第三百七十七話 キリンレポート2

◆SIDE:キリン◆


 ミシェル君が操るウロボロスは刀を巧みに操る剣士タイプだ。しかし、前任者である雫君は部活で扱いに慣れている薙刀をオーダーし、それを好んで使っていたのを覚えている。偶然な事に、ミシェル君も練習機では槍を装備していたらしいのだが、ウロボロスに乗るようになった今では刀メインの運用になっている。

 なんでも、ウロボロスに搭乗し始めた頃に行った実施訓練で刀の方に適正があると判明し、そちらに乗り換えたとの事だったが、惜しいことをしたな。もしもそのまま槍の鍛錬を続けていれば、ウロボロスはもっと適切な運用ができていただろうに。


 いや……その考え方はもう古い、そうだ、ガチガチに凝り固まった教科書通りの考え方はあちらの世界に置いておこうじゃないか。


 正道では無く、邪道。しかし、非常に愉快で痛快な作戦で多くの任務を乗り越え、強くなって来たのが私達の新たな仲間達、ブレイブシャインのメンバーだ。彼女達は前任のパイロット達とはまた違った強さを持っていて実に興味深い。


 こちらのカイザーもまた、非常にユニークな存在で興味深くあるけれど、パイロット達もそれには負けていない。


 さて、ミシェル君が乗るウロボロスの弱点だが、やはり決定力不足な点がちらほらと見られるところか。ミシェル君が駆るウロボロスは実に良い動きをしていて、VRでの戦闘訓練では実のところ、換装前であっても惜しいところまで行けていたんだ。

 

 データベースにない刀の代わりに装備をしたのはナギナタだったのだけれども、流石は経験者、刀程のパフォーマンスは出せていなかったが、それでも危なげなく使用できていたからね。彼女は結構な天才肌だと思うよ。


 そんなミシェル君が操るウロボロスの相手は敵幹部リムワースが乗込むシャーシルだ。この機体のいやらしい所はサブアームの存在だ。通常時は2本腕の剣士タイプの機体に見えるのだが、ピンチになるとさり気なく腕を2本増やし、2刀流から4刀流へと戦法を変えてくるのだ。


 それでもミシェル君は機動力を活かした立ち回りでその剣速についていけてはいたのだが……そうは言ってもこちら側からの攻撃はすべて防がれてしまうわけで。


 もしも高威力の攻撃方法をもっていたならば、それでも打開できたと思う。


 レニー君やマシュー君たちのような窮地には陥らなかったが、攻撃が通用しない以上、やはりジリジリと消耗させられていたね。


 しかし彼女は諦めなかった。聡いミシェル君はこの試練を通じて我が身に足りない物を、ウロボロスに足りない何かを補う装備を得られるのだと理解していたようで、攻撃が通じないと判断したのか攻撃の手を止め、大きく距離を取ったのだ。


 ああ、そう言えば雫君も中々に聡い子だったね。ウロボロスという賢き機体はそういうパイロットを引き寄せるのかもしれないねえ。


 そして間もなく、ミシェル君のもとにも『おやっさん』の声が届いた。ミシェル君が落ち着いた表情でそれを受け入れていたのがちょっと残念。もう少しびっくりした顔をしてほしかったね。


 しかし、新機体はかなり以外な姿だったようで、そこで驚き顔を頂けたがね。


『なん、なんですの? 背中から……腕……いえ、これは砲台……? 沢山のこれは一体……』


『これは……言ってしまえば頭だね。僕らの新たな名前、さっきおやっさんが言ってた名前は"ヤマタノオロチ" 8つの頭を持つ巨大な蛇だよ』


『ウロボロスから6つ頭が増えた形になるけど、安心してねミシェル。AIは私達だけで、6体増えたわけではないから』


『へ、蛇になってしまいましたのー!?』

『だ、大丈夫だからミシェル……』

『そ、そうよ……変形した姿もそこまで……気持ち悪くないから……ね?……多分』

『うう……前のドラゴンは可愛くて好きでしたのに……』

  

 そう。新たな姿はヤマタノオロチ。ミシェル君は少々嫌そうにしているが、なかなか強い機体なのだよ。

 背中から生えている自在に動く6つのアームはケルベロス同様にフォトンランチャーの砲台になっている。ただし、ケルベロスのものより出力が抑えられているけどね。


 何故出力が抑えられているかと言えば、それは勿論数が多いからだね。流石にケルベロスと同等の出力を持つ砲台を6門も設けてしまえば、輝力炉が悲鳴を上げるってもんじゃないからねえ。私みたいに炉を複数搭載すればまた話は別なのだろうが……。


 いやしかしだよ。その分軽快に取り回せるこれはこれで様々な使い方ができるのだよ。自在に動く6つのサブアーム――砲台。これはパイロットのセンス次第でかなり幅広い戦略を取ることができるんだ。


 ミシェル君はまず広範囲に拡散させる使い方をしてみせた。6方向に放たれる光弾は、広い範囲に弾幕を展開し、それがまた次々と放たれるものだからシャーシルの行動範囲はどんどん制限されていった。ああ、嫌な攻撃だよあれは。何しろ、わかっていながらも逃げる方向を誘導されてしまうのだからね。


 先に述べたとおり、この光弾は威力が低いため、当たったところで致命傷にはならない。それに気づいたシャーシルは数発の被弾は諦めるとばかりに、強引に距離を詰めようと機体を動かしたのだが……それは愚策。


 ミシェル君はそれを好機とばかりに砲台を収束させ……同時に光弾を放った。

 単体ならば低威力の光弾も、ああやって束ねることによって、火力がかなり上昇する。


 それはケルベロスのフォトンランチャーにも匹敵する程の高威力だ、勿論その一撃を持って勝利をおさめることに成功したのだ。


 中々にトリッキーな運用が可能となるこの砲台だが、残念なことにカイザーと合体時には砲台ではない別の役割を果たすことになる。ケルベロスにも言えることだが、これらを運用する際、理想的な装着箇所はやはり背中になるわけだが……合体したカイザーは背中にフライトユニットが装着されるため、どうしても干渉が避けられないわけだ。


 なので、合体した際には背中から別の場所に移り、同じく別の役割を果たすことになるのだが……ああ、懐かしいな。黒森重工のエンジニア達が毎晩喧嘩をしながら設計していたのを思い出すよ。

 当時、私はまだ体を持たない、ただののAIだったのだがね、彼らの助手として研究所で働いていたのさ。そう、彼ら研究員達とは、まるでカイザーとスミレ君の様な関係だったよ。


 それがまさか機体からだを手に入れ、パイロットともに世界を救うとは思わなかったし、終わってしまったはずのシナリオにおかわりが、異世界でもう一度奴と戦うことになるとは夢にも思わなかったよ。


 ああ、私はAIだから夢を見ることはないだがね……と、余計なことまで記録されてしまうね。またスミレやカイザーから小言を言われてしまう。気をつけないと。

 

 さて、ウロボロスからヤマタノオロチに。洋から和に変わったのがミシェル君達だけれども、ヤタガラスはその逆……と言って良いのかはわからないが、彼女もまた大きく姿を変えることになった。


 ヤタガラスの場合は弱点を補うと言うよりも、その特性を更に強化する方向で新機体への進化が行われた。訓練相手として選ばれたのはカイザー同様バラメシオン。手抜きではないぞ。純粋にヤタガラスの相手としてふさわしかったのがバラメシオンだっただけなのだからね。


 見事な空中戦を見せてくれたヤタガラスとバラメシオンだったが、やはり出力差は大きく、飛行形態での攻撃ではダメージがろくに通らない。かと言ってロボ形態で戦おうとすると、飛行形態より圧倒的に飛行速度が落ちてしまうため、シグレはそれを選ばなかった。


 事実、その選択は正解である。ヤタガラスの後継機体はロボ形態よりも飛行形態に特化した機体だからね。空で悩むシグレ君のもとに『おやっさん』からの激が飛ぶ。


『こぉらてめえ! 迅! まーたサボってやがるな! ヤタガラス、おめえもだ! ったく、ちんたら飛んでるんじゃねえよ! んな暇ねえ程、速く熱くしてやったからな! しっかり暴れてきやがれ! おら、行くぞお! 受け取れぇ!MODE:PHOENIX 承認だあ!! ! GO! インストォオオル!』


 

「な? お、おやっさんの声でござる!?」

『うわー、おやっさんボケちゃってるでござる……おおい、おやっさん。迅ではなくてシグレでござるよー』


 ヤタガラスは愚かなので録音と生音声の違いに気づいていないが、まあそれも彼女の個性なので特に触れないでやろうじゃないか。そして光とともに何処までも熱く燃え上がるその機体……そう、フェニックスだ。


 流石に不死属性といった出鱈目な仕様は搭載されて無いが……フェニックスとなった彼女は最速の翼を手に入れた。


 燃える翼は炎ではなくあふれる輝力の揺らめき。輝力を最大効率で推進力として利用するフェニックス……この機体に空で追いつける者は最早存在しない。


 ドン、ドンとソニックブームを起こしながらバラメシオンを追い詰める様子は傍目には何が起きているかわからないだろうね。


 というか、カイザーがこの映像を見たらどんな顔をするか少々興味深い。あちらは総合力で勝利を納めたが、こちらは圧倒的な機動力でねじ伏せているわけだよ。見た目的にはこちらの方が華があるからねえ! 負けず嫌いのカイザーがどんな顔をするか! ああ、楽しみだ!


 ……っと、そろそろ私達の訓練が始まるようだね。ふふ、楽しみにしていてくれたまえよ、カイザー、そしてパイロット達よ。私の真の姿……見たらきっと驚くだろうからね。

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