第三百七十四話 生まれ変わる白馬
およそ3km先に見える街並みはどこか懐かしい日本……のような建物が並んでいる。一応日本と言えば日本なのだが、『出崎市日の出町』という架空の港町である。
有名どころを合体させたような謎のコンビニやファミレスが建っていたり、やたら高い山の上に凸型の高校が建っていたり、田舎の港町にしては不釣り合いな程に立派な6車線道路が海沿いに存在していたりと、この出鱈目な風景……アニメで見た街並みそのものだな!
「凄い……カイザーさんが見せてくれたアニメで見たまんまです……!」
何処か興奮したレニーがキョロキョロと何かを探している。
「どうした? 何か妙な物でも見えたのか?」
「いえ、その……。"知ってる人"でも歩いていないかな……って」
知ってる人……ああ、なるほど。VR訓練は一度洞窟内で体験しているため、レニーもここが架空の世界である事は理解している。しかし、それがアニメの世界なのであれば、その作中の人物が歩いているのでは無いか、そんな期待をして探しているわけだな。
なるほど、それは確かに居たら面白い……が、残念ながら人の気配は一切無い。あくまでも地形や建物が再現されているだけで、住人達は存在していないようだ……ちょっぴり残念だな。竜也達がよく戦闘後に寄っていたラーメン屋のおっちゃんとか歩いてたら面白かったんだけどな……。
ゴーストタウンのように人気が無い寂しい街を歩く。謎の6車線道路のお陰でとても歩きやすい……。
というか……念のために何度か調べているが、やはり僚機達とは隔離され、単独でこの場所に送られているようだ。なるほど、それぞれ単体で新たな力に慣れておけという事なのだな。
しかし、今の俺、つまりはカイザーの体は慣れ親しんだ従来通りの物である。降り立ったらもう新型になっているかと思ったので少々拍子抜けだ。
まあ、きっとこれにも意味があるのだろうとアニメの世界を堪能していると……。
「レニー、カイザー。3時の方向に敵影。これは……データベースに一致する機体を確認。敵対勢力ジャマリオンのバラメシオンです」
バラメシオン……だと……?
「わ、わああああ! カイザーさん! カイザーさん! バラメシオンですよ! バラメシオン! ジャマリオンの幹部、ノワールの専用機! バラメシオン! うわあ、紅い! 紅いし飛んでますよ! ほら! ほら! 紅いです!」
「ああ、紅いな……。それに飛んでいるな! 俺も興奮してはしゃぎたいところだがレニー、どうやらバラメシオンが俺達の訓練相手……倒すべき相手のようだぞ」
「バラメシオン、来ます」
ジャマリオンのノワール。アニメシャインカイザーに登場するウェーブがかかったワインレッドのロングヘアで色気を振りまく女幹部である。男性視聴者受けをするヴィジュアルと、自在に空を飛びシャインカイザーを苦しめたバラメシオンの機体デザインが中々かっこよかったことから結構人気があったのを覚えている。
バラメシオン……あれは確か熱い空中戦の末、なんとか倒したと記憶しているのだが……。
作中通り、腰のミサイルランチャーからミサイルを複数発射し、弾幕を盾にするように槍を構えてこちらに向かって急降下攻撃を仕掛けてきた。
シャインカイザーであれば、合体した状態であれば原作同様に飛翔して躱し、反撃の機会をうかがうのだが……。
「うー! ずっこい! ずっこいぞー!」
当然、今の状態では飛ぶことは出来ない。なのでレニーはギリギリまでミサイルを引きつけ左右に飛んで避ける……が、それでなんとかなったのはミサイルだけだ。
「きゃああああ!」
ミサイルと共に接近していたバラメシオンの槍で横薙ぎにされてしまった。言葉にすればなんてことは無いコンビネーションなのだが、ミサイルの軌道がいやらしく、槍を避ける余裕が無いのだ。以前のレニーであれば何発かミサイルの被弾も許していただろうから、これでも十分成長していると言えるが、いかんせん機体性能で負けている。
「ええい! もう! 降りてきなよ!」
転がるように体を起こしつつ、リボルバーを召喚し、こちらからも弾幕をはって応戦するが、高速で飛行するバラメシオンにはかすりもしなければ、気にもされていない。ならばと、相手が近接攻撃を仕掛けてきたタイミングでカウンターを狙うも、それはたやすく受け流され、逆に追撃を受ける始末だ。
相手はモブ兵士が乗る量産機では無く、幹部が乗る専用機……シャインカイザーで戦ってなんとか勝てた相手なんだ。飛行機能が使えないというハンデもあるが、それ以上に出力差、そしてパイロットの実力差でも大きくこちらが劣っている。こちらの攻撃は一切通じないけれど、あちらの攻撃はじわじわとこちらを削り、気付けば機体はかなりのダメージを受けていた。
「むむむ……流石の私も妙案が浮かびません。訓練で無ければ、実戦であれば撤退を進言しているところですよ……」
だよなあ。明らかに分が悪い。これが実戦であれば仲間と合流すべく一時撤退し、シャインカイザーとなった後に改めて対応するのだが、生憎ここに仲間はいないのだ。
建物を盾代わりにどうにか応戦するが……このままではじり貧だな……。
そしてスミレからある意味我々への最終通告、敗北宣言と等しい報告が入った。
「バラメシオンから多数の熱源反応。バラメシオンフルバーストモードと推測。適切な回避ルートは……現在の機体にはありません……」
「くそ! このまま終わってしまうのか! やはりバラメシオン相手に俺達だけじゃ不足なのか!?」
「ううー! 諦めたくないけど! 諦めたく無いけどお!」
バラメシオンフルバースト、全弾射出を前にしてこの傷ついた体ではもうどうすることも出来ない。訓練は敗北で終わる、そう思ったのだが……。
『MODE:KAISER-ULTIMATE承認だ! 待たせたな! カイザー! 竜也! 黒森重工の最新技術! 堪能してくれや! 行くぞスミレ! 受け取りやがれ! GO! インストォオオル!』
「「おやっさん!?」」
俺とレニーの声がハモる。この声は……おやっさんこと、黒森重工の所長、榊原十蔵の声だ。パイロットの名前をレニーでは無く、竜也と呼んでいるあたりこれはアニメの音声をそのまま使っている……というか、キリンかフィアールカのデータを元に生成したものなのだろう。
そしておやっさんからの強制通信によるかけ声が終わった瞬間、視界がまばゆく輝きはじめた。ああ、これは……アニメお約束の『謎の変身時空』だ。どういう技術かわからないが傷ついた機体を一瞬で直しつつ、新装備へ一瞬で組み替えてしまうシーン。合体バンクとか変型バンクとか言われるアレと同等の物だな。
ごく稀に例外はあるが……多くの場合は敵の攻撃が止み、既に発射されている筈の敵弾すら空気を読んで待っていてくれるあの時空である。
「カイザー……これは……新たなデータが……インストールされてきます……」
「うむ……! 今なら理解出来るぞ! そうか、それで俺達の訓練相手にバラメシオンがチョイスされたわけだな……」
パーツ換装と共にアップデートが成されたおかげで、この新しい機体の情報が得られた。ああ、生まれ変わったこの体で何が出来るのか全て理解できる、できるぞ!
「カイザー、レニー。今なら回避可能です」
「ああ、これなら……いける!」
「え? ええ? えええ? なに? どうすれば? え?」
一人事情がわからないレニーが慌てている。だが、案ずるなレニーよ。全て俺に任せて欲しい。
「話しは後だ! まずは避けるぞ! レニー、申し訳無いがしばしコントロールを俺に預けてくれ!」
「は、はい! カイザーさん!」
「敵弾到達まで残り5秒……!」
「ゆくぞ! レニー! スミレ!」
轟音と共に多数のミサイルが着弾する。それは周囲の建物を破壊し尽くし、もうもうと黒い煙を周囲に漂わせた。しかし……俺達は……健在だ!
俺の額からツノは消えてしまったが……代わりに得た物がある。
「ああ……! カ、カイザーさん! 飛んでる……んですか……?」
「そうだ! レニー! ユニコーンのツノは無くなってしまったが、今の俺にはペガサスの翼がある!」
「新たな体になっても結局ウマなんですね、カイザーは」
そう、ユニコーンはペガサスになり、天を翔る新たな力を得た。全身からみなぎるこの輝力! シャインカイザーに劣らぬこの輝力ならば、天を翔ける事ができる今ならば……!
「レニー! スミレ! やれるぞ! 敗北寸前からの逆転劇! ベタだが燃える展開だ! コントロールを返す。後は頼んだぞ、レニー!」
「はい! カイザーさん! こっちも飛べるなら……! 負けません!」
そして俺たちのターンが幕を開けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます