 と、間もなくアルティメットフォームへの変形時と同様に『セリフ』が送信されてきた。まあ、これも例によって言わなくても平気な物ではあるのだが、気分的にな!


 とは言えセリフである程度予測できてしまうのが悲しい……まあ、俺も概ね予想していたし、大体その通りでニヤリとしてしまったのは事実なのだが。


「では……ゆくぞ! キリン!」

『ああ! カイザー! もちろんだとも!』


「キリン CODE:ANGRY 申請!」

『CODE:ANGRY承諾。内なる怒り……見せてあげよう……フィオラ君、ラムレット君……備えたまえ』

『『キリン! MODE:Wrath ! 発動!』』


 練習したのだろうな……。フィオラとラムレットの辿々しい英語発音が聞えてくる……が、中々良いぞ! こう言うのは恥ずかしいと思ったら負けだ! 堂々と言い切ってこそなのだ。


 そして……キリンの変形が始まり……想像通り、機体が2つに分離をした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る