第三百七十五話 白き翼
背中に展開されたフライトユニット――翼――は俺の体色に合わせた白色で、何だかやたらと神々しい。ユニコーンより穏やかな見た目になったような気もするが……これはこれでなかなかにイケメンだ!
カイザーの特徴である額から伸びる一本角が無くなり、何だか寂しい感じはするが、他の機体と合体した際にはきっとバランスが取れたデザインに変わるはずだ。
見た目的には角が無くなり、代わりにフライトユニットが装着されて全体的に体格が良くなった……といった具合では有るのだが、ユニコーンからペガサスに変わったとは言え、元々特化型ではないカイザーなので、飛行可能になって若干出力が上がった感じとしか言えないな。
しかし、そのフライトユニットと出力の上昇こそが今はありがたい。我が物顔で空からの攻撃を繰り返していたバラメシオンに今なら手が届く! それどころか追いつくことさえ可能である。
「見た目はパっとしませんが、単機でシャインカイザーに迫る出力とは……カイザー、立派になりましたね」
「そりゃどうも!」
「でもほんとすごいです! まるで自分の身体が軽くなったかのような感じ……それに今までよりも飛行しやすいというか、シグレちゃんみたいに飛べる感じがして……上手く言えないけれど、強くなりましたね! カイザーさん!」
「う、うむ……!」
こんなことを言えるほど、フワフワとした雑談が出来るほど我々に余裕が生まれている。これこそが機体性能アップの効果であり、新たな力がかつての強敵に勝るという裏付けになっているのだ。
とは言え、特に武装が増えた様子はないため、レニーは力任せの空中戦――カイザブレードを用いた近接戦を挑んでいる。哀れなのはバラメシオンだ。剣を振り回しながら距離を詰めるこちらに戸惑ってるのか、どうも動きがおかしい。
それでもなんとか応戦しようとミサイルで弾幕を張るが……レニーの出鱈目な反応速度がこの機体とうまく噛み合ってそれをすべて避けきってしまう。
「もー! そんなでっかい弾をどんどん撃ってずっこいぞ! なんでかガントレットは使えないしこっちにはリボルバーしか無いってのに!」
そう。このシミュレーションはキリンとフィアールカが作り出したものであり、現在レニーが操っているこの後継機体の俺もまた、その2機が作り出したデータに過ぎない。
したがって、彼女達のデータには存在していないオリジナル武器であるガントレットは召喚不可能なのである。レニーが慣れ親しんでいる飛び道具が潰されているため、ミサイルの弾幕も相まってかなり苛ついているのがわかる。
そしてとうとうそれは限界を超えた。
「あーもう! あったまきた! ガントレットは使えないし、リボルバーは当たらないし! 飛び道具が無いなら作っちゃうもんね! うおおおおおりゃあああああ!!」
「「な!?」」
スミレと俺の声がハモる。もしかすればバラメシオンに乗り込む仮想ノワールの声もハモっていたかもしれない……。レニーが雄叫びとともに怒りを込めてカイザーブレードを投擲したのである。
それが当たることはなかったが、バラメシオンはAIながらも驚き、戸惑ったようで、動きにスキが生まれた。そしてブレードを追う様に飛翔していたレニーの拳が、カイザーアルティメットの拳がバラメシオンの胴体に突き刺さる。
地上に向けて叩きつけられるように拳を喰らったバラメシオンは、当たり所が悪かったのか、フライトユニットで浮上すること無く落下していく。
「うおおおおお! カイザーブレード再召喚! 今度は! 当ててやるぞおおおおおお!!!」
再度手の中にカイザーブレードを呼び出したレニーはそれを構え、落下中のバラメシオンを追う。バランスを崩し、空気抵抗を受けながら落下するそれに、我々が追いつくのは容易い。
ブレードを前方に構え、落下エネルギーと飛行ユニットの推力を全力で使ってそのままバラメシオンを貫き、地上へと縫い付けてしまった。
まるでアニメのような……といったらなんだが、現実離れをした機動でそこから退避し、背中でバラメシオンの機体から発せられた爆風を受けるトドメ演出までバッチリと決めてしまっている……。
「……お、おおお……やるじゃないかレニー。今のは中々かっこよかったぞ!」
「そんな事考えてる余裕なんてありませんでしたけどね! ああ、もう! そんなにかっこいいならあたしもちゃんとみたかった! ねえ、お姉ちゃん後で今の映像見せてくださいね」
「ええ、キリンに頼んでみましょう」
さて、きっとこれで訓練は終わりだろう。ユニコーンをモデルとした俺はペガサスとなった。オルトロスはなんとなく想像がつくというか……バラされているから知っているが、ウロボロスやヤタガラスはどんな姿になっているのだろうな。
恐らく俺やオルトロス同様に近い種類の幻獣モチーフに変化しているのではないかと思うんだよな。
そして予想通り、バラメシオンを撃退するまでがシミュレーション訓練だったようで、間もなくしてフィアールカから『おつかれなの。しばらく懐かしの景色の中駆けずり回ると良いの』と通信が届いた。
ということで、取り敢えず暫くの間、規定時間が終了するまでの間、俺達は自由時間ということになった。とは言っても、街をぶらぶら堪能出来るというわけではない。
この時間を使って、じっくりと新たな身体を試しなさいというわけなのだ。
「あ! そうだ。 ねね、カイザーさん。お馬の姿もきっと変わってるんだよね」
「そうだな。そのまんま……おっと、俺が先に言ってしまったらダメだな。まあ試してみろ。きっと驚くぞ」
「ええと、ぺがさすっていうんでしたっけ……チェエエエンジカイザァア! モード! ペガサスッッ!!」
わざわざモードチェンジのセリフを言いながら変形ボタンをタップする……が、中に乗ったまま変形してしまうと肉眼で見えないではないか。せっかくなら最初の変形は肉眼で見て欲しい。
なので一度こちらでキャンセルをし、レニーを外に降ろしてから改めて変形をしてみせることにした。
「あーもう、折角決めたのにー! ちぇー!」
「乗ったままだとレニーが見れないではないか」
「そうなんだけどさ! じゃ、お願いねカイザーさん」
レニーからやや距離を取り、変形を始める。感覚というか、どちらにせよ馬モチーフなので体感的にはたいしてかわらんのだが、目をまんまるにしたレニーが両手を上げて歓声を上げている。
「わあ! すごい! すごいよカイザーさん! 綺麗な……とっても綺麗な翼が生えてる! 前の角が生えたお馬も良かったけど、翼のお馬はもっと素敵!」
外部カメラを使って自分の姿を映してみた。ああ、これは……なかなかに。ロボ形態時には機械的なフライトユニットといった具合だった翼がペガサス形態になると白鳥の翼のような……なんというかガンガムで見たような……そんな感じのいかにも翼らしい翼になっている。
これがそのままロボ形態時にも生えていたらモロにWガンガムの後継機のようにになってしまうが、成る程そこはロボと馬で形状を変えてきたというわけか。これはこれで中々に好みである。
「これは……もう少し身体を縮ませて生身の人間を乗せられるようにするとかなりモテるんじゃないでしょうか、カイザー」
「だろうね。まあ、乗り物としてだけれども」
「ふふ、馬で普通にモテてもしょうもないでしょうに」
……わかってるなら言うなよな! はあ、しかし尚更他の皆が気になってきた。さあ、早く俺にも魅せてくれ! そして新たな合体を……! きっと今ならキリンとも合体出来るはずだ。ああ、楽しみで楽しみで仕方がないよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます