第三百七十話 炉

 ポーラで出逢った紫色のこぐま、フィアールカ。このクマは無人基地の司令官であり、管理人だということなんだけど、劇場版で追加された新キャラだということで、キリン以外のメンバーには初お披露目となるわけです。


 どうやらこちらの基地内にクマが居るらしいと、キリンとのやりとりで聞いているパイロット達から困惑の声が上がっているけれど、姿を見ればその混乱も収まる……いや、また別の混乱が生じるだろうね……。


 私としてもフィアールカと皆の顔合わせをしたいところなのだけども、まずはこの基地をなんとかしなければいけない。出力が下がっている輝力炉を直し、基地を復活させなければこの基地の機能は使えないままだからね。


「フィアールカ、輝力炉がこうなっている原因に心当たりは有る?」


「ううん……私も起きたばかりだからなあ……ん、ログを見てみる……んん!?」


 フィアールカが両手を上げ、驚きの構えをとって身体をのけぞらせる。


「ど、どうしたの? 何かわかった!?」

「びっくりなの。私達、283年前に地球からこちらに転移してきてたみたい! カイザー達に比べたら大分後だけど……なるほどなのよ!」


『へええ! 偶然だね! 私も凡そ283年前にこちらの世界に転移してきたんだよ。私の場合は地上にだけどね。ううん、私とフィアールカの仲だ、一緒に転移したと考えて間違いないね』


「うへえ……。まあ、キリンはどうでもいいとして……ログを見るとね、なんだか意図的に機能を止められていたみたいなの」


「意図的に……?」

「そうなの。私達がこちらにやってきて今日まで眠らされていたみたいなの。本部もないのに一体誰がなんの権限でそんな事をやったのかわからないの! そのせいで輝力炉も虫の息なの!」


……神様だ……絶対神様だこれ。もしもフィアールカがこちらに転移後も通常可動を続けていた場合、どうなっていたかと言えば……恐らく位置情報のエラーログから現状について、つまりは異世界への転移をしていることに気がついたんじゃないかな。


 そしてより状況を知るために地上にスキャンをかけて調査をしつつ、私達カイザーチームの存在を探ったはず。

 当時私は眠りについていたけれど、スミレは目覚めていたし、ヤタガラスやキリンは五体満足で健在、ウロボロスは機体こそ眠っていたけれど、AI自体は義体に入って起動していたからね、きっと応答くらいは出来たんじゃないかな。


 オルトロスと私はちょっと反応できなかったと思うけど、それでもその当時にフィアールカがこちらにコンタクトを取ってきていたら、ポーラの力を借りることが出来ていたら、今とは全く違う状況になっていたことは間違いないよ。


 それは恐らく、神様が想定していた望む結果に繋がらない……例えば私達がダークネスに勝利してしまって、フィオラやラムレットとの出会いが無くなって……今の状況にたどり着けなくなってしまったかもしれない。


 もしそうなっていたら、キリンと出会うこともなく、以前の状態のままでルクルゥシアとの最終決戦に望む事になっていただろうな。


 ポーラとのリンクが出来れば数々のトンデモ装備を使用することができる。きっと私達はそれを頼りに最終決戦に挑むと思う。


 神様がその流れを良しとしなかったのは……きっとそれではルクルァシアに敵わないからではなかろうか。


 こちらに来ているルクルァシアもまた、キリンやフィアールカと同様、劇場版の世界からやってきた存在だ。武器だけ立派でも旧型の私達では歯が立たなかったのかもしれないし、そもそも……このポーラは劇場版のポーラだから、搭載されている武器はパワーアップ前の私達には装備できない可能性だってある。


 だからこそ、ポーラは一時的に封じる必要があった。無いものとして隠す必要があった。グランシャイナーもきっと同じ理由で隠していたのかもしれないね。


 だからキリンと同時にこちらの世界に送り込まれた後、フィアールカは眠らされ、ポーラごと封印されていたと……。


 ……多分これが正解だと思う。あの神様ならやりかねない。そしてしれっとそれらしい演出を加えるために過去の時代に干渉してさ、歴史の流れに影響が出ない物として、つまりは巫女の一族にのみ伝わる門外不出の『言葉』としてやたら遠回りな方法を使って私達への贈り物としたんだろうな……。


 まったくもうー……あの神様はさぁ……いやきっと助かったんだろうけどね。

 なんか、なんかだよ!


「理由はともかくとして、まずは現状をなんとかしましょう」


 スミレがもっともなことを言い、停滞仕掛けていた場の空気が再び動き始めた。そうだ、神様の話は置いといて、まずは輝力炉だよ。


「カイザー達が来なかったら、私が目覚めてなかったらこの基地は終わりだったの。少なくともあと10日前後程度のゆうよしか無かったはずなの」


「……そこまで不味い状況なのか……」


 今更ながらことの重大さに気づいた私にスミレが呆れた声で説明をしてくれた。


「……カイザー、この世界にも自然由来の輝力があるのは勿論ご存知ですよね?」


「うん。流石にそれは知ってるよ。いくら輝力炉が無限にエネルギーを作り出すとは言え、その鍵となる輝力が周りになければ何も出来ないからね」


「はい。貴方が眠っている間にも当然それは吸収され続けていて、その結果として……まあ、私がやらかし……てしまったわけですが……」


「嫌な事件だったね」


「はい……ごほん。しかし、この宇宙空間においてはそうではありません。輝力炉を回すだけの触媒――輝力――を得る方法が極端に限られています」


「そ。宇宙空間において輝力をもらうためには、おひさまの力を借りる必要があるの」


「ああ! 確か帆のようなものを立てて輝力をチャージするんだったね! 見たこと有るぞ!」


「ですね。しかし、ポーラの管理ロボット達がフィアールカと共に眠りに付いていたということは……?」


「……誰もその操作をするものが居ない……か……」


「幸い基地が異常を検知してスリープモードに入っていたからなんとかなったの。というか輝力の吸収も自動でシステムがやってくれていればこんなことにはなってなかったの」


「じゃあ、帆を立てれば今後は自力で充填可能ってわけだね」


「ところがそうは簡単に行かないの。帆を立てるエネルギーを生み出せるほど輝力がのこってないの……詰んだの……」


「……まじか」

「マジなの詰んだの……」


 がっくりと肩を落とすクマと同じポーズで漂っていると、スミレの大きなため息が聞こえてきた。


「カイザーはともかく、フィアールカ、貴方はここの管理者でしょう? もう少ししっかりとしなさい」

「そんな事を言われても困るの……。無理なものは無理なの……」


「だから……もう少し状況を見て物事を考えるようにしなさいと言っているのです。いいですか、フィアールカ。私達がどうやってここに来たのか忘れましたか? 私達のデータを見ましたよね?」


「……あっ! グランシャイナーなの!」


「ええ、それにその中には立派な輝力炉を積んだ機体がゴロゴロとしていますし、パイロット達もたくさん乗り込んでいます」


「……ということは輝力のチャージができるの!」


「……というか、私達がここに居る時点で気づいて欲しいのですが、既にチャージは始まっています……艦内の生態維持システムが再起動し始めてるのに気づきませんか?」

「あっ!」

 

 でしたでした。ついついフィアールカにあわせてアワアワしちゃったけど、既に充填中なんだよね。このまま充填を続ければ問題なく全ての機能が使えるようになるだろうし、そうなれば自力で充填だって可能になるわけだ。


 しかし……レニー達の村についてからまだ1日もたっていないのに、バタバタとろくに事情も説明されないまま気づけば宇宙だよ? 一体どんだけ展開早いんだよ。


 この後どうなるか、何が起こるのかは全くわからない。とりあえず悪いことにはならないだろうけど、あんまりいい予感がしないなあ。

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